第13話

 「ニーキ様!」

 「――ッ!?」

 途端に讀賣の体が跳ねた。

 焦って周りを見渡すと、そこは相変わらずな薄暗さを保っている暗幕の中だ。

 そして、讀賣が立つその前には、奴隷商であるカーサワと一人の奴隷が吊るされていた。

 「……こいつは?」

 視線を向けて放った声の先には、体の至るところに古傷のような深い切り傷などが浮かぶ奴隷がいた。

 「人間不信の奴隷で御座いますよ。忘れてしまったのです?」

 少し頭を抑えて狼狽える讀賣。

 地面に寝転んてい状態から、カーサワに手を伸ばし離れるようにと指示する。

 周りを見ることで少し落ち着かせようとするが、そう上手くは行かない。

 「さぁ、奴隷契約をしましょう、はい」

 脇に置いてあるよく金魚が二、三匹泳いていそうな丸の形をした円形の水槽のような入れ物を讀賣の前に置く。

 「これは?」

 「奴隷刻印用のインクでごいまますよ」

 するとカーサワは女性の方の奴隷の胸元の衣服を破り捨てた。

 その行動に奴隷は分かっていた様に諦めた顔をして俯く。

 そんな奴隷を見てルーナは顔を顰める。それもそうだろう。

 この次の自分もやられるのだから。

 「大丈夫だ。俺は幼女を大事にする」

 讀賣はルーナに耳打ちをする様に小声でいうと、顔をパァと明るくさせる。

 そして、それを見ていたカーサワも愉快な顔で二人を眺める。

 「ではニーヤ様、お手を拝借」

 讀賣はさっと手を差し出す。  カーサワはその手を握りしめると、インクを手に付けて讀賣の手の甲をなぞる様にして紋章の様なものを描き始める。

 それが進むにつれ、奴隷の胸元にも同じ様なものが浮かび始め、そして苦しみ始める。

 奴隷の嗚咽が漏れると、カーサワは愉快と笑みを浮かべる。

 「さぁ、後はご主人であるニーヤ様が命令を下す誰ですよ、はい」

 紋章の書き終わった手を振りほどく様にして離すと、奴隷の方に手を向ける。

 これは命令であって八つ当たりじゃない。

 俺はご主人であって求める側じゃない。

 分かってる、分かっているのに……。

 どうしてもあの頃のことが脳裏に浮かぶ。

 もう、俺は変わったのに、幼女にしか求めないのに。

 ……いや、求めてもいいんだよ。

 それで従わせればいいだけだ。

 「奴隷よ、俺を好きになれ」

 紋章は光を放ち、奴隷の胸元に付いている刻印と結ばれる。 

 中心からは契約魔法を使うことで発生する魔力暴走がおき、空間に亀裂が生じる。

 「なんど見てもやはりこの光景はたまらない」

 脳の侵食に抵抗しようとすれば体に激痛が走る、そんな光景を今までにも幾度と無く見てきているような発言をする。

 だが、錯乱をしている讀賣にはそんな声は届かない。

 もっとだ、もっと俺に忠実になれ。

 手に力を込めもっと魔力を放出させる。

 「あっ!? あぁ、もう、やめ――ッ!」

 声にもならない悲鳴を洩らし体を力ませる。

 その様子をを見ていたルーネは自分で自分を抱きしめるように肩を抱き寄せ震えている。

 普段の讀賣ならばそんな事はしないだろう。だが今は違う。


 俺はお前よりえらいんだ! 俺が気持ちをよせるんじゃない、お前が寄せるんだよ!

 もう、あんな思いはこりごりなんだよっ!


 その瞬間、魔力が割れるように弾き飛び、カーサワは後ろにあった檻にぶつかる。

 血反吐を吐き出すように咳き込むと、杖に縋るようにして立ち上がる。

 「まさか、この魔力刻印が暴走するとは……」

 何か考え事をするようにぶつぶつと呟き始める。

 そんな光景を見ていた讀賣の視線に気づいたのか意識を現実へと引き戻す。

 「とりあえずは成功ですね、はい。ですがこの魔力刻印の状態でしたら、絶対の命令力があるのは一つだけ、ですね、はい」

 魔力刻印をまじまじと見つめそういう。

 そんなのんきな顔をしているカーサワとは反対に、讀賣の顔が強張っていく。

 「だったらッ!」

 「これ以上やったらこの奴隷が死ぬ事になります。すこし落ち着いてください」

 反論しようとするが、すぐに諦め近く似合った空の檻に腰掛ける。

 「……すまなかった。まさかお前に常識を教えられるとはな」

 皮肉をこめて言おうが、カーサワは怒る事も無くいつも通りの気持ち悪い顔のままだ。

 「さて、ではそちらの奴隷と行きましょうか」

 カーサワはにやりと笑みを浮かべそういった。

 

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