第41話
「ここ、は……?」
レグリーが目を開けるとそこには天井が広がり、背に感じるものからベットに寝そべっているという事に気づく。
そっと気だるい体を起こし眠気が残る目を拭くと、、目の前にベットに寝そべっている讀賣を看病するように
「ははっ……なに、オレは勘違いしてたんだろうな」
あふれ出す涙の温度を感じながらひとりでに呟いた。
先ほど自分が告白した相手。その相手からは恋人ではなく奴隷と認識させられたばかりだ。そして目の前に映る中のよさそうな二人。
「やっぱりオレよりなんかより、ギレーヌのほうが……」
口に出す事が出来ない。もしも口に出したらそれを認めてしまう。
「オレ、の、この気持ちは、一体どうすれば……ッ!」
目から雫が落ちる。目から頬、頬から首筋、首筋から胸元へと落ちて行き服に吸い込まれる。
服は未だ奴隷時のまま。本当ならば昨日の襲撃が無ければ今日買いに行くはずだったのだが、讀賣は皆の疲労を解決するためにと休みを一日挟んでいる。
そのせいであまり綺麗とはいえない薄汚れている服で顔を拭くことが躊躇われる。
「リーさん。これ、どうぞ」
突然後ろから掛けられた声に驚きずつも、耳慣れた安心をさせる声だ、涙を乱暴に振り払うと後ろを向く。
「んや、大丈夫。それよりあっちの二人見たく寝なくて平気なのか?」
「う、うん。でも、それよりリーさんのほうが心配で……」
珍しくルーネが妹のような女々しさな話し方に引け目を感じたのか、自分の横に手招きをする。
「こっちに来いよ」
「で、でも」
「いいから早く来い」
ルーネの腕を掴むと、自分の横ではなく、膝の上に座らせる。
そして後ろから抱きつくように背を丸めるとそっと頭を撫でる。
「オレさ、ご主人に惚れちまったんだ」
「そんなの見てたら誰でもわかるよ」
驚きと恥ずかしさの混じったような顔色をすると、止まってしまった腕を動かし撫で続ける。
「けどさ。ご主人にはギレーヌしかないってわかっちまったんだよ」
遠くを見る眼差しを向けるのは、日常に溶け込んですら居る二人。とても中が良く見え、そして何より映える。もしもギレーヌの場所にレグリーがいたとするならば、与える印象はガラリと変わってしまうだろう。
自分がそこに立ったらご主人の印象も変えてしまう。
そんな不の感情が先立ち、気分を暗くさせている。
「オレがあそこに立つ資格なんて無いのになに願ってるんだろうな」
ルーネに抱きついたままベットに勢いよく倒れこむ突然な事でルーネが小さく悲鳴を上げ起こった顔をするが、頭を撫でるとすぐに戻る。
「ほんとにさ、願っちまったら欲しくてたまらなくなっちまうんだよ。これからオレ、何のために生きていきゃいいんだろうな」
横に寝そべっているルーネの胸に抱きつくように顔を沈める。
上から覆われるようにしてそっと頭に乗っけられた手は左右に揺らされ、レグリーの頭を撫でている。
その手はとても小さく、未だに撫でる側ではなく、撫でられる側の都市の手だ。だが、今はその手がレグリーの心を宥めている。
体を締め付ける力が弱まるのを感じたルーネは、そっと息を吸うと、子供を説得するように話しかける。
「リーさんはさ、ニーキさんを助けるためにニーキさん奴隷になったんじゃないの? ニーキさんに認めてもらうために奴隷になったんじゃないの?」
胸の中に蹲っている頭が上下にそっと動く。
それを確認すると、撫でるのを止め蹲っている頭を強引にはがす。
「だったらさ、頑張らなきゃ。ニーキさんの隣に立てるような女にならなきゃ。じゃないと本当にギレーヌに盗られちゃうよ?」
「オレ、隣に立てるような女になれるかな? こんなオレでもご主人は受け入れてくれるかな?」
「それはご主人次第。でも、努力は人を裏切らない、だからね!」
不安がるレグリーの顔を解すように強めに頬を引っ張る。
グリグリと捻じ回され手居るレグリーはすこし痛そうな顔をするが、それを拒もうとも非難しようともせず、ただそれを受け入れている。
「頑張って可愛くなって、偉くなってって夢物語みたいだけど、レーさんが頑張りやさんなのは、私が一番知ってるから。だからね……だから、ね」
活き活きとした声は唐突としたように止まり、静寂と共に啜り泣きが流れてくる。
最初とは真逆な形、ルーネがレグリーの胸に抱きついている。まるで仲の良い姉妹なのかと見えるほどお互いは信頼し合っているようにも見える。
だからこそ、それだからこそ、互いの辛さが解り、共有しあいたいと思ってしまう。
たとえどんな事でも、どんなに些細な事でも、どんなにくだらない事でも、どんなに興味の無いことでも思ってしまう。
『助けてあげたい』と。
『そんな姿は見たくない』と。
『君らしくない』と。
ルーネは未だに両手で数えられるほどしか生きていない。ゆえに感情の表現が出来ない。
今の様に宥めていたのに、いつの間にか真逆で宥められたりなど。
「私の知っているリーさんはそんなに弱くない!」
「知ってる」
「私の知ってるリーさんはそんなんじゃ諦めない!」
「それも、知ってる」
「私の知ってる……私の知ってるリーさんは何時だって全力でぶつかってた!」
「そのせいで奴隷になっちまったけどな」
レグリーの顔が歪むが、ルーネは止まるどころか、罵声にも似た元気付けを繰り返す。
「そんな臆病はリーさんじゃない! 私の尊敬できるリーさんは、お姉ちゃんはもっと真直ぐだった!」
「そうだったっけな」
とぼけるように言ったレグリーの胸から顔を話すと、目の前にあった主張のある胸を叩く。 「前のリーさんだったらギレーヌが居ても突っ込んでいっていたはずです。何時からそんな女々しくなったんですか!」
「オレがあいつを好きになってからだよ」
「だったら全力でぶつからなきゃ! じゃないと本当のリーさんじゃない!」
――オレじゃない、ね。……言ってくれるじゃねえか。
必死に見つめるルーネの眼差しにレグリーは笑顔を向ける。
そっとこわばった顔をしているルーネの頭を撫でると、そっと抱きしめた。
「もうすこしだけなら、お前のおかげで頑張れそうだよ」
「え!? 本当に!」
すこしこらえた笑い声をレグリーが溢すと、それじとっとした目でリーナが見つめる。
「オレがなんでここで嘘つくんだよ。それに、オレに頑張れって言ったのはお前だぞ?」
「そ、それはそうだけどさぁ」
困った顔を受けベルルーナのことを先ほどのように抱きしめる。今度は絶対に放さないようにしっかりと。
「もしもオレがくじきそうになったら支えてくれよ」
「うん……」
そして荒立ったときは一瞬の現象のように消え、すぐに二つの寝息が追加された日常に色を戻した。
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