廿玖 娘ノ決意

「母様。私は、家を再建したいのです」


その言葉に母親は、はっと娘の顔を見た。


「万寿?」

「私は、松尾の家を再建したいのです。父様はかつて、後藤様に最も頼られた家臣でした。けれど、見に覚えのない罪により解任され、家は落ちぶれました。

そのうち、父様はなくなり、母様もお体を悪くされた。そして……」


万寿は小太郎のほうへと視線を向ける。


「私は、この子の未来を守りたい」


小太郎はきょとんとして姉の姿を見つめる。


「この子に未来を託したい」

「姉上?」


万寿は、その言葉の意味を理解できずに自分を見上げる小太郎にやさしく微笑んだ。


「姉さま?」

「小太郎。あなたが、家を再建するのですよ。そして、母様のことを頼みましたよ」

「姉さま!!」

「万寿!!」


二人は彼女の決意をゆがめようと心みた

しかし、彼女の決意が曲げられることはなかった。

そ の眼差しは、ひたすらまっすぐに見つめていた


彼女にとってはなによりも家族が大事。家族の未来の為ならば、自分の命さえも差し出す覚悟でいた。

特に父が亡くなり、母も病気になってからというもの、幼い弟と母のことを優先し、自分のことのど二の次にしてきた。今回のことについても同じだ。

その日暮らしの日々を脱虚し、母と弟だけでも楽な暮らしをさせたい。もしかなうならば、落ちぶれた家の再婚を成し遂げたい。

そういう思いは、御触れをみたとき、さらに高まった。

 もちろん、彼女だけの思いならば、生贄になろうとさえ考えなかっただろう。

 知っているからだ。

 弟の小太郎が母や姉たちに隠れてひっそりと剣の稽古をしていた。もちろん、刀は売りさばいてしまって、一本もない。そのかわりに木を刀に見立てて練習を毎晩のようにしていた。彼は隠していたつもりだが、母も姉もわかっていた。あえて、知っていることを黙っていたのだ。

 いつかは、ちゃんとした刀を握らせたい。彼が望むように、父のような武士へと成らせたい。

 そんな想いもあった。



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