第34話

 ――バシャァ!

 バケツいっぱいの水が讀賣を襲う。

 寝ている状態で不意に襲った水流は、讀賣を目覚めさせる。

 「が、はぁ!?」

 口に入った水を吐き出すと息を求める。

 「ようやく目が覚めたかい。もう十回はやったよ」

 すこし疲れ気味で呆れたように言う。

 そんな事を言われてもしらない讀賣は無視をする。

 だが、おばちゃんは無視をしないらしく、一気に距離をつめる。

 「なあにいちゃん。今の立場わかってる?」

 「おばちゃんが青年の逆レイプ?」

 一瞬顔をしかめるばあちゃんだが、次の瞬間、一気に讀賣の腹を拳で突き上げる。

 「ッぐ……以外にくるねぇ」

 無駄に防御のステータスが高い讀賣。吐き出しそうになる空気を止めると、冗談気味に言う。

 「ほう。ならもう一発あげるよ!」

 おばちゃんがもう一度讀賣の腹を突き上げようとするとき、讀賣は魔法を発動する。

 「フレイムウォール!」

 「っと危ない危ない」

 讀賣が腹部中心に発動させた炎の縦のようなものに当たる前に手を引いた。

 余裕を浮かべるおばちゃんに讀賣がプレッシャーをかける。

 「お前、俺に喧嘩売ってる? もしそうだったらこの宿吹き飛ばしてあげるけど」

 魔力を放出させると、濃度を魔力強度ギリギリまで高めると、一気に両腕に絡める。

 讀賣が手をしたに向けると、まるで仕組んでいたように大きな魔法陣が現れこの部屋全体になるまで拡大させる。

 「俺を怒らせると、やけど・・・するぜ」

 この宿には、奴隷とはいえ客はたくさんいる。

 もしも讀賣が魔法を発動すれば、その人たちは全員消し炭になり、この宿を失うだろう。

 それどころか一番の問題は奴隷たちのご主人への被害額と、奴隷のご主人に対しての謝礼だ。

 王族や貴族ではないただの一角の宿屋のオーナーがこれほどの奴隷を殺してしまったのならば、きっと国からも何かが来るだろう。

 それは腐っても宿屋でお金や人と接する職業のおばちゃんならばきっとすぐに理解は出来るだろう。

 「もしあんたが魔法を発動する前におばちゃんが倒しちゃったら?」

 一気に魔力を出し、いつでも打てるようにし、おばちゃんが一定距離に入れば炸裂するようにする。

 この仕掛けを作るために放出した魔力があたりの資料やビンに干渉し、床へと落ちる。

 「――やってみるかい?」

 殺気とは、放つものではない。感じるものだ。

 本能が危険を察知すれば、より相手を危険視し、それが予想を生み出し、そしてそれが死のイメージに連動する。

 辺りに散らばる魔力、隠された魔法陣、発動される焼却魔術。これほど殺気を感じる場面はきっと無いだろう。

 それがおばちゃんの場合ならもっと来るだろう。ここは宿屋、運が悪ければ国からも命を狙われることも察し出来るだろう。

 今まで余裕な表情を浮かべていたおばちゃんの顔に一筋の汗が流れ、足を後退させる。

 自然な動きでなったのは、空手の技の初めの型のように、足を開き、拳を讀賣へと向けている。

 「なら、いつでもいいよ」

 雰囲気で察した讀賣が、勝負を受ける。

 空手は讀賣がいた日本の技術。カッコいいものが好きだった讀賣は当然弱点などを知っている。

 武器はなんでも使えるのが空手、逆をいえば、武器を取らせなければ、いやでも接近戦になる。

 そして空手のもう一つの弱点、直線にしか進めない。

 切り替えようと思えば、方向転換も可能だが、その隙を讀賣が逃すわけが無い。

 

 加速系の魔法も無いおばちゃん、なぜわかるかって? そんなものステータスを見れば一発だ。

 因みにおばちゃんのステータスはこうだ。

 

 名前:クローニ・ベガス

 種族:ドワーフ

 職業:闘拳士

 年齢:48

 体力:189300/189300

 筋力:16000

 防御:12900

 俊敏:670

 魔力:210/210

 魔力強度:680


 以前は無かった、下向きの矢印のカーソルが表示されている。

 これはギレーヌが言っていたレベルアップというものだ。

 レベルが上がれば、そのスキルの性能が上がり、出来る事が増えるらしい。

 ためしに押してみると、きっとスキルらしい項目が現れた。


 拳術Ⅵ・回復魔法Ⅲ・狂化・硬化・赤の礎


 こんな感じだ。

 多少の不思議なスキルがあるが、見た感じは加速系の魔法は特にはない。心配をあげるとすれば、狂化と赤の礎だ。

 狂化はテンプレだと理性を失う代わりにステータスを上昇させる。

 どこまで上がるかが心配だ。

 そしてもう一つ。赤の礎だ。

 礎は何らかの基礎だ。だが、『赤』というものがわからない。

 テンプレだと、きっと何か失われたところの戦いかたとかだ。

 それの基礎、あまり警戒する必要は無いとは思うが、逆に警戒を解く理由もない。

 でも、魔法のチートを貰った俺が油断してない状態で負けるわけがない。

 チート? そういえば、チート言えば、身体強化ってどうなったんだろうか。

 そう思った瞬間、讀賣の目の前に透明なウィンドウが出現した。

 

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