拾ノ壱 前夜(一)

 その日、高宗たちは、八郎の計らいにより、彼の屋敷に泊まることになった。

 夕餉時には、いつものようにこの屋敷の主である阿蘇忠邦や紀平治の姿がある。

 そのほかには、出没木没な家李の兄である別当の姿もあった。

 食卓には次々と侍女たちが食事を運んでくる。その侍女たちに混じって八代の姿も見受けられた。別に彼女は、阿蘇忠国邸の侍女というわけではない。紀平治の妻という立場ではあるが、紀平治がこの屋敷に泊まる時には侍女的な役割を担っていた。

 それに関しては、忠国も侍女たちも不満はない。逆に、人手の足りない屋敷内でせっせと働いてくれることに感謝さえもしている。

 いつも騒がしい夕餉の時間は、思わぬ来訪者により、一層の賑わいを見せていた。

 酒は飛び交い、愉快に踊るものたち。

 その中に八郎も混じって、楽しげに踊りを披露している。

「八郎が踊りだすと、床が抜けるんじゃないかと毎日心配だわ」

「何を申すか。これごときで抜けるような屋敷ではあるまい。もしそうならば、当の昔に抜けておるわい」

 白縫の皮肉などものともせずに、為朝は豪快に笑う。

 昼間は、大蛇退治の話が持ち上がったことにより、少々暗い雰囲気が流れたとはいえども、夜になると別。それぞれが思い思いに楽しんでいる様子。

 それは、まるでいまから戦へと借り出される前の武将たちの姿そのもののようであった。

 

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