第33話
「ご主人おせーな」
いつの間にか復活をしていたレグリーが片手に肉を持ちながら呟く。
回りも同じ思いで、軽く頷く。
すると、気落ちしていたレグリーたちを励ますが如く周りに居る男や女の奴隷など、老若男女がテーブルを囲むようにう座りだす。
「譲ちゃんたち。これやるからすこしの飲まねぇか?」
大男の人が行った途端にフロア全体が俺のもやるよと食い物を持ってくる。
いつの間にかテーブルは食べ物と人で囲っている。
「す、すこし怖い、です、ね…… 」
リーナがルーネの後ろに身を隠しながら言う。
「おじちゃんたちも君8たちと一緒の奴隷さ。そこのお譲ちゃんはちげぇみたいだけど、気楽にすりゃいいんだよ、だろ、皆!」
「奴隷に高望みすんなよ!」
「ここは家だよ、寛いでいいんだぜ?」
「こらあんた小さい子を下品にさせようって、そうは行かないよ!」
ここに居る奴隷たちの大半、いや、殆どが奴隷だ。ご主人が世話を出来なくなり冒険者支部につれてこられたり、家を空にするとき、このように連れてきて泊めておいたり、逃げ出してきたりなど、訳ありの奴隷たちだ。
中にはご主人に乱暴をされ、ご主人が捨てた奴隷も居る。
そんな心配をして、先ほどのようにご主人をかまうような発言を無理にしなくても良いと気を使っているのだろう。
だが、それはお門違いだ。
ギレーヌたちは讀賣にひどい事をされていないし、心配する事も共生されていない。ただ純粋に心配なだけだ。
だが、そんな些細な問題、食べ物を前にしたレグリーが気にするはずも無く。
「そんじゃこれ食ってもいいのか!?」
「ああ、存分に食え!」
「マジでか! よっしゃギレーヌ、食いまくるぞ!」
声を掛けられたギレーヌはため息をついてがっつき始めるレグリーをとめようとする。
「あら、こっちの別嬪さん。これお食べ」
差し出された物は、柔らかそうな黄土色が特徴なプリンだ。
「あの、これは?」
知識が豊富なギレーヌは、食べ物などはあまり知らず、分からないといった表情だ。
なにか毒が入っているのではと、目を細くしてプリンを睨む。
「あら、知らないのね。これはプリンよ」
そういうと、一口食べてみせる。
「プリン?」
「ええ! とっても甘くておいしいの!」
甘いものには目がないのか、先ほどまでの警戒心がまるで嘘の様に目を輝かせる。
女性の手からそっとプリンの置かれた皿を受け取ると、近く似合った手ごろなスプーンに手を伸ばす。
「これどうぞ」
また先ほどの女性から声を掛けられ、今度はスプーンを受け取る。
「あ、ありがとうございます」
早く食べたいと思う焦る気持ちを抑えてお礼を告げる。
スプーンを受け取り握りなおすと、プリンに目掛けてスプーンを突き刺す。
プリンを抉るように刺さったスプーンは力が入りすぎていてか皿の底に当たってしまう。
「ふわぁ」
あまりの柔らかさに歓喜の声を漏らしてしまう。
こんなに柔らかいのだ。これを口に入れたらどんな感触なのだろうかと期待に胸を膨らまし、プリンをすこし掬い上げる。
それを口の奥にやるようにスプーンを咥える。
「なにこれ!?」
口に未だに残っている状態で口を開けてしまう。
すぐに口を手で隠し頬をすこし赤らめる。
「フフッ。お口に合ったようで何より。あと、間接キスだね」
まるで男の様に狙ったように言う。
すると、きづかづにそのまま使っていた事が恥ずかしくなり、もっと顔を赤面にさせる。
「お! ギレーヌそれ貰うな!」
横から一気に掻っ攫う。
「あ! それ私の!」
盗られまいとレグリーの手を叩き落そうとするが、ギレーヌはステータスから言えば生活補助用奴隷。対してレグリーは戦闘奴隷だ。しかもそのS級だ。
勝負は明らかだ。
「へへっ。これはオレが頂くぜ!」
お皿に入っているプリンを一気にスプーンに乗っけると、一口で全て食べる。
「ぅお! これうまいなギレーヌ!」
「だから盗られたくなかったんですよ!」
もはやこの騒ぎの中心とも思えるほどの騒ぎを立て言い合いをしている端では、先ほどこの催しのようなものを開催させた大男が与えたおにぎりを、リーナとルーネは半分こしてちょこちょこ食べている。
「ねぇリーナ」
「はい」
一度食べる手を止めてルーナの方を向き、顔を見た。
「こんなにおいしいの、久しぶりに食べた」
その顔は一筋の涙をこぼしていた。
その声は小さかったが、一番騒ぎを上げていた二人にも届いていたらしく、静かになる。
それが周りにも浸透し、静寂と、少女のすすり声が流れる。
「私、もうあんなところに戻らなくてもいいん、だよ、ね……?」
「安心しろ。もしもそれをやる奴がご主人だとしても、オレが守ってやるよ」
「私も止めてあげます!」
「もしもお姉ちゃんになにかあれば、私が闇討ちするから」
「ここにいる俺らも譲ちゃんたちのこと守ってやるからよ、ここは安心できる場所だ!」
安心させるためか、次々とルーネのことを乱暴に撫でて行く。
ルーネが終わったらリーナ。リーナが終わったらレグリー。レグリーが終わったらギレーヌへと、全員の事を撫でていく。
そして最後、先ほどギレーヌにプリンを渡した女性が現れる。
その手にはトレーがあり、5つのプリンが入っていた。
「すこし遅れたけど、ギルドの入団祝いにプリンをご馳走しちゃうよ! あ、あとこれ君たちのご主人の分だよ」
「「「「……え?」」」」
四人は何のことかわからないといった表情で固まる。
するとプリンの女性も、それに気づいたのか、付け足すように言う。
「ここ、私のギルドで、入団したんじゃないの?」
「「「「……え?」」」」
ひょんなことからギルドに入団を言い渡された讀賣一行。未だに讀賣は目覚めずに、裏で拘束されていることを誰も知らない。
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