拾嗣ノ弐 大蛇ノ下僕(二)
「八郎君。あれはなんですか?」
「おれがしるか。どうやら、あれが“大蛇ノ下僕”というやつか……」
「どれ、与次。あれを倒してみるか?」
与次は八郎を振り返った。
「むろん、おれも協力するさ」
大蛇ノ下僕たちが体をゆらゆらとさせながら、こちらへと近づいてくる。
八郎は、弓矢を家李に渡すと、腰に備えていた刀を握り、鞘から引き抜く。
「八郎君……」
「心配せずともよい。あのような雑魚。これだけで十分だ」
八郎は刀をギラつかせながら、大蛇ノ下僕たちのほうへと近づいていく。高宗やその家臣も身構えるが、紀平治は静止させた。
「おい、早くこい。与次」
「はっはい」
与次は、槍を握りしめると、八郎のとなりについた。その直後、ゆっくりと歩んでいたはずの大蛇ノ下僕たちは、端を切ったような八郎たちに襲い掛かる。
「来たぞ」
八郎は、何のためらいもなく、刀を振りあげ、次々と襲い来る敵を切っていく。
すると、たちまち溶けるように消えていく。
戸惑っていた与次郎は意を決すると、持たされた槍を必死の振り回し、自分に向かってくる妖怪たちを切り裂いていった。
「ほほお。やるではないか」
「おいも鍛錬をつみましたから……」
独学だろう。かなり荒っぽく全く型ができていないのだが、見事な槍裁きだと八郎は感嘆した。筋はいい。
訓練したら、きっと良い槍使いになれるだろうと八郎は確信した。
「しかし、キリがないなあ」
八郎が言うように、いくら切っても、次々と湧いてくる“大蛇ノ下僕”
八郎と与次が向かった田畑だけではない。いつの間にか、家李たちの背後からも出現し、あっという間に家臣たちの体におぶさっていく。その大きな口から生えた歯が、家臣たちの肩に食い込む。血が流れ、絶命するのまでにさほど時間は要さなかった。
「家李。弓を……」
家李は、さきほど預かった弓を八郎になげつけると 同時に刀を引き抜いて、自分たちに向かってくる大蛇ノ僕と応戦する。
高宗もまた刀を構え、それに倣って家臣たちもかまえると、襲い来る敵を切り倒した。いくら切り倒しても、次々と沸き上がる敵たち。
「くそ、どこから湧いてくる?」
「どうしますか?八郎君」
いつの間にか、背中には家李がいた。与次は八郎から少し離れた場所で大蛇ノ下僕たちを撃退している。
「それは無論。与次を家臣にくわえるさ」
「そういう話じゃないでしょ。空気読んでくださいよ」
「わかっておる。大丈夫だ。ずいぶんと減った」
八郎にそう言われて周囲を見ると、パッと見て百は超えていただろう大蛇ノ下僕の姿が減っていく。
「そろそろ、本命が出てくれると、うありがたいのだが……。あそこにいくしかないな。家李。紀平治。それと与次。いくぞ」
八郎は突然、唐船山のほうへと走り出した。
「為朝様」
「高宗。ここを頼む。俺たちは、大蛇の元へ向かう。与次、案内せよ」
「はい。こちらです」
与次は槍を握り締めたまま、先頭になって山へと向かう。その間も大蛇ノ下僕たちが次々と出現したが、八郎たちによって次々と撃退されていた。
そして、山の中へと入っていく。
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