第47話

 現在讀賣の前には、先程のクローニとの配置と同じような形で讀賣の個室でギレーヌと対面して座っている。

 二人の中に流れているのは険悪なものだ。

 「俺は幼女がすきなんだよ! 別にアイを叫んでもいいだろっ!」

 先程の奇声のことでだ。

 あの時、近くにはギレーヌたちが近くにいたらしく、声に気づいたギレーヌがいち早くに飛んで来て讀賣のことを説教しているのである。

 「別に好きでいることを治せとは言いません。分かって欲しいのは自重をして欲しいってことなんです!」

 先程から繰り返しているこのやり取りに苛立ちが過ぎたのか、力いっぱいテーブルを両手で叩いてしまう。

 すると、このテーブルも昨日の戦闘で置いてあったもの。多少の亀裂や損傷が目立っているものだ、一気に壊れてしまう。

 「っああ」

 目の前に広がるテーブルの残骸を認識したのか、みるみると顔を青く染め、あたりに散らばる破片を集めてそれを治そうとしてる。

 その顔は後悔と焦燥、そして恐怖のもので、木片を集めるその姿は、意地のようにも見える。

 ギレーヌは奴隷だ。ご主人のものを壊したらどうなるか、それは百も承知だろう。

 とがった破片を集めようと手を伸ばした瞬間。

 「ッイタ」

 とんがりが指の先に刺さってしまった。

 その光景を見ていられ叶った讀賣は、席から立つとギレーヌの止まらぬ手をつまむ。

 「おい、もうそれ位に」

 言葉を紡ごうとしたが、手を触れた瞬間に素早く振り向いた顔に、静止以外の選択肢は無かった。

 「や、やめて、ください……捨てないでください……お願いです。お願いですから捨てないでッ!!」

 気が狂ったのか、掴まれた腕を引くようにして讀賣を引き寄せ押し倒すと、一気にその上に股がり暴れまわっている。

 手は胸倉を掴んでおり、それを上下に動かして、その口からは唾を吐き出しながら、懺悔の意を示している。

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな」

 「ッギレーヌ!!」

 小声で呟くように謝っているギレーヌに勝つを入れると、体が一瞬ビクりと跳ね、謝り続けていた口を閉じる。

 「別に怒ってもないしお前は何があっても絶対に捨てはしない。お前に好かれるようにも命令したし、それはお前にずっと裏切らずに傍に居て欲しかったからで……だから俺は絶対にお前を置いてかない・・・・・・

 そこまで言い切ると、多少は落ち着いたのか、胸倉を掴む力が弱まる。

 それを確認したら、ギレーヌを自分の体から離して起き上がる。

 「だからさ。これからも俺についてきてくれるか?」

 小さくだが、ギレーヌは頭を立てに振った。

 そして続くように、確認をするように讀賣が口を開く。

 「何か不満はないか? 欲しい物はないか?」

 一つ言ったらまた一つと、次々に言葉が出てくる。

 それは焦っているようで、時にはジャスチャーなどを加え、必死に伝えようとしている。

 そんな讀賣を見たギレーヌは、落ち着いたを通り過ぎて、リラックスをしすぎたのかこらえていた笑いを溢してしまう。

 「ふふっ。私は今の現状に不満もありませんし、ニーキ様さへ居てくれれば、それだけで十分ですよ」

 そっと讀賣に体を付けるようにして、正面から抱きつく。

 讀賣も、それに返すように両腕をギレーヌのわきの下を通して抱きつく。

 「それじゃあ、さ」

 ギレーヌを握る腕に力が入り、腕がぴくぴくと震えだす。

 だが、それには気づかない讀賣は、言葉を発することの出来ない自分の否ましさに唇をかんでこらえる。

 そして震える唇で行きを吸うと、一瞬の間を作る。

 「俺がご主人で、嫌、じゃないか?」

 そこまで言うと、祈るように抱きつく。

 すると、ギレーヌは表情を柔らかくし、首の横近くまで来ている頭を撫でる。

 「私は、ニーキ様がご主人で嬉しいです。私に恋をさせてくれた、私に人を信じさせてくれた、私を必要としてくれた貴方に拾ってもらえて、私は本当に感謝をしているんですよ?」

 撫でるのをやめると、静かにギレーヌも讀賣のことを強く抱きしめた。

 時間が過ぎるにつれ、讀賣の締め付ける力が緩くなり、それにつれギレーヌの表情が惜しいものに変わっていく。

 「きょ、今日くらいは私に甘えてもいいのですよ?」

 腕を離されそうになると、ギレーヌは取り繕うようにう慌てて言うが、讀賣にはもうそれは必要はない。

 「俺さ、幼女しか愛せない。それって気持ち悪いことか?」

 腕を放して立ち上がろうとする動作の中でギレーヌに問う。

 趣味や思考の共有。それはどの世界でも当たり前のように行われている事なのだが、讀賣の趣味は日本では、他人にあまり言い顔はされない。どこかの国ならばそれが歓迎されるような国もあるらしいが、讀賣は英語を話すことはおろか、日本語を鍛えてきたあまり、そのほかの言語はからっきしになってしまっている。

 だが、この世界ではそれあはどうだ?

 言語は何故だか理解が出来るし、この世界では大人と幼児が結婚をすることは、そこまで珍しい事ではない。実際にもこの宿につくまでの間、宿についてから外を歩いている夫婦、全体的でみると、あまり大人と幼児が結婚を指定おるという数は多くはないが、十組に一組はいるといったように、珍しくはない。

 「……そんなことですか」

 呆れたように言うと、ギレーヌは讀賣にくっつけている体を起こし、讀賣の正面に顔をおく。

 その顔はあまり真剣というものではなく、すこし表情が柔らかい、落ち着いたよなもんもだ。

 少しの間二人が見つめていると、ギレーヌが唐突に腕をあげ、讀賣の頬に重ねる。

 そして体を近づけると、耳の近くまで持って行くと、耳を噛んでしまうのではと思うほどの距離で口を開く。

 口から漏れる息が讀賣の耳を刺激し、時折身震いをしているが、それを楽しむようにして、喋りだすまでの間を広げる。

 そして喉が動き、ギレーヌの口から声が流れ出した。

 「そんなこと、ニーキ様を好きになる時には受け入れてましたよ。思い人の趣味をわかってあげる、なんてことは、当たり前の事ですよ」

 「……」

 望んでいた言葉通りで反応に困っているのか、 なかなかに口が動かない。

 それを解ってか、ギレーヌは攻めるように言葉を発す。

 「貴方が幼女好きなのは今に始まった事ではありませんし、それを受け入れるのがいい女です。それに好きなものを追っている貴方の姿が好きですし、その途中でも私を気にかけてくれる貴方が好きです」

 「でも俺たち会ってから二日目だし、嬉しいのは嬉しいけど、さ」

 初めにギレーヌにかけた命令のことを完全に忘れて・・・・・しまっている・・・・・・讀賣は、訴えるように言ってくる気持ちに困惑を覚えている。

 だが、それを知らずにいるギレーヌは、讀賣の言葉を耳にも入れずに続ける。

 「時間は愛の前には関係ないですよ!」

 一気に倒れるように抱きつくと、顔を赤らめる。

 「ニーキ、さま……」

 口からは激しく吐息が漏れていて、目の焦点も定まってはいない。

 はぁ、はぁと流れる吐息は讀賣の顔を刺激し、顔を歪ませる。

 「ちょ、放してくれよ」

 片手を唇で噛んでしまっている髪を引っ張ると、唇の端に手を置き、艶かしい笑みを浮けべ、嫌がる讀賣に告げる。

 「い・や・よ。ふふっ」

 そう言うと、両手を讀賣の頭の横に着くと、顔を沈める。

 「私の愛、受け止めて、ね?」

 顔と顔が、唇と唇とが近づき、あと少し。

 顔を横に振る讀賣の脳内は恐怖しかない。

 未だに残る同年代や年上への恐怖。接したり放す事はできたが、やはり未だに攻められたりするのは無理ならしく、拒絶反応の表れなのか、讀賣の頭には恐怖という文字しか浮かばない。

 あと数センチというところまで来ると、讀賣は逃げ出そうと両手でギレーヌのことを押したり顔を捻ったりするが、体が近いせいであまり力が入らない。

 どうすれば、そう考えると、昨日にも助けられたある人物の名前が頭に浮かび上がった。

 すると、考える暇もなく、体が動き空気を吸い込んだ。

 助けを呼ぶ準備は出来た。

 顔を扉のほうに捩ると、一気に口を開きその名を叫んだ。

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