第54話

 その場から消えた讀賣を探そうと、周りに残る墨のような黒で描かれた楕円だえんのもとへ駆ける。

 「くそっ。あいつは自力でここから抜け出したのか?」

 墨のようなもので描かれた楕円だえんものもで足踏みや手探りを行うが、見る蹴るどころか、触れることすら出来ないことに悪態をついた。

 先程も使った空間にいるときに使える認識処理阻害システムを使う。

 「さっさと姿を現せよ、讀賣ぃ!」

 先程よりも体を大きく古い、腕を振り下ろすときに一緒に指を鳴らす。

 空間に波状の波状となり男を中心として広がる。

 そして一瞬。一瞬だが波状状のウェーブに淀みのようにセンサーに引っかかった。

 

 「……そこ、だね?」


 愉快な笑みを浮かべると、姿が揺らぐ。

 それに連れ、黒くきらめく相貌が揺れ、目から生気が消えた。

 「次は第三ラウンドっていうんだろうね」

 一歩一歩と、足を広げる間が広がり、途中からは跳ぶように、スキップをするように跳ねてよの淀みとの距離を縮める。

 「さあ。姿を見せろッ!」

 沖田総司といえば一番に上がる技、秘剣・三段突きを思い浮かべるだろう。

 まさにその剣技そのものだ。

 中距離を一気に詰め、引いた刀で一瞬にして三連続の突きを放つ技だ。

 「ッ秘剣・三段突き!」

 波の淀みの場所が出来た場所に狙いを定めで飛びつき、一気に剣を突き出した。

 三連の煌き。

 一瞬にして空気の切れる音が三つ。

 まさに魔剣の三蓮突きだ。

 その剣技は、淀みの出来た空間を狂う事無く貫いた。


 ――そう、淀みがあった場所をだ。


 布の切れ端など、何も切れる事はなく、ただその場を刀が通過しただけだ。

 シュッという音がなり、ザンという地面を貫く音が虚しく響き、失敗だったことを知らせる。

 「は? なんで? なんで誰もいないんだよ」

 気が狂ったように、その場で刀を大きく振り回す。

 それは力なく、ただ無意識に振っているといった状態だ。

 そして、そんな男を見つめる者もいた。

 

 ――まだだ。まだ出て行ってはならない。


 目の前には、隙だらけ自分に敵意を持つ者がいる。

 殺らなければ、殺られる。弱肉強食な世界。

 讀賣は、その絶好のチャンスを前にしても、ただ身を隠すために息を潜め、時期を狙う。

 男の近くに足をかがめ伏せている讀賣の手には、黒の魔法陣が一つ。そして鎖が刻まれている右腕にも、黄色の魔法陣が一つ。

 すこしづつ、すこしづつと浮かぶ二つの魔法陣が濃く、はっきりとなって行く。

 「おい、居るのはわかってんだよ。だからよ……さっさと出て来いよッ! ここは俺が絶対な世界なんだぞ!」

 先程と似たように指を鳴らす。すると先程よりも熱く、大きな波動が生まれ、波状になり広がっていく。

 すると、一つ、波状に淀みが出来る。

 「そ、こ、かぁぁあぁ!」

 手に持っている刀を槍投げのようにしてよどみの場s著へと投げる。

 その間一秒未満。

 避ける暇があったとしても、存分に魔法を発動ができない讀賣ならば、布の切れ端所か、体の一部を残してしまうだろう。

 刀の速度によって風が切れ、音がなる瞬間、讀賣は姿を現しあ。

 

 「避けられなければ、お前みたいに消せばいいんだよ」


 左手に異様な存在感を放つ魔法陣を突き出すと、右手の苦痛に顔をしかめながらも笑顔を浮かべ、魔法を発動させる。

 

 「黒魔法、事象否定パリィ・ブレイクッ!」

 

 いつものように、キュインという甲高い音を立て、分解される。

 今度は何かが現れる、ではなく、何かが消える、だった。

 「ッな!?」


 刀がボロボロと、錆びたようなものとなり、分解された。 

 

 「形勢逆転。今度は俺から行くぜ!」

 雄たけびを上げると、もう一度左手に黒の魔法陣を浮かび上がらせ、姿を消した。

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