第17話

 「70枚!」

 「15枚」

 「65枚!」

 「25枚」

 「40枚!」

 淡々と続くせりにも、終わりはある。

 40枚と聞いたカーサワはその値段で渋々といった雰囲気だが了解してくれた。

 「ええ、ではそのお値段で、はい」

 そういうと、暗幕の中に一旦入ってしまう。

 その場に残されている讀賣たちに、今買われようとしている奴隷が声をかける。

 「なんでオレを助けるんだよ」

 「さあな。でもよお前。助けてって願ったろ」

 恥ずかしくなったのか奴隷は下を向いてしまう。

 だが、感情の変化は見受けられる。

 今まで見る影も無かった耳や尻尾が不規則に動き出した。

 「昔の俺に似てたんだよ。多分それで助けたくなった。ただの自己満足さ」

 すると奴隷の後ろに居るレギーヌが、私はという顔をしてくる。

 「お前はただ身近に置いておける人間が欲しかっただけだよ」

 ギレーヌはすこし驚いたような顔をすると、次には泣き出してしまう。

 それを見たルーネは茶化すように言ってくる。

 「ニーキさん、あまりギレーヌで遊ばないであげてください」

 きっと同じ人間不信同士で思うことがあるのだろ。

 讀賣はそれを無視、とまではいかないが、軽く受け流すと二人に抱きつく。

 「ゴメンよー! 急に投げられて怖かったよね? ゴメンね!」

 先ほどのカーサワの光景も可笑しかったが、これもこれで可笑しい光景だろう。

 大人が年端も行かない幼女に縋りつき謝っている。

 地球ならばキモがられるが、この世界ならば別だ。

 「ご主人様はどうしようもないくらい幼女がすきなんですね」

 小さく笑うと、リーナたちを嫉妬の目で見る。

 もしもその視線が讀賣に気づかれれば怒られる。それは解っているだろう。

 だが、全体命令である『讀賣を愛する』という事に、今までそんな事が無かったため戸惑っているのだろう。

 だが、そんな事は讀賣は知らない。

 ましてや自分のことを好きになっている、そんあことは幻想だと思っているだろう。

 案の定レギーヌの視線に気づいた讀賣が声をかける。

 「お前もすまなかったな。あれは全部八つ当たりだ。許してくれ、とは言わない。でも安心はしてくれ」

 「……はい」

 まだ信用は出来ないみたいで疑心暗鬼だが、その言葉を切り捨てないあたり信用はしているのだろう。

 あまり強制は出来ないと考えた讀賣は、顔をレギーヌからずらして幼女たちに向ける。

 「なあ、君たちに質問がある」

 「はい?」

 「なんですか?」

 言うのを躊躇うかのように顔を伏せ赤くさせる。

 だが、ばっと顔を上げ、綾口だがいう。

 「俺のこと恋愛対象として見れるか!」

 時が止まったかのように幼女たちは固まり、それを見ていた奴隷は顔を赤くさせて顔を背ける。 

 「ご、ごめんなさい。ニーキさんはお兄ちゃんとしてしか見れません」

 「私も、恋人とかは想像出来ません」

 するとその場で立ち上がり、今度は奴隷たちのほうを向く。

 「ならば二人にも聞こう、俺の事を恋愛対象として見れるか?」

 二回目は慣れたようで顔を赤くさせながらもいう。

 奴隷の方は顔を赤く指せ俯くが、尻尾は先ほど以上に忙しく揺らし、ギレーヌのほうは笑顔ではいと答える。

 「……ああ。ありがとう」

 普通なら喜ぶはずなのだが、やはり讀賣は嬉しくないようだ。

 前世、学校での出来事以来裏表を作る事のできる年齢以上の人は信用できないし、好きになることも出来なくなっている。

 ここは異世界で、前いた世界とは違う、そう割り切っても、もしかしてという憶測が出てきてしまう。

 「本当に厄介な性格になったな」

 「何がですか?」

 讀賣が声のする方向に視線をやると、そこには赤いインクの入った水槽のような物を持ったカーサワがいた。

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