拾参ノ弐 松浦ノ与次(二)
向かうのは、八郎と家李、紀平治の三人。そして、高宗とその配下たち。人数的には五十人もいない小規模の集団。
そういうわけで、為朝――八郎の家臣は、家李、紀平治の二人だけである。この三人が、高宗と数人の家臣とともに向かうことになった。
この人数では心もとない。
かといって、それ以上の人員を導入できるほどの力は、後藤家にはなかった。これが平家や源家の宗家ならばわけが違う。おそらくもっと大規模に人を動かすことができるだろう。
家李は前を進む八郎の背中を見た。
彼は源家の御曹司。
それにも関わらず、彼の呼びかけで集まる忠臣はあまりにも少ない。この筑後九国へやってきて、付き従うようになったものたちが二十数名。今回の件で集まってくれるとは思うが、いまここにいるのは家李と紀平治ぐらい。
(彼らは間に合うのか)
しかも、彼らは自由人。場所もバラバラなうえに悪七別当のように定まった土地を持たないものもいる。
だから、全員に連絡がまわって集まるまでに時間はかかるだろう。
「その前に俺が倒しているかもしれない」
なんて八郎は軽口をたたいているが、なにせ大蛇。人とは違う大蛇だ。もしそれが“百鬼”ならばどうするつもりなのだろうか。
「百鬼?そんなの弱いものの集団じゃないか」
「それは百鬼夜行。名前は似ているが、まったく違う」
「夜行が消えただけではないか。むしろ、百鬼夜行よりも弱いと見た」
京の都にいたころ、陰陽寮にいた阿部家の末弟とそのような話をしていた。
彼は今頃なにをしているのだろうか。京の都をたってから一度もあっていない。
「その逆だ。『妖』の中でも、最も高い霊力をもつ者たちだ。神にも等しい」
「ああ、俺には関係ないな。それは、陰陽師の領域だ。俺はただの武士だからな」
関係ないといいつつも、八郎はちゃっかり陰陽師の領域に首を突っ込んでいる。それゆえに陰陽師からも煙たがれているのはいうまでもない。
その中で、阿部の末弟は、逆に八郎に興味を持ち、妖のことを教えてくれていた。その面談につねに付き添っていたのだが、霊力が皆無な家李にはさっぱり理解できない話ばかりだった。
けど、友人の少ない八郎にとってはよき友であることは間違いない。そういう点では、この安部家の末弟というのは心強い。
「八郎君」
「どうした?」
「あの……泰春さまはお元気でしょうか?」
「ああ、あの出来損ない陰陽師か」
「そういう言い草はないと思いますよ」
「それは悪い。そういえば、ここに来てから、あやつと連絡とっておらぬ。今回の件が片付いたら文でもよこすとするか」
「そうなさいませ」
そんな会話をしているうちに、太陽はすっかり南の空高く輝いていた。
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