第16話

 ナイフを持って特攻してくる女の奴隷を組み伏せている讀賣の姿だ。

 奴隷は荒い鼻息を立てながら讀賣のことを睨む。

 「は、なせっ! オレ、お前殺す!」

 力ずくで解こうとするが、上にまたがる讀賣のほうが有利で、動く事すら出来ない。

 両手を握っていた手を片方話すと、その手をレギーヌのほうに向ける。

 「カーサワを呼んで来い!」

 紋章が光ることは無く、すぐにレギーヌは暗幕の中に掛けていく。

 「刻印が無いってことは、抜け出してきちゃったのかなぁ?」

 奴隷は歯を食いしばり、口を割らないようにとしている。

 だが、本人が口を割らなかった所で、奴隷に戻るのは決まっている。

 割らない気なら、すぐにくるカーサワに渡したほうが効率はいいが、讀賣はそうは考えない。

 割らないのならはかせるまで。

 奴隷の頭を鷲掴みにすると、奴隷を無理やり顔捻らせてこちらを向かせる。

 「このナイフ、よく切れそうだね」

 独り言のように呟く讀賣の言葉を全く聞こうとせず無視する奴隷の首元にナイフを近づける。

 「ねぇ、試しても、いい?」

 「や、ヤメロ!」

 身を揺らすが、讀賣のナイフはじりじりと地面を掻いて迫ってくる。

 あと少し、あと少しとなるにつれていこうは激しさを増し、体を海老反りになるくらいまで反り足で背中を蹴ったりする。

 だが女と男、いくら奴隷が本気で蹴ったところで身体能力の強化がされている状態だ。何の痛みにもなりやしない。

 すると奴隷はあまりの恐怖に口を開いてしまう。

 「言うから! オレは奴隷商から逃げてきたんだ!」

 だがナイフが止まる気配はない。

 目に薄っすらと涙が浮かぶと、突然と静止の声が掛けられる。

 「ニーキさん、それ以上は商品を傷つけることになるので」

 カーサワは短く土器のこもった声で放つ。

 讀賣は面倒くさそうに奴隷の首根っこを掴むとカーサワに渡す。

 「管理くらいしっかりやっておけよ」

 「はい。申し訳ございません、はい」

 それだけ言うと、視線をリーネのほうに向ける。

 リーネも視線に気づいたのか睨むようにして見詰め合う。

 二人の間には静寂が出来るが、すぐにカーサワのほうから壊す。

 「別にいいですよ。所有権はもう私には無いので、はい」

 難癖をつけるようにいうと、抜け出した奴隷の首についている首輪に鎖をつける。

 「では、またお会いするときに」

 そう言うと、鎖をすこし引っ張り暗幕の中に入る。

 それに続くようにして付いて行く奴隷の顔は助けを求めるような顔だ。

 そんな顔を讀賣に向けるが、見向きもされていない事に気づくと顔を前に戻す。

 「なぁカーサワ」

 「はぁい」

 讀賣がカーサワの名を呼ぶと、待っていましたという幹事の顔を暗幕の中からヒョイっと出す。

 「なあ、こいつを買うとしたらこれくらいで足りるか?」

 讀賣は特典として何個も貰っていた100枚金貨の入った袋をアイテムボックス一つ取り出すと、カーサワに投げる。

 それをカーサワが受け取ると、ニヤリとした笑みを浮かべ袋の紐を解く。

 一枚一枚金貨を数えると、讀賣に向きかえると、指を二本立ててみせる。

 「あと二つ、必要でございます、はい」

 金貨の詰まった袋を床におくと、先ほど袋を受け取ったようなポーズで手を伸ばす。

 讀賣はすこしため息をつくとアイテムボックスから一つ取り出す。

 「これじゃあだめか?」

 「はい。まけられても10枚程度、ですね、はい」

 何を基準として言っているのかは解らないが宙に計算式を書くようになぞるとそういう。

 すると讀賣はお手の見せ所というような笑みを浮かべると、口論のような競りが始まった。

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