丗伍ノ嗣 妖(四)
『くらえ!!』
獅子の頭らしきアヤカシが号令をかけると一気に高宗たちを襲い掛かろうとした
その瞬間、どこからともなく矢が次から次へと飛んできたのだ。
その矢は次から次へとアヤカシたちの体を貫いていく。
なにが起こっているのかわからずに、一瞬高宗も万寿も呆然としていた。
『なにやつ!?』
頭らしき獅子は、矢の放たれた方向へと視線を向けた
「為朝様!!」
「え?」
万寿は、高宗の視線の先へと顔を向けた
すると、いつのまにか大男がこちらへと近づいてくるのがみえた。
『お主は!?源氏のものか!?』
獅子は言い放った
「ほほお。俺を知っているのか?妖よ」
八郎は獅子を見る
頭であろう獅子とその子分であろう獅子たちは、高宗たちから八郎を睥睨する。
『くくくく。これはよい。まさか、源氏の血を引くものと出会えるとわな、その血、食らうてやる!』
そう言い放つと、獅子は八郎へと襲い掛かった。
「為朝さま!!」
「おろかだ!」
しかし、八郎はその攻撃を避けることもなく、その手で獅子の頭を捕らえてしまった。
『なにを?』
獅子は驚愕し、焦燥の色を露にする。
「俺を食らう?馬鹿か。俺を食らおうとは百年早い」
八郎は、獅子を地面に投げつけた
獅子は目を大きく見開いたまま、動かなくなってしまった。
それを見た子分らしき獅子たちは、恐れをなしたのは、いずこへと消え去ってしまった
残された獅子は、しばらくしたのちに、目線のみを八郎へと向けた。
「ほほお。まだ、なにかいいたいのか?妖よ」
八郎はひざまずくとぐったりと倒れているアヤカシを見た。
『源氏の。源氏のもの。しかし、お主は……』
妖は目を細めた。その視線は、八郎のなにかを見極めようとしているかのようだった。
『お主はこの日ノ本の行く末に必要ない。たとえ、絶対的な力をもったとしても、お主にはこの日ノ本を統一することはできぬ』
「はあ?」
八郎は、獅子の言っている意味が理解できないようすで、困惑する。
だが、やがて口元に笑みを浮かべる。
「そんなもの知ったことではない。俺はそんなもの望んではいないし、天下を取るつもりもない。都では、源氏の一族と平家の一族が争っているがな。俺はそれに干渉するつもりはないのでな。」
『なにをいうか、小僧。すでに干渉しているではないか』
「なに?」
『そうでなければ、お主はこの地にはおらぬ。そうでなければ、お主は鎮西という名を与えられてはおらぬはずだ!! そうであろう? 源氏の御曹司よ』
八郎は顔をしかめた。
「為朝様?」
『くくくく。図星のようだな。どちらにせよ。お主は、勝てぬのだよ。お主は負ける』
「負ける? 平家にか?」
『さあな。それはお主が確かめるとよい』
それだけを告げると、獅子は目を閉じて、灰になって消え去った。
八郎はしばらくの間、獅子が消えた場所を神妙に見つめていた。
いつのまにか、その隣には心配そうな顔をした山男の姿があった。
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