拾玖ノ壱 旅立(一)
それが真実になった 別の場所へ行きたい。
ここでない場所こそが己の居場所かもしれない。
ただ地に足をつけていない宙ぶらりんの状態にしか感じられなかった彼にとっては、未知なる地へのあこがれは相当なもの。だが、まさか現実のものになろうとは思いもしなかった。
ただ、檻のような世界で罵られながらいきていくしかない。
武家に生まれたからには、御上を守り、奉ることこそ武士のほまれ。当然のこと。覆すことのない運命に相違ないとわきまえていたつもりだった。
しかし、転機というものは、突然訪れるものらしい。
転機が訪れたのは八郎、13の年。
八郎は、父に従い崇徳上皇のおられる白河殿へ赴いたときのことであった。
父の言いつけとはいえ、正直気が乗らない。なにせ、「韓非子」とかいう法律書の講義に参加しろということだ。
「なぜ、俺がそんなところにいかないとならない?」
「そう申すな。お前も、元服した。もう立派な大人だ」
「おれはすかぬ。武士にそのようなもの必要とはおもえん」
「為朝。それは違う。これからは、武士も学の時代だ」
「……」
兄のいうことはもっともだ。兄弟のほとんどが八郎を煙たがれる中、この義朝兄上だけが普通に接してくれていた。だから、どうもこの兄の前だと、自分が子供じみてくる。
「ほらほら、父上がよんでいるぞ、早くゆかぬか」
「兄上は?」
「私は、呼ばれておらぬからな」
「かわ……」
「ならぬぞ。せっかく、父上がお誘いなさったのだ。ちゃんと、承れ。これも、わが家の務めだ。いいな。できれば、騒動を起こすな」
「……。それは保証できぬ」
「為朝」
「とにかく、父上の面目もあるだろう。ついていくとする」
八郎は、父の元へと歩き出した。
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