第56話
ズブリと鈍い音を立てて貫いた槍は、先程のような輝きを失い、血で濡れたせいで妖気さを放っている。
「まさか、俺が負ける、なんて、な」
引き抜かれた槍の風穴から流れ出す血を確認するように手で掬うと、掠れた声で言った。
ゆっくりと腰を下ろし地面に尻をつけると、そのまま寝そべる。
「……枷を外せ、ね」
大の字になって寝転がる男が、讀賣のほうに首を動かすと、掠れた笑い声を溢す。
そして息を呑むような声を発する。
「それじゃあ、俺が生きた、地球で生きていたときの苦しみうを忘れろっていう事と同義なんだぞ」
お前には分かるだろう。
そう言いたげな目線が讀賣の目を貫くが、讀賣の意思は変わらない。
俺とお前は違う。
「俺には俺の人生があって、お前にはお前の人生がある。たとえ、地球にいたとき、同じ人生を送っていたとしても、それは地球まで。今の俺は異世界にいるんだよ。そこで経験したことは、お前が経験していないソレなんだよ」
讀賣はあえて何とは言わない。
それは伝わっているから。
あいつは俺であって俺じゃないからだ。
でも、それでも俺であることに変わりは無い。
「俺なら分かるだろ、本当は枷なんて必要はないって」
それはおれ自身に言うべき言葉なはずだ。
迫ってくるギレーヌの相手をろくにしてやれず、恥をかかしたこの俺に。
「本当は理解してるんだろ、こうなったのはお前の高望みから始まった事だって」
好きになってももらえない相手に恋をして、人生が狂った。
さおれは全て自分の結果じゃないか。
「本当は理解しているんだろ、自分にとって唯一な人間を探せばいいってことも」
それは俺にとってのあいつらだ。
異世界に行って、枷が緩まり、唯一の存在、ギレーヌ、レグリー、リーナ、ルーネ。
でも、俺はあいつらを信じれてやれて居ない。
思ってもらっているのに、大事にしてもらっているのに。
もしかしたら、なんて自分の黒い影が思考に介入してくる。
力なく下げている手を拳を力いっぱい握る。
それが今出来る自分にとっての否定だ。
そんな自分は要らないと。
すると一筋頬に何か熱いものが過ぎる。
「なんでお前、泣いてんだよ」
讀賣に伝わるソレを見て、目を大きくとあけ驚いていた。
何故そこでお前がなく必要があるんだと。
「俺が、泣いてる……?」
手で流れているものに触れると、確かに透明で、暖かく、どこかいやな冷たさがあった。
そう、涙だ。
讀賣が流れているものが涙だということは理解をしたが、何故涙を流しているンp化gは理解できなかった。
現在の讀賣はどちら側かと言えば、涙を流す側ではなく、涙を流させる側だ。
男の目には、涙など一切と浮かんではおらず、生気の消えかかており、ハイライトが薄くなっている以外は、何も変化はない。
「なんで俺、泣いているんだ?」
溢れるように出てくる涙を拭う。
すると男が何も言わず、敵意なども一切となくし、ただ近づいてくる。
讀賣は涙を拭いながらも、多少の警戒だけはし、いつでも魔法を放てるようにする。
だが、それは全て無意味だった。
いや、無意味にさせられた。
男の放った一言によって。
「ならさ。答えはもう目の前にあるじゃん」
「……え?」
讀賣は警戒などもその一言にそって一瞬で解いてしまった。
先程まで敵意をむき出しにし、自分とは真逆な意見を持って、戦いをしていたはずの男がそう言ったのだ。
戦争とは、言葉による和解が出来ないときに行われる武力による和解工作、と誰かの言葉通りに、和解が出来ないからこそ争いがあり、イジメがあり、戦争があるのだ。
男はまさにそれを否定をし、相手の意見を素直に」受け入れたのだ。、
「なんで急に打って変わったんだよ?」
その興味が出てくるときには、瞳には涙は流れておらず、好奇心と疑心の念が宿っていた。
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