第25話

 黒鷹は格子と格子の間から鋭くとがった氷を投影させた。

 それは格子に当たり軌道が逸れる、なんてことは無く、そのまままっすぐ飛んでいく。

 「ッテイ」

 緊張感のない掛け声で剣が振り下ろされ、氷が破壊される。

 パリンっと甲高い音を立て砕け散る。

 氷が発射されてから一秒も満たないうちに破壊された事に驚くが、ならば次だと次々に氷を発射する。

 「お前の発射速度じゃオレを抜く事はできない、ぞ!」

 飛んでくる氷を、まるで子供の様に宙に絵を描くようなデタラメな動きで振り回し破壊する。

 そしてこれで最後だとレグリーが大きく剣を振るうと、稲妻と共に風が物凄い速さで黒鷹に襲い掛かる。

 「グハッ」

 壁に激突した衝撃でうめき声を上げるが、未だ目には闘志が宿る。

 ふらつく足に鞭を打ち立ち上がると、急に讀賣に手の平を向ける。

 「我が洗礼は神のご加護。その氷結を甘んじ受け入れろ『氷の棺アイスコフン

 すると讀賣の足元に水色の魔方陣が現れ、氷結した。

 大気中の水を膨張させて作った氷の棺はそこらの氷とは違い、密度が違う。

 「今、助ける!」

 「私も!」

 と戦闘職のレグリーとリーナが攻撃をするが、欠けるどころか傷一つつかない。

 レグリーが焦り本気で一撃を放つと、氷のほうは傷がつかないが、剣のほうがレグリーに合わなかったのか中間で折れてしまう。

 だが、結果として幸運を呼ぶ。

 折れた剣が格子の間をすり抜け、黒鷹の腕に刺さる。

 レグリーの思いっきり、その衝撃は計り知れない。

 例えばこのように、剣の破片だけでも黒鷹の腕を切り飛ばしたように。

 「ッガ!? ぁあ……ック」

 斬り飛ばされた腕はレグリーの近くに飛び、年頃の反応をするかと思ったが、邪魔だ! と一蹴りし、素手で讀賣救出をしようと、放電をもっとあげる。

 黄色から青、青から白。そして白から黒に変わり、それを一気に拳に籠める。

 「リーナ、下がれ!」

 「ん? うん!」

 最初は疑問に思ったが、レグリーの拳にある黒い稲妻を見るなり持ち前の俊敏を生かし一気に部屋に入る。

 「黒電の雷よ、我が怒りもって吠えよ! 『雷砲で降り刺さる黒電の槍ライトニング・ブラック・バズーカ!」

 一気に引き抜かれた拳は、稲妻によって酸素が焦がされ加速し、その速度で形状を槍へと変化させる。

 狙うのは讀賣がいない側面部。

 徐々に縮まる距離は永久とわにも似た刹那せつな

 そして距離はゼロとなり、衝突を迎える。

 当たった瞬間、稲妻の高熱でシューと音を立てて溶けるが、それも一瞬。

 稲妻が収まり視界が良好になると、目を見張る光景が現れる。

 「元に、戻ってる……!」

 レグリーの稲妻によって溶けた氷は水蒸気となり、再度氷へと元に戻る。

 それは異様な光景で、まさに形状記憶だ。

 壊れたものが元に戻る。まさに落として割れたコップが元の形に戻る、みたいなものだ。  「すまない、ご主人……」

 自分にはどうしようも出来ない。そう気づき讀賣に謝ると、すこし讀賣の表情が動く。

 すると、突然とレグリーの刻印が反応して命令が下る。

 「!? わかった!」

 そう言うと、リーナたちの居るほうに飛び、稲妻で膜を作る。

 「大事な大事なご主人様を見捨てて幻影でも見えるようになったの――ッ!?」

 ――ピキピキ。

 氷の棺が嫌な音を立てる。

 それは気の緩んでいた黒鷹に思い知らせるように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る