拾ノ参 前夜(三)



 夕餉を終える八郎は、家李たちにはとりあえず部屋のほうへ戻るように言うと、そのまま一人、忠国の元へと向かった。

 あたりはすでに暗い。

 それがゆえに、部屋の中も薄暗く、ほのかな光だけが八郎と忠国の顔を照らしている

「為朝殿は、行く気でいるのですか?」

 しばらくの沈黙の後に忠国が口を開いた。

「むろん、そのつもりだ。いま、肥前国では大蛇がはびこっているとのこと。しかも、其の悪行の範囲も広がっている。放っておけば、肥前国のみならず、阿蘇や豊後。もしかすれば、国までもが被害を及ぼすかもしれぬ」

「それは、大げさなことではありませんか?」

 忠国は、目を細めながらつぶやいた。

「大げさなことではない。可能性は否定できないと申しておるのだ」

「だから、参るのですね」

「そういうことだ」

 忠邦はため息を漏らした。

「しかし、あなたは本当に同じ土地にとどまらぬ男です。せっかく、白縫と契りを結んだというのに……」

「それはすまぬ」

「まあ、あなたのおかげで、荒れくるっていた筑後洲が安定しているのですからな。私としても、肥前の件に関しても気になるところもあります」

 忠国は庭のほうを見る。そこにある池には、弓張り月が水の中に浮かんでいた。

「わかりました。為朝殿、成果を期待しています」

「承知しておる」

 八郎は、にやりと自信ありげな笑みを浮べた。

「それで家臣たちはいかほどに?」

「そうだなあ」

 八郎は自分の考えを述べた。



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