第37話
先ほどからずっとギレーヌが悪口を言えば、おばさんが華麗に流す。
「あの……加齢臭がすごいですよ」
「ん? 私の華麗集がなんだって?」
今回の様に、意味だけを変換させるだけのものもいくつかと出ている。
一人、また一人とおばさんが発する歳に似合わないことを想像した人たちが倒れていく。
讀賣たちがこの場所に来たのが、午前8時くらいだったのだが、もう既に10時は回っているような日の入り方が。
朝方のような陽炎に似た日の射し方はしておらず、時に通り過ぎる風が料理にいい匂いが鼻に入る。
「なあレグリー。さっき言ったなんかしてくれるって言葉あったじゃん」
「……ああ。そういえば何か言ってたな」
「それさあ、記憶からなくしてくれない?」
若干涙目で言う。
するとにやっと口を開き、讀賣に言う。
「じゃあ尻尾の手入れを部屋に帰ったら頼むよ」
「そんなんでいいのいか?」
「ああ。それがして欲しいんだ……」
顔を赤く染めると、それを隠すようにその場から離れ、ゆったりと出来るくらいのスペースが開いたテーブルでご飯を食べ始める。
「俺もそろそろ腹減ったしなにか食おうかな?」
目を向けると、そこらじゅうに放置されたようにおかれた食べ物が広がっている。
殆どが肉だが、讀賣は朝はあまりがっつかない派で、何故今ここにお肉が出ているのか不思議と思うくらいだ。
「異世界じゃ朝からがっつくのが普通なのか」
すこしは見習おうと、周りにある朝食べられそうな肉を見定める。
「あれかな?」
そう言うと、厨房らしき場所に足を向ける。
このフロアは比較的広い、いや、このフロアだけではない。全ての部屋が広く、まるでどこかの宮殿のようだ。
讀賣からすれば、ホテルで食事がでるのは珍しいという認識しかない。そのため比較的建物などは小さく、その殆どがプライベートスペースなため、他人に会うこともなかなかない。
「あの」
「はい!」
弱気な讀賣に明るい笑顔を見せたのはどこかで見たことのある人だ。
「あの、どこかで会いました?」
「あ、多分この宿舎のどこかにおばあちゃんが飾った写真じゃないですか?」
そう言われると、おばちゃんの部屋にあった写真立てに収められていた写真が頭に浮かぶ。
おばちゃんと仲良くしており、春の桜をバックに取られていた写真だ。
だが、ただの従業員の写真がなぜ色々なところに飾られているのだろうか。
「なんでそんなものがおいてあるんだ?」
聞いてみると、本人もわからないのかすこし考えるそぶりをする。
「多分おばちゃんの孫だからじゃないかな?」
「そうだったのか……って、え!? 同じ職場で働いてるの?」
「職場っていうのはわからないけど、だいだい女はこの宿屋を継ぐことになってるの。まあ今は見習いだけどね」
すこし悲しそうな表情を見せる。その理由は、今の讀賣になら理解が出来る。
あんなおばあちゃんに何時までも頑張らせるわけにはいかない。
日本にいたときの讀賣の思考ならば、きっと答えは違っただろう。働いてくれるのならば大歓迎。
そんなニート思考だったのは、全てはあの中学での出来事がきっかけだ。
だが、今ここにいる人間で讀賣の過去を知っているのは讀賣だけで、今後この世界に讀賣が来る事はない。
この世界の常識は日本どころか地球とはまるで違う。もしかしたら知らないだけで、実際はあるかもしれないが、ここは異世界なんだ。
「お客様?」
「ん? ああ、ごめん。考え事してた」
女の子の声で深く過去に浸かっていたことに気づくと、目の前にあるメニューを手に取る。
探しているのは、先ほどテーブルの上におかれていた薄いステーキだ。
ページをめくると、ピックアップのように出されているお肉を発見した。
このメニューに描かれているステーキは、テーブルで見たお肉よりも脂が乗っており、朝からはやはりキツそうなものだ。
周りのにも、同じなものばかりで、お肉を食べるのならば困難そうだ。
「な、なあ。ここって脂っこい肉以外に脂が乗ってない肉ってのはあるか?」
讀賣が前世よく好んで食べていたものは、豚カツようの肉だ。脂が出るところは出て、出ないところはとことんでない。あれの端っこは最後にと食べていたこともある。
「だったらローストビーフ丼なんてどう? 量の割には脂少ないけど」
「実物をいてないけど、まあ脂が少ないんだったらそれで頼むわ」
すると、敬礼見たく腕をピシッとさせて微笑む。
「かしこまり!」
彼女はここに居る奴隷たちや日本の女の子たちよりも可愛いほうだ。だが、讀賣の心に根付いたロリ以外は差別対象という認識が思考を鈍らしている。
その証拠に後ろで集まっていた奴隷たちが、彼女の笑顔を食い入るように見ている。
後ろを向いた讀賣が指を刺すと、彼女は苦笑いで答える。
「なんか私他の人より可愛いみたいで、ギレーヌちゃんだっけ? あの子が来たからどうにいかならないかって考えていたの」
もしもこれがそこそこ位しか可愛くなかったらきっと勘違いブスと罵られていただろう。
彼女の一言を聞いた通りすがりの人も何も気にしないどころか、挨拶をするように彼女の容姿を褒めている。
「私が可愛いからって、惚れないでよね」
イタズラっほく讀賣に耳打ちをしてくる。
だが、ロリ以外には興味のない讀賣に効果が無いどころかウザがられるだけだ。
「俺が惚れんのはロリだけだよ」
「もう」
冗談として受け取ったのか、拗ねた真似をする彼女。このまま待っていても頼んだものが出てこないと察した読みうろイは、厨房を離れようとする。
「ねえ。本当に貴方は私に惚れてないの?」
「15歳以上に興味はねえよ」
ぶっきらぼうに振ると、彼女から逃げるようにレグリーの元にう足を進めた。
あれ? これテンプレだと魅了とか解除不可能ののろいとかかかってるんじゃね?
名前:マローニ・ベガス
種族:半人(ドワーフ)
職業:魔法士
年齢:16
体力:2600
筋力:430
防御:140
俊敏:1600
魔力:6200/6200
魔力強度:1100
炎魔法Ⅱ・光魔法Ⅰ・杖術Ⅲ・魅了(パッシブ状態)
本当にあったわ。
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