第19話

 やっぱりきたかと顔を顰める。 

 お金ならばまだいい。もしこれで貸しでも出来たら、お金以上のことを命令される危険性が、いや、危険性しかない。

 先手必勝と讀賣が口を開く。

 「なあ。どれ納得をいく?」

 「別に私はお金が欲しくて言っているわけではありませんよ。ただお願い・・・があるんですよ、はい」

 舌打ちをするとアイテムボックスを引き出し現在の最高金額をみる。

 そこには金貨99860枚と書いてあり、その先にも白銀貨というものがあり、それは1000枚と書かれてある。

 ひとまず高尚の算段を立てる。

 相手は俺に貸しを作ろうと粘ってくる。

 だとしたらこちらも粘って金を出し続けなきゃいけない。

 少々というか、もっぱらの力技だが取り敢えずはそれをやるしかない。

 ああ、今ほど録音機が欲しいと思ったことは無いよ。

 とりあえず、と金貨の詰まった袋を一つ。

 「金貨100枚だす」

 「ですから、私はお金が欲しいわけではないんですよ」

 アイテムボックスから金貨の詰まった袋を一つだす。

 「200枚」

 「ですから」

 また一つ。

 「300枚」

 「……」

 次ぎには袋を二つ追加で出す。

 リーナは顔を青ざめて無造作に袋を出す讀賣をとめようと裾を引っ張る。

 だが、頭を撫でるだけでまだまだ金貨の袋を出す準備をする。

 「500枚」

 「ほ、本当に私は」

 面倒くさいと一気に袋の束を投げ出す。

 その数は五個、今までの倍だ。

 ドヤ顔で讀賣は現在外に出されている金貨の量を言う。

  「1000枚だ」

 その金額に驚いたのか声も出さずに金貨に夢中だ。

 それもそうだろう。奴隷の目安のためにリーナに聞いたことだが、普通の冒険者の平均月収が銀貨250枚だ。そして貨幣の仕組みは銅貨1枚で一円、銀貨一枚で100円、金貨一枚で10万円、白銀貨一枚で1000万円だ。

 それで今回カーサワに渡した金額は1億5000万円だ。

 そう考えると自分のやった事が恐ろしくなったのか顔を青ざめさせる。

 だがここで引いたら全てが終わる、その意思で一気に畳み掛ける。

 「それで? これでいいかい? まあこれ以上はもうださないけど」

 金額が金額だ、人間の心理なら、いつ頼むかわからない貸しのために一億を捨てたりはしない。

 だってそうだろう、今日100万もらえるのと、一年待って200万もらえるの、実際に体験したら前者を確実に選ぶだろう。

 カーサワも例に揃って悔しそうな顔を浮かべながら手を差し出す。

 「その金額で、よろしくお願いします……ッ」

 「ああ、今後とも贔屓させてもらうかもしれないからよろしく頼みますわ」

 「ッ……ええ」

 多少の怒りを顔に浮かべるが、すぐに沈め当たり障りの無い返事をする。

 讀賣たちは金貨の詰まった袋をカーサワの近くで持って行くとその場を後にした。

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