第35話
讀賣の目の前に透明なウィンドウが現れた。
そのウィンドウに記されたものは、まさに讀賣が今思ったことの内容だ。
『身体強化の件ですが、つけるか悩んで保留にしていたのですが、あなたに特別につけてあげる事にしました。
付属されているアイテムを使えば、ステータスを上げることが出来ますので
ケルプより』
「今くるとか俺のこと監視してんじゃね? てかどんだけ俺のことが好きなんだよ」
やっぱし俺は幼女に好かれるんだね!
顔をニヤつかせながら空を掻くようにウィンドウを操作する。
スクロールをして行くと、ステータスアップの実というなんとも安直な名前の項目があり、そのしたには受け取るというボタンがある。
「まあ受け取っても使わなければエクストラモードのままだしな」
讀賣は基本どんなゲームでも一番最初に何があってもエクストラパートをクリアしてから簡単なモードをやるタイプだ。
故に何故あの時身体強化を選んだのかが不思議だ。
命の危険が迫っている。だが、この魔法があるだけでそれは解消される。
そっと受け取りボタンを押すと、ウィンドウが閉じ、手に五つの胡桃が握られていた。
それをそっとポケットに入れると、椅子から立ち上がる。
「へぇ、あんた縄を切れるくらいには力があったんだねぇ」
「まあね」
実際はフレイムウォールで焼けたから簡単に切れただけだ。だがそれをあえて言わない。
騙せるのならば、嘘だとしても切り札となる。日本にいたときの教えだ。
すこし手をいためたように手首をこすると、おばちゃんと対面をする。
「さあ、来いよ――ババァ」
「活きがいい男、ぶちのめしたくなっちゃうねぇ!」
一気に足に力をこめて突進をしてくる。
体を丸め、打撃に中心に置く攻撃だ。
だが、どうしてもアウトレイジが専門の讀賣に叶うはずがない。
足止めだ、四分の一の魔力で十分だ。
「檻よ、我が力の知らしめとし降臨せよ、『
床から生えるかのように黒色の格子が呻りだす。
「な、なんだいこれは!?」
生えてくる格子にうろたえ時間が過ぎる。
既に半分までは育っており、壊そうと格子を上から殴りつける。
「これでもくらいな! 『
技を唱えた途端、魔力が共鳴したように、赤橙色に光った魔力が拳に絡む。
一気に振り下ろされた拳が伸び続ける格子に当たると、衝撃で周りのものが吹き飛ぶ。
「止まらないのかい!?」
伸びるのはどころか未だに伸び続ける。
二撃、三撃と続くが、音と衝撃が響き渡るが、ヒビすらも入らない。
「なんて堅いんだい!」
「だったら諦める?」
手の平に生み出した
炎を凝縮させた球体。言うならば擬似太陽だ。その熱は太陽同様一番高く約1500万度だ。
「もうこれを落とせば完成なんだけど?」
完成していく格子に近づける。
シューという音を鳴らして、何本もある内の一本が溶け落ちる。
「お前さんがやれば国家から狙われるのもお前さんなんだぞ!」
焦げて散り落ちる髪の毛を尻目になげくように訴えかける。
だが、進んでいく太陽は止まる事はなく、讀賣の笑顔と共に近づいてくる。
首を左右にして涙を浮かべるが、止まらない。
「さぁ、どうする? このままだとこげちゃうよ?」
先ほどのように挑発をするように放つ。それは今現在ならば先ほどの様に強気に出る事の出来ないおばちゃんには効果がある。
すこし歯を食いしばると、悔しがり口を開く。
「あんたは何者なんだい?」
「ただの人間だけど」
嘘はついてはいない。これは確かだ。もしも、この場に鑑定士などがいたとしても、讀賣には何も言えないだろう。
「嘘をつけ」
「だったらちょっと魔法が使えるをつけたらいいのかな?」
おばちゃんはため息を吐くと、降参のポーズである両手を上に上げた。
檻の壁だけを残し、自分が入れるくらいのスペースまで格子を下げる。
それを確認すると、手に出してある太陽を握りつぶすようにして振り払うと、頭の真横に一気に張り手をし、あばちゃんを逃がさないようにする。いわば壁ドンのようなのだ。
二人の距離を縮めると、耳に口を近づけ告げる。
「もしもギレーヌたちに何かあったら、王様を殺して罪をでっち上げてやるよ」
「……何か勘違いをしているようだねぇ。おばちゃんが疑いをかけているのは冒険者支部も、本部にすら登録していないただの村人があの黒鷹を倒した不穏因子だったからってことだよ」
「え?」
おばちゃんが黒鷹と同じ類だと思い込んでいた讀賣が呆気にとられた声を出す。
緊張感が抜けた讀賣の声を聞いたおばちゃんが、面倒くさそうに近づいている讀賣の体を突き放す。
「うわぁ!?」
未だ下に残っている格子に足を引っ掛けて転ぶ。
すこしびっくりした表情を浮かべるが、讀賣に手を伸ばす。
「あんたが冒険者本部に何もしない限り、もう何もしないさ。でも」
「でも?」
「騒ぎを起こしたら国の全戦力を以ってあんたたちを倒させてもらうよ」
讀賣は伸ばしている手に絡めると、そのまま引き上げられ、ニヒルと笑いおばちゃんの肩に手をおく。
「そりゃぁこわいねぇ」
そしてそっと手を退けると、今度は引っかからないようにと気をつけて檻から出る。
「ああそれと、おばちゃんの
「……あんたみたいな奴。久々に見たよ。まるで夫みたいだよ」
何かに思い耽っているおばちゃんの邪魔をしまいと、汚れた服のまま部屋を出た。
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