拾玖ノ参 旅立(三)
八郎が勘当されたのは、すぐあとのことだった。
「為朝。とうとう、やってしまったのか」
「兄上……」
乱暴が目に余るという理由で、京を発つことを言い渡されたた八郎の元を義朝が尋ねてきたのは、出立する前日の夜のこと。
「まあ、私は、これをただの勘当とは思ってはおらぬ」
「それは、どういうことですか?」
「気づかぬか。本当におぬしは体力だけだなあ」
「兄上、俺をバカにしないでください」
「本当のことではないか。まったく、もう少し知恵をつけないとこの先、やってはいけぬぞ。為朝よ。父の思惑を感じろ」
八郎は、怪訝な顔をする。まったく理解していないのか。いや、それも父の思惑なのかもしれない。
「お前は、おとなしくしておける人間ではない。ならば、豊後へいっても、お前らしく生きろ。そういうことだ」
八郎はようやく理解した。
自分らしく生きる。
それこそが源家のためになること。
そういうことだったのかと、父の愛情を感じることができた。
「八郎君!!」
出立の日、九郎が慌てて、八郎へと駆け寄ってきた。
「よお、家李ではないか。」
「どういうことなのですか?おひとりで旅立つというのは?」
「仕方あるまい、俺は、父に追放されたのだ。父に追放されたということは、
源氏の一族からの追放だ。従者がいてはおかしいではないか。それじゃあ、達者でな。家李」
そういって、八郎は、自分の暮らしてきた京を一人で旅立とうとすると、家李が目の前に立ちはだかる
「家李?」
「八郎君!僕も連れて行ってください!」
「なにをいっておる?」
「八郎君!あなたはお忘れになったのですか?いつか、京を去ることがあるならば、僕も一緒にゆくと約束してしたではありませんか」
家李のまっすぐな眼差しを八郎はそらすことができなかった。
「お願いいたします!僕をお供にしてください!!」
家李が頭をさげる。
しばしの沈黙ののちに、八郎が笑い始めた。
「八郎君!笑わないでください!」
「すまぬ。すまぬ。しかし、お主は本当に、俺に忠実だな」
「僕は、あなたの乳母子です。常にともにあるのが、僕の務め」
「家李」
「だから、僕は、あなたから、離れたくありません。いつも、あなたのそばにいってお守りしたいと思っております。」
「家李。だから、求婚は、女子にしろ。俺はそういう趣味はないぞ。」
「違います!!」
家李は顔を赤くした。
其の様子が滑稽に思えたのは、八郎は再び笑い始める。
「八郎君!!」
「わかった。旅支度をして・・」
「それはすんでおります。」
そういわれてみると、彼の服装も旅の服装をまとっている。
「用意周到だな。」
「当たり前です。そのために来たのですから」
「京の外はどうなっておるのかわからぬぞ」
「承知」
「もしかしたら、過酷な旅になるかもしれぬぞ」
「承知」
「では、行こう。」
「承知いたしました」
そして、二人の少年は京を後にした。
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