第31話
讀賣たちは、朝方のことは何も見なかったと決めて朝食を取りに来ている。
どうやら食堂は、奴隷たちが夜にお酒などを飲み宴会をしている場所とは違い、寝室の隣にあるカウンターを挟んだ向い側にる場所だ。
そこには昨日の夜、讀賣たちを睨んでいた奴隷たちも、朝は弱いのか目に入っても何もしてこない。それどころか怖がって急に席を立ち上がるものも暫しといる。
近くにある手ごろな席に座ると、昨日のおばちゃんが出てきた。
その顔は機能のように起こっているものではなく、客に接するような顔だ。
「メニューはここにあるから適当なの頼みな……それでお金の件だけどねぇ」
何故かおばちゃんは心配気味に讀賣を見つめる。
宿屋を半壊させたのだ。でもそれは黒鷹を無力化するためのものだとおばちゃんも知っている。
それに昨日の夜、おばちゃんは冒険者ギルドに黒鷹を連れて行き、帰ってきたらたくさんのお金を持っていた。
それは迷惑料として受け取ってもらった。
その時に黒鷹のもあっただろう。どれだけ黒鷹が危険で、どれだけ黒鷹が強いのか。
それを倒したご主人と、その奴隷が3人いるのだ。お金の心配などはあってないようなものだろう。
「金貨三千枚なんだけど……」
「えぇ!?」
おばちゃんが出した値段にリーナが驚いた。
別にそこまで高いという値段ではない。
解りやすく伝えるのならばレグリーが三人分だ。
「ちょっと高いけど、まあここはそこまで設備はなってないから、寄付と考えれば安いもんだよ」
そういうと、アイテムボックスを開き金貨の袋を出し始める。
「あんた何こんなところでだしてるんだい!」
「え? まだご飯も出てないからいいかなって、だめだった?」
「だめってことはないんだがねぇ」
おばちゃんは頭を抑え呆れ始めた。
頭を抑えている手とは反対の手で袋をポケットに仕舞うと、讀賣の手を引っ張り席を立たせる。
「ちょいとこっちきな」
困惑する表情を見せるが、強く引っ張ってくるおばちゃんには筋力の数値が低い讀賣が敵うわけもなく、そのまま食堂の裏口に引っ張られていく。
「おいばばあ。ご主人になんかしてみろ。そのく」
「レグリー。そこまで警戒しなくても、このおばちゃんくらいで殺されるほどお前のご主人はやわじゃない」
レグリーを落ち着かせるために言ったものなのだが、おばちゃんを挑発するような物言いになったを讀賣は後悔した。
恐る恐る振り返ると、おばちゃんも昨日の一件で大体の実力差はわかっているのか、気にせずそのまま引っ張っている。
「それじゃあ言ってくるから皆はここでご飯でも食べて待ってて。くれぐれもおとなしく、ね」
「はい」
ギレーヌが返事をすると、周りの皆はうなだれ始める。
どうやらギレーヌは、人間以外には人間不信は発動しないらしく、人間の奴隷にも発動はしないらしい。
そして奴隷の中でも全体から見て年長者に値する人物だ。その発言力はすごい。
今の様にすこし周りに命令を出せば、その命令はしっかりと守ってくれる。
多少手荒ではあるが、時間の無いときや、疲れているときなどは楽なやり方だ。
「気をつけてくださいね、ニーキ様」
そういうのはギレーヌ。
何故かギレーヌはちゃんと奴隷のような呼び名で讀賣の事を呼んでいる。
それは讀賣からしてはすぐに治して欲しいところなのだが、切り出すタイミングがなかなかない。
「ああ」
返事を返すと、引っ張られていたのを、自分から歩くようにして前を向く。
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