第53話
唇に傷をつけた少年は、不適な笑みを浮かべ、地面から這い上がった。
唇から流れ出る血を腕で拭うと、一気にその手を振り払い、血液を飛ばす。
「俺と、お前は、違うんだ」
讀賣は指を動かしてジェスチャーをするように自分と男を指し、差別をする。
「へへっ」
陽気な笑顔を浮かべると、手の平に、黄色に光る魔法陣を浮かび上がらせる。
キュインという甲高い音を吹き鳴らしたあと、それは成立したかのように魔法陣は分解され光輝く槍となった。
「……この世界でも魔法は使えるんだな」
光の槍を掲げると、男のほうに向けると、持ち手を確かめるように転がすと、その切っ先を撫でるようにして腕を引き、構えを取る。
「さぁ。第二ラウンドっていうの? はじめようよ」
腰に為を作りそう言うと、一気に地面を踏みしめて男に迫る。
「言ったよ? ここではさ、俺が全てだって」
そう言うと、男は面倒くさそうに無精髭をなで、親指と中指をあわせる。
――絶対支配。
男が行っていることは、どうにもその言葉が当てはまってしまう。
服の掠れる音のした次の瞬間、男の指鳴らしの音と共に、讀賣の作り出した光り輝く槍がまるで数値化されたように、一つ一つの文字が離れるようにして消え去った。
讀賣はその光景を見て、絶望の色ではなく、歓喜の色へと顔色を変えた。
「なあ、知っているか? 光っていうのはな、どこでも、いつでも飛んでいるものなんだぜ」
讀賣がそう言うと、体全体から、煙のようにモクモクとあふれ出す。
それと同時に、魔力強度を数値を過ぎたせいで、腕には黒が目立つ鎖のようなものが浮かび上がる。
だが、魔力の放出は止まることをせず、その反対である放出量を上げてきている。
「……
溢れる事をやめない魔力に奥歯をキリキリと噛み締めて耐えると、苦笑いながらも、顔に笑顔を加えた。
「――
手の平に、先程動揺に完成した黄色に輝く魔法陣ができ、キュインという音を立てながら、消えた。
そして、すぐに変化は訪れた。
「さあ。お前にこの光、消せるかな?
煽るような口調で放つ讀賣の視線は、男を超えてその後ろ、輝く雨のように無数の槍に向いていた。
男は背後から光るものが現れた事に驚き振り向くと、先程のように腕を持ち上げ、指を鳴らした。
「だからさ、言ってるじゃん。俺には勝てないって」
面倒くさそうにそう呟き、男が瞬きをすると、一瞬にして輝きが廃れたように朽ちた。
だが、讀賣の真髄は、先程の槍の雨ではなかった。
そう。
――これからが本番だ。
讀賣は、鎖で結ばれたような刻印を浮かべる腕とは真逆の手、左手に今度は黒い魔法陣を描いた。
「……これでもかい?」
そういうと、讀賣はその場から爆ぜた。
周りに残るのは、黒い墨のようなものが地面に楕円を描くように撒かれたもんぼだけだ。
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