捌ノ参 鶴(三)
弓張りの月は、八郎のいる屋敷にも照らしつけている。
屋敷の住人たちが寝静まったころ、行慈坊は、寝床からスクッと起き上がった。
そのまま戸張から庭のほうへと出ると、弓張りの月を見上げる。すると、月を覆い隠しながら一羽の鶴が庭に降りたった。
行慈坊は、こちらを見つめる鶴のほうに微笑みかけた。
「心配ですか?」
行慈坊は、たずねた。しかし、鶴は、言葉を発するわけでもなく行慈坊を見つめているだけであった。
「大丈夫でしょう。あの方のお噂は、かねてより聞いておりますでしょ?」
もちろん、鶴はなにも答えない。
ただ、見つめているだけ・・・
しかし、行慈坊には、ちゃんと理解していることを知っている。
この鶴は特別なのだ。自分と同じように特殊な存在であることを理解しているのだ。
「それよりも、迎えにいかないのですか?」
行慈坊は、尋ねた
『案ずることはない』
行慈坊の脳裏に直接、声が響き渡る。しかし、彼は決して動揺するわけでもなく、いたって冷静に対応する。
その直接響きわたる女の優美な声が心地よくさえも思えるのだ
『もうすでに式を向わせている。朝には、付くだろう』
やがて、声が途切れた。同時に鶴が再び空へと舞い上がる。
その様子を行慈坊がしばらく眺める。
「やれやれ、」
行慈坊は、肩をすくめたが、再び屋敷の中へと入っていった。
そして、
静かに夜明けが来る。
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