第49話

 トントントンと、革の靴が気の床に触れる音が廊下に響き渡り、その音は食堂の方へと向っていく。

 「リー、さん……?」

 音に気づいたルーネがその名を口にすると、徐々に音がルーネたちに近づき、やがてはその姿を現す。

 「ッ……」

 ルーネがその姿を目にすると、一度目を大きく開き、すぐに悲しんだように目を細める。

 力なく歩いてくるレグリーにベンチの一端を開け座らせる。

 とめどなく溢れてくるレグリーの涙を拭いながら、ルーネが尋ねた。

 「だめ、だった……?」

 震える体のままレグリーは顔を縦に振った。

 それを見たルーネが何かをい悟ったような顔で涙を拭う手を放し、顔を自分の胸に引き寄せる。

 「リーさん。今はね、力と可愛さをつけて、男を落としに行くの。たった一回だけで落ち込んでたら、先はまだまだ見終えないよ……だからね、今は休んでいいんだよ?」

 「――ッああ」

 優しくれレグリーの頭を撫でると、時間が進むにつれ、ルーネを握る腕に入る力が強くなっていく。

 その苦痛に目を細めるが、痛みを訴えようとも、抵抗を使用ともしない。

 するのは、ただいとおしい目でレグリーを見下ろすだけだ。

 「ふふっ。リーさんは本当に甘えんぼさんだねっ」

 ぼそっと小さく呟いた声は、ルーネの胸の中で嗚咽を溢すレグリーには届かない。

 だが、その声を聞いた人物は人地居る。

 「お姉ちゃん。本当に皆を妹にしちゃうんだね」

 ルーネの妹で、レグリーが来るまでずっと膝の上で寝ていたリーナだ。

 リーナがすこし悲しそうに、そして呆れたようように言うと、レグリーに振れている両の手を放し、それをリーナに向ける。

 「い、今はリーお姉ちゃんがいるからいいよぅ」

 恥ずかしそうに顔を赤らめて否定をするが、長い間離れていたとしても、彼女たちは姉妹だ。リーナが期待をしていることを見抜けないわけがない。

 「だーめ」

 リーナは表面上はしっかりとしており、あまり誰かに甘える事を公にはしない、したくない性格だ。

 だからいつもこのように無理やりを装ってルーネがリードをしている。

 現に抱きしめられたリーナは言葉通りならば抵抗をしてもいいはずなのだが、それを受け入れている。

 「……やっぱりお姉ちゃんは暖かいや」

 レグリーの乱入によって邪魔が入ったため、やり直しといった具合に、先程まで頭を置いていた位置を陣取るように寝転がる。

 リーナとレグリーを撫でてから落ち着くと、ふと出てきた疑問を呟く。

 「あれ? そういえばニーキさんとギレーヌは?」

 それは入れ替わりとなったギレーヌとが戻ってこないことから来たものだ。

 するとレグリーあからさまに動揺をと体を膠着させ、ルーネの手を払ってベンチに座る。

 そしていつの間にか止まっていた涙を取るために一度顔を拭くと、ルーネに向き直り、頭を下げた。

 「頼む、ご主人を助けてくれっ!」

 「……え?」

 レグリーの大きな声に続いた小さな声は、明らかに動揺と困惑を含んだものだった。

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