第21話
丘を下り始めてから、ずっとリーナは讀賣のことを見ている。
それもそうだろう。冒険者でもないのに奥義を使えたり、あんなに大量のお金を持っていたり、レグリーに雷属性を付与するのに、あれだけの属性値をあたえたり、不思議がるのはむしろ当たり前という行動だろう。
だが、リーナ以外はそんな事は聞かない、いや、聞けないのだ。
まあ奴隷がご主人にどうこういう事はタブーだから、と片つけられるが、どう考えても現在の讀賣はそんなことをする人ではない。それにルーネも聞かないのだ。
なぜだろう、冷静に考えようとすると、余計に頭の中が混乱してしまう。
どうとでもなれ、心で叫ぶと、リーナは声が震えながらだが聞く。
「ニーキさんってその、訳あり、なんですか……?」
「訳ありって言えば訳ありだね」
やっぱりと顔ですこし讀賣から離れる。
「でも」
「でも?」
「危ない事は何にもしてないから警戒しなくていいと」
優しい顔でいう讀賣に驚いて目を見張る。
リーナはこれでもA級の魔物の討伐が来るくらいの腕は持っている。そしてこの体格だ。まともに殺り合って勝てる相手など早々いない。
そんな彼女が得意とするのは当たり前のように『
その職業で高い実力を持っているリーナは隠密性も言わずと知れて高い。
だが、そのリーナですらも、讀賣の微細な動作を見たのみで悟ってしまうほどだ。
――この人には逆らってはいけない。
何故こんな事が解らなかったのかと自分を責めようとする。
だが、そんな事とは知らない讀賣は前に見えてきた高い城壁に囲まれた町に指を差し子供の様に喜ぶ。
「あれが街!? ちょーカッケーじゃんッ!」
やべぇよやべぇと子供見たく喜ぶ讀賣を見て、この人が私のご主人なのかとルーネは顔を赤くさせる。
レグリーは讀賣と同じように喜び、ギレーヌはそんな二人を落ち着かせる。
傍から見ればとても微笑ましい情景なのだが、これを壊そうとする輩もいる。
近くにあった岩陰から現れた、あからさまにも場違いな雰囲気を纏った武装集団である盗賊だ。
「おいお前たち、痛い目見たくなきゃ金だせよ」
初めて盗賊を見る讀賣は、本当にいるんんだと感心する表情を浮かべ、他の奴隷たちは讀賣の後ろを歩き盗賊たちを無視する。
「おい聞いてんのか! ッチ……テメェーら囲め!」
その声を合図として、盗賊の中での親分と見れる男の後ろでニヤ二ヤと顔を崩していた五人の取り巻きたちが讀賣たちを囲む。
「金さえ出せば見逃してやってもいいぜ」
そんな上から目線の物言いで、讀賣のストッパーがまた外れた。
「なんでお前らクズ風情に俺が命令されなきゃいけないんだよ」
言い返された親分は顔を真っ赤にさせ白目を向かせ腰から曲刀の類のシミターを取り出しちらつかせる。
「お前ら! このガキをぶっ殺せッ!」
その合図と共に盗賊たちは讀賣に襲い掛かる。
それぞれが持っている武器が親分のようにシミターではなく、ククリやジャンビーヤなど、普段は目にしない武器が握られている。
何の考えなしに突貫してくる盗賊たちに呆れがさしたのか、もはや抵抗を使用ともしない。
だが、讀賣は違う。
抑えきれないほどの怒りで体中から魔力があふれ出し、讀賣の周りを漂っている。
その魔力の層のような物を盗賊たちが通過しようとした瞬間、讀賣が口を開く。
「えっと確か……粉塵よ、我が身纏いて爆ぜるが良い。中級魔法『エクスプロジオーネ』!」
魔力が讀賣の言葉に反応するようにサークル状となり爆発する。
そのサークルの中には奴隷たちであるギレーヌたちやリーナが入っているが盗賊たちは別だ。
サークル上に立っていたものは骨すらも灰になり、入っていなかった者は爆風で吹き飛ばされる。
爆発が収まると、讀賣は何気ない顔で灰になった親分を見返すと、こう放つ。
「俺に逆らうからだよ」
骨をかたどった灰を踏み潰す事で跡形も無く消すと、浮かれ気分ではなくなってしまったが、町を目指す。
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