第18話

 「ではお手を拝借」

 そういわれた讀賣はコートの袖を捲り上げる。

 そこには先ほどルーネを奴隷にした事で出来た紋章がある。

 紋章といっても、レギーヌの紋章に続くように目のような形をしたものだ。

 その模様なような物を、もう一つ付け足すように描く。

 それに連動するように、奴隷の胸元にも目のようなものではないが、ギレーヌと同じような刻印が彫られていく。

 「さあニーキ様、レグリーに命令を」

 「ああ、分かっている」

 一度讀賣は奴隷、いや、レグリーに視線を移す。それは意思確認のためだ。

 だが、それは必要は無かったらしい。

 だって彼女の目が「何でも受け入れる」と服従しているのだから。

 「何時如何なる時も俺の事を最優先に考え、何時だろうと俺を守り続けろ!」

 「ッオウよ!」

 彫られる痛みに耐えながらレグリーは返事をする。

 カーサワはつまらないという肝心顔でその光景を眺めているが、讀賣の後ろにいるリーナたちは違う。

 「リーお姉ちゃん!」

 「リーさん!」

 まるで自分の事見たく必死になってレグリーの名を叫ぶ。

 そんな二人の声を聞いたレグリーはグッドサインで返事をする。

 そして行動パターンの植え付けのため魔力量が多くなる。

 一気に流される魔力量に悲鳴を上げるが、歯を食い縛り堪える。

 だが歯の隙間から漏れる嗚咽はとても痛々しく、めのしょうてんがズレ始めている。

 その者の咄嗟の本能を書き換えるのだ、それ相応の代償はあるだろう。

 魔力を吸い出され辛いはずの讀賣がレグリーに声をかける。

 「あ、と、少しだッ。耐え、るんだ、レグリー!」

 「あっ、ああ!」

 その瞬間、手や足が狼のそれに変化させ始めた。

 その光景を見ていたカーサワが珍しく声を漏らす。

 「まさか獣の武器ビーストアーツ持ちだったとは、私もが弱りましたねぇ」

 そう呟き終えると同時に、レギーヌと同じような魔力暴走とは違った魔力が輝き始めた。

 「あぁ……ぁぁああぁあ!」

 どうやらその光は、讀賣の魔力に反応して毛が立った事と、魔力刻印が彫り終わったのが同時になったことで輝きを増してなったらしい。

 レグリーの獣の武器で変化して生えてきた毛は、見るだけでも刺々しく、まさにハリネズミのようにとがっている。

 そしてその毛からは稲妻が放電して、余計に迫力のある印象を持たせる。

 きっと稲妻は讀賣の特典にあった雷の魔法が使えるようにと頼んだ事で出てきた属性なんだろう。

 毛先からバチッと跳ねる稲妻が地面に落ちると、そこにあった砂が弾き飛ぶくらい強力だ。

 「おやおや、これはお目にかかれないS級戦闘奴隷じゃないですか」

 カーサワはレグリーの全身を舐め回すように見る。

 それもそうだろう、現在彼女一糸纏わぬ姿だからだ。

 体中から溢れるように出ている放電のせいで噴くが全て焼け落ちてしまっている。

 不幸中の幸いなのか、大事な部分は獣の武器で生えてきた毛によって隠されている。

 だが、このままではどうしようもならない。放電を何とかして止めなければ服を被せたところで焼け落ちるだけだろう。

 そんな状況を解っていながらもカーサワはリグレーに向ける視線を止めない。

 「レグリー。この放電を止めてくれ」

 「あ、ああ。やってみる」

 深呼吸をするように心を落ち着かせると、次第に放電は少なくなり、やがては放電がやむ。

 「とりあえずこれ着て獣の武器ビーストアーツを解け」

 頭に被せられたコートを羽織ると、自分がどんな姿なのかが目に入る。

 すると顔から火でも噴くんじゃないかと思うほどに一気に真っ赤になり、そしてカーサワの視線にも気づく。

 すこしカーサワを睨むと後ろを向きコートのファスナーを上げる。

 「それじゃあ残りの40枚だ」

 「S級の戦闘奴隷、それだけでは外では買えないんですよ?」

 にやりと、先ほどのようなエロジジイの顔ではなく、商売の顔に変わる。

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