第51話

 「お姉ちゃんにはああ言ってきたけど、本当にニーキさんの部屋ってどこなんだろう」

 すこし走って同じ場所を三周した時点で、一度この場所を整理するために走るのをやめる。

 周りを見渡しても、どれも同じような扉が連なるだけで、讀賣の個別の部屋は一切とない。

 讀賣の個別の扉は、目立つ、というよりも、そもそも扉がないに等しい状態になってしまった廃墟のような場所だ。

 他にも、讀賣によって焦がされた壁など、目立つ点はいくらでもある。

 だが、その場所にたどり着くどころか、周りには人がいないせいで、現在地を聞くことすら出来ない。

 移動の最中に一度、窓から外に出て初めから探そうと考えたのだが、外には衛兵や買い物、バザーなどに勤しむ者たちが居るため、周りにも、ご主人にも迷惑がかかってしまうため、その考えを放棄せざる終えなかった。

 「……本当にどうすれば」

 「だったら私が連れて行ってあげるよ、えーっと⋅⋅⋅⋅⋅⋅リーナちゃん?」

 突然と、リーナの背後から女性のものと思える声が響き、無警戒だったリーナに鞭を打つ。

 「ッ!?」

 後ろを振り返るが、人どころか、影一つすらない。

 そう背後には。

 「こっちだよ」

 そう呼ぶ声がする背後から、自分のものと、そしてもう一つの影が伸びていた。

 「……誰?」

 腰に伸ばしていた片振りのバゼラートから手を退け、その手を上に掲げる。

 そしてそのまま降伏のポーズである両手上げのまま、声のするほうを見る。

 「私? 私はねぇ、讀賣くんに惚れちゃった一人の恋する乙女、マロー二ちゃん、だぞ?」

 最後に疑問系をつけて自己紹介てきなことをするのは、讀賣にローストビーフを振舞った人物だ。

 マロー二は魅了持ちであり、その力は男女問わず効果はありである。

 

 ――暗殺者は如何なる時もペースを乱さず、感情を一切と明かすな。


 これはリーナを育てた暗殺者の師匠が言い残した言葉だ。

 そして、これには一つ続きがある。


 ――信頼できる人物、愛する人物には、事情がなんであれ心を開け。


 だ。

 主従、信頼、恋は捨ててはならぬ、それを伝えたかの如く手紙に書き残されていた手紙。

 リーナの師匠は、その手紙を書き残してから姿を消したらしく、その紙には多くのしわと、無数の涙の痕がたったらしく、その言葉の大事さを伝わったと、大事そうに鞄にその紙を仕舞っている。

 「それでマロー二さん。私に何のよう……まさか私に愛の告白を!?」

 キャーと頬を押さえもだえるリーナに、チョップを入れ目を覚まさせる。

 「えっとね、おばあちゃんから君を讀賣くんの居る場所まで案内うをしてやってくれっていわれててね」

 「え!? ニーキさんの場所が分かるんですか?」

 先程とは打って変わった態度で、違う意味で目を輝かせた。

 「うん。だからいこっか」

 「はい!」

 警戒をすること、不審を抱くこと、威嚇をとること。その全てを忘れているリーナは、完全に油断をしており、まるで普通の幼女のような笑顔で差し伸ばされる手を取る。

 差し出した手を握ると、マロー二は曲げていた膝を屈伸をするようにして伸ばすと、リーナを見下ろすように隣に立つ。

 「それじゃあいこっか」

 「うんっ!」

 元気いっぱいに返事をすると、マロー二に引っ張られるようにして歩き出した。

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