第20話

 讀賣たちは、大人体の大きく育った草むらが生い茂る場所を抜け、あたりを良く見渡せる草原に来ている。

 その場所は他の平面とは違い、丘の頂上に讀賣たちは座っている。

 他の地面より高いせいか、心なしか日光が気持ちよく感じることができ、聞きたいことが無ければすぐに眠ってしまいそうだ。

 現に讀賣の隣では、レグリーが寝そべって欠伸を掻いている。

 「そんで冒険者支部と本部、それでギルドが何か聞かせてくれない?」

 「え? あっはい!」

 やわらかく照らしてくる日光のせいでリラックスしすぎたのか、一瞬だがリーナはマヌケな顔をしていた。

 讀賣が効いたのは、草むらを出るときにリーナが「リーお姉ちゃんの支部とギルドの登録をしよっか」と言った事だ。

 ゲームや小説を読んでいる讀賣には、「冒険者ギルドでは?」や「普通にギルドじゃないのか?」など、ここに世界とは違った理解がある。

 「冒険者支部とは、ある区間区間に存在する冒険者のデータを保管し管理、そして討伐奨金などの管理をする本部の支部です」

 冒険者支部は名前が変わっただけで実際の機能はそこまで讀賣とは相違ないらしい。

 そして残るはギルド、これがまた厄介な制度らしい。

 「ギルドとは個人の自由で入る事ができ、冒険者をやるならば消して何らかのギルドに入らなければいけないんです。それでギルドに入っている人たちの合計の奨金をギルドに渡す事で手間を省くために設立されたものです」

 そこまで言い終えると、鞄から一生懸命引っ張り出していた本を、また最初と同じように一生懸命と引っ込める。

 鞄は多少伸び縮みするらしいが、どう考えても本は確実に鞄の入り口よりでかい。

 その事は奴隷になる前のリーナも何回か言ったそうだが、替えることはおろか、考える事すらした事すらないらしい。

 「じゃあギルドはお金を取ることが出来るんだね」

 讀賣が適当に放った言葉にリーナが首を傾げる。

 だってそうだろう。いちいち自分が請けた仕事のお金を数える奴なんて滅多にいない。そんな数えないやつの給料をちょろまかす事は支部からお金を渡される人は容易に出来る事だろう。

 それをリーナたちに言うと、とても驚いた顔をしながら、同時に絶望した八日顔をする。

 「おいおい、そんなしんみりした空気になってどうしたんだよ」

 場を明るくさせようと笑顔で言うが何の変化も無い。逆に暗くなる一方だ。

 「もしかしたら」

 とリーナが言うと、それに続くようにルーネが口を挟む。

 「私たち、そのせいで奴隷になったのかも知れません」

 ルーネがそういうと、次々に周りにいた奴隷たちが私もと肯定しだす。

 皆の顔はそれぞれ絶望の色一色の顔だ。

 どうしていいかわからない讀賣はだんまりとしてしまうが、ルーネが独り言の様に呟きだす。

 「仕事をやっていたんですが、それが日に日に少なくなって、もっと仕事をしなきゃって増やしたのですが、それも少なくなっていって、私、奴隷になっちゃったんですよ」

 他の奴隷やリーナが同情の目で見つめるが、それをン振り払うように首を振る。

 「でもいいの。だってそんな事をする人と同じギル、ド、に……」

 強がりのつもりなのだろうが、そんな言葉を並べても子供は子供。悔しさや後悔などで泣き出してしまう。

 宥めようと頭を撫でるが、なかなか収まらない。焦る表情を表に出すと、ギレーヌがルーネを攫うようにして讀賣の腕から奪う。

 「こういうときは、同姓に任せたほうがいいんですよ」

 大人の笑みを浮かべると、ルーネを覆うように抱きしめる。

 すると次第に何声や啜り声が無くなっていく。

 完全に寝息に変わると、ギレーヌは笑顔でルーネを渡してくる。

 それを呆れた顔で讀賣が受け取ると、子供のように差し出してくるギレーヌの頭を撫でてやる。

 「……エヘヘ」

 嬉しそうな顔に成り満足したようで頭を元に戻す。

 周りの奴も私もと頭を差し出してくる。

 ため息を漏らすと讀賣その頭たちにチョップをする。

 「何かやったらお前たちにもやってやる。それまではお預け、だ」

 「えー」

 誰が先に駄々をこね始めたのかは分からないが、それに続けて全員が駄々をこね始める。

 そんな声を無視して讀賣は立ち上がると、背伸びをし空を仰ぐ。

 青い空、白い雲。東京のように臭い空気は一切となく

 「あ、冒険者支部に行くぞ!」

 「うん」

 そして次々と駄々をこねるのをやめ立ち上がる。

 この行動には刻印が反応した者はいない。

 そんな些細な事だが、確かに距離が縮まったことが嬉しくて讀賣は内心浮かれ始めた。

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