丗玖ノ壱 八人張リノ弓(一)
八郎たちは、行慈坊の案内のもと、新たな武器を取りに向かうことにした。
「しかしながら、御曹司。あなたさま、自ら取りにいかずともよかったのではないですか?」
行慈坊が尋ねる。
「なにをいう。この目で見て、じかに触れてみないとわからぬではないか。それにずいぶんと屋敷から出ておらん。気晴らしじゃ」
先頭に行慈坊と八郎が並び、その後ろには高宗、万寿、白縫、紀平治の四人のみの少人数で目的地へ向かうことになった。家李も行きたいのだといっていたのだが、ずいぶんと良くなっているとは言えども、完全に傷がいえたわけではない。用心して、辞退してもらった。一応、承諾してくれたのだが、顔には確かに不満をにじませていた。意地でもついていきそうな雰囲気を持ちながらも、屋敷の前で踏みとどまったのは、完治していない自分が足手まといになるだけだとわかってぃたからだ。家李がいない旅自身も違和感がある。ゆえに八郎は、何度となく、後ろ髪惹かれる思いを抱く。
それに気づいていた行慈坊は、口元に笑みを浮かべるが、なにも言わずに一人楽しんでいた。
気を取り直し、八郎は万寿に話かける。
「しかし、すまぬな。万寿殿」
「はい?」
「せっかく昨日ついたばかりだというのに、再び旅をさせることになって」
「いいえ、大丈夫です。それに、さほど遠くではないのでしょう?」
万寿は、そういいながら、八郎を見上げる。
本当に大きい。
万寿よりも年下らしいのだが、その身長の高さがゆえに大人。いやそれ以上のなに
か、別次元の住人のようにも見える。
成人男性の身長が四尺~五尺という時代。まだ齢15にしかならない彼の身長はすでに六尺は超えているだろう。どうしても見上げる姿勢になる。
けれど、見た目に比べ、その言動は年相応。それよりも幼くさえも思える。とても、そりなりに修羅場を潜り抜けているようにも思えない。
「それで、八郎。どこにあるのかしら?その武器職人は?」
白縫は、八郎と万寿の会話に割り込むように尋ねた。
「さあな」
なぜ、そのような顔をしているのかと疑問に思わないでもないのだが、それよりも大事なことがある。彼女の不機嫌な理由から視線をそらし、周囲を見回した。
そこは鬱蒼とした林の中。草木も生い茂り、とても人が暮らしていそうな雰囲気ではない。
「行慈坊殿。真にこのようなところにおるのか?」
「ええ。すばらしき武器職人がおります。かのものの手にかかれば、どんな妖怪であろうとも、打ち倒すことのできるほどに優れた武器を作ることができるのですよ」
「その者は陰陽師なのか?」
八郎が尋ねた
「いいえ。ただの職人ですよ。そんな偉大な存在ではありません」
「偉大ねえ」
八郎の脳裏に浮かぶのは、若い陰陽師。
「どうなさいました?」
「少なくとも俺の知るやつは、そんな感じはしない」
「それは……」
「ただのボンクラだ」
「それはひどい言い方ですねえ」
「ボンクラは、ボンクラ。阿呆だ。阿呆」
「……」
「八郎」
白縫が口をはさむ。
「なんだ?」
「その陰陽師というのは?」
「知らぬのか?」
八郎は、意外そうな顔をして白縫を見た。
「知らないわよ。なに?」
「おまえ、知らないのか?陰陽師だ。陰陽師。星を読み、運勢を占う。時として、妖から都を守る……」
「知らないわよ。そんなもの」
「知らないのも当然ですよ。御曹司。陰陽師というのはいわば、都を守るものですからね。官僚でもないかぎり、そういう力を持つものを陰陽師とはよばない」
「ならば、なんという」
「外法師とも呼びましょうか」
「それなら聞いたことあるわ。魑魅魍魎を退治してくれる法師さまね」
「そういうことですね」
「どちらでもないわよ」
林の中から、女性の声がして、一同が振り返る。
「ただの職人ですわ」
そこには、一人の優美な女性がたたずんでいた。
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