卌嗣 カノ者タチ
「何なのよ。話が違うわ。大蛇どころか」
「おれに聞くな。あの余裕かましているやつにいえ」
八郎の視線の先には、大蛇が一つ目の化け物と対峙している八郎たちを高みの見物でもするかのように空を舞っている。
「こら、てめえ。おじけづきおってからに……」
八郎が毒気を吐きながら、攻めくる一つ目たちを射抜いていく。その傍らでは、家李や白縫たちが各々の武器で応戦していく。
何度も倒してる、どこからともなく湧き出てくる。らちが明かない。
「どうするのよ。本当にあれに近づけないわよ」
「わかっておる。なにか策は……」
「御曹司……」
その時、紀平治が口を開いた。
「そんな深く考えても、近づけませんよ。ならば、強引に行きましょう。せっかく、天をも射貫くその最強の武器と最強の武士がそろっていますからね」
「……。そうだな。あとは任せられるか?」
「はい。もちろん」
紀平治の返事を聞くよりも早く、八郎は今しがたまで握っていた弓を思いっきり、化け物たちに投げつけた。それに驚いたのか、化け物たちが一瞬ひるんだ。八郎は行く手を阻む化け物たちに向かって駆け出すと、その腕力で蹴散らしていく。そのまま大蛇のいる方向とは真逆へ駆け出した。
「ちょっと、八郎。どこ行くの」
「あとは任せた」
「はあ?」
「あっちがあれなら、こっちも高みの見学といくのさ」
「意味が分からないわ」
そういいながらも、白縫は手を止めることなく、槍を振り回していく。
「家李。理解できた?」
「なんとなく……」
「あっそ」
なんか、のけ者にされてない?
白縫は、不満を爆発させるかのように、槍を振り回し、向かい来る敵を次々と倒していく。
「本当に勇ましい姫ですね」
家李のすぐそばで戦っていた高宗の家臣の一人が言った。
「いや、明らかに怒ってますよ」
「そうですか? 家李殿」
「そうですよ。あれは確実に……。姫から少し離れたほうがいいですよ。さもないと……」
「やあ」
家李のほうへと向かって、白縫の槍が降りかかってきた。
「うわああ」
家李は思わず、尻餅をつく。
同時に家李の背後にいた化け物が粉となって消え去った。
彼女が狙ったのは家李ではない。家李に迫っていた敵のほうだ。
「おしゃべりはここまでよ。敵は、まだまだ大量にいるのよ。惚けてないで倒しなさいよ」
「はっはい」
慌てて立ち上がった家李は、刀を振るう。
「そういうことですか」
白縫の行動が一瞬敵を倒すついでに家李を一発殴ろうとしたように見えた。と。咄嗟に家李が倒れたものだから、槍が彼に当たらずに済んだだけにすぎない。その証拠に白縫はひそかに舌打ちしているところが家李の目に確実に写っていた。
「女を怒らせてはなりませんからね」
紀平治の脳裏に浮かぶのは愛する妻の姿だった。
「はははは。腰抜け目。怖気づいてにげおったか」
白縫たちの頭上で大蛇が高々と笑っている。
「八郎を馬鹿にするんじゃないわよ。腰抜けはあんたでしょ」
「白縫姫様。挑発しちゃだめですよ」
「挑発じゃないわよ。事実よ。事実。高みの見物決め込んでいるじゃないの」
「こっちみてますよ。こっち」
立ち上がった家李の声が震えている。それでも、刀裁きが狂うこともなく、次々と化け物を切り裂いていく。
見上げると大蛇が小バカにしたような笑みを浮かべながら白縫を見ている。
「腰抜けとは聞き捨てならぬ。わしが手を下すまでもないだけだ。人間の娘」
「どうかしら」
その間の次々と化け物たちが出現する。
「本当に埒があきませんね」
「紀平治どの。なぜ、そんな流暢なんですか?こんなことくりかえしていたら、体力消耗でぼくらが倒れてしまいますよ」
「確かにそうだ。けど、俺たちはただ、時間稼ぎをすればいいってことさ」
「……」
家李と悪七別当は、紀平治を包囲しようとしている敵を切り裂いていく。
いつの間にか周囲を敵に囲まれ、四人は背中合わせになる。
「間に合いますか?」
「大丈夫さ。あの体力馬鹿に任せておけばな」
「別当殿。御曹司になんてことを」
紀平治は眉間にシワを寄せる。
「八郎君にそんな口を叩けるのは、兄上とあの人ぐらいですよ」
「あの人ってぇのは、あの陰陽師か?」
「まあ、礼儀を知らないのは、八郎君も同じですけどね」
「家李。あんたのほうがよっぽど辛辣な発言してない?」
白縫は、化け物を思いっきり槍で殴りつける。
「そっそんな滅相もないです。あとが怖いから、聞かなかったことにしてください」
家李は刀を横へと振るい、化け物を切り裂く。
「はいはい。とにかく、これどうにかしましょう」
紀平治は手に持っていた礫を投げつけていき、化け物たちの目がつぶされていく。
「そういえば、あの坊さん、どこへいった?」
別当が刀を降りながら尋ねた。
「さあ?あの人も神出鬼没ですからね」
紀平治が答えながら、再び礫を投げつけた。
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