拾参ノ壱 松浦ノ与次(一)
八郎たちが唐船の里へ出立したのは、まだ日の登らない薄暗いときだった。
そう決めたのは、八郎だ。
まだ、家臣たちが全員そろったわけではないのだから、急いでいかずともよいのではないかと、家李も紀平治も思ってはいたのだが、すでに“大蛇”のとりこになっている八郎が耳を貸すはずがない。
それに後藤親子は、早く事態を解決したいという気持ちが強いゆえに、八郎の提案に異論を唱えるはずもなく、むしろ歓迎した。
ゆえに家李たちには説得するすべを持ちあわせてはいない。
そんな不服そうな顔をしている家李たちのことなど気づきもせずに、八郎はまだみぬ”大蛇”というものへの思いで胸を弾ませていていた。
さて、どのようなもので、どれほどの力をもつのか。
どんなふうに自分を楽しませてくれるのか。
それを考えるだけでも、まるで恋人に会いに行くような心地になり、さらに期待を膨らませる。
「案内は私がします。参りましょう」
準備を済ませると、八郎たちは、高宗や彼の家臣たちに続いて後藤助明邸から出立した。
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