嗣ノ壱 放浪僧侶(一)
「よし、浜辺を歩いていこう」
馬を預けている山のふもとの村。その入り口に向かって歩いていたのだが、
「え? ちょっとは八郎!!」
「またですか?
「よいではないか。俺は、そんな気分なんだよ。さあいくぞ!」
八郎は二人の意見など聞かず、村から遠ざかっていく。
「待ってください! 八郎君!!」
「まったく、相変わらず勝手な人ね」
海は広く、とても大きい。
海の向こうには山が見える。その山のある島は肥前国の領地であり、この有明の海を牛耳る海賊の本拠地とも、言われている土地でもあった。
「いまは平家方の水軍になったそうですよ」
家李は海を見ながらつぶやいた。
「また平家か」
「基本、筑後洲は平家方。
「そうであったな。まあ、白縫は常に俺を倒さんとしておるがな」
後ろを振り向くと、白縫は、慌てて薙刀を後ろへ隠した。
その様子に家李は、苦笑する。
いくら親の決めたこととはいえ、なぜこの二人は夫婦になったのだろう。
家李にとっては、理解に苦しむところだった。
しかし、当の八郎はこの状況を楽しんでいる。
ただの家にこもり、和歌などを嗜む姫君よりも、自分に何度も襲い掛かる武の姫のほうが性に合っているようだ。
そんな彼らに、八郎の
それも致し方ないことだ。
京の都で傍若無人を働き、関白に怒りを買って、父の
八郎自身は、一言もついてこいとは言わなかったし、為義様から命令されたわけでもない。彼自身が決めたことだ。
だから、いくら振り回されようとも文句はいえない。
京の都で騒ぎを起こしていた八郎への罰だったはずの追放だったのだが、彼がおとなしくしているはずがない。
結局は、なにかと首を突っ込み、騒動を引き起こす。
その結果、何かと諍いの絶えないこの地を平定してしまった。
喜ばしいことでもあるのだが、平家方の勢力が強いこの地を源氏方が平定したとあれば、平家側が黙っているのだろうか。なにか報復がありはしないのかと懸念がないわけではない。
源氏の立場が危うくなりかねないと危惧している。
そして、ようやく落ち着きを取り戻したころに、阿蘇から婚姻の申し出があった。
八郎自身、まったく乗り気ではなかったのだが、家李や紀平治に説得され、しぶしぶ阿蘇忠国の姫君に逢うことになった。
その姫君との出逢いというものはある意味修羅場だった。
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