第12話
「ん、ここは……?」
讀賣が目を覚ますと、そこは見覚えのある校舎。
ただいつもと違うのは夕暮れの日が窓から差し込んでいる事だけだろう。
そして、この日をきっかけに讀賣の人生がク連れたことを思い出した。
確かこの日は中学二年の冬、片思いをしている意中の女性から放課後、教室前の廊下に来るようにといわれた。
今思えば何でいったんだろうと呆れるくらいだ。
いつもは家で読んでいる小説を学校に持ってきて、その日は部活をやっている生徒が居なくなるまでじっと読んでいた。
そして時は進み、校舎には人の気配が全くしなくなった夕暮れになる。
ずっと椅子に座っていたせいで立つのが億劫になっている腰に鞭を打ち立ち上がると、一度体を見渡し身だしなみを整える。
そして扉の前まで行くと深く深呼吸をしてドアに手をかけた。
(やめろ! 後悔するだけだ!)
だがその声は告白されると信じきっているあの頃の自分には届かない。否、届くわけが無い。
ドアを開けると、そこにはいつも目で追っている女性、守草がいた。
彼女は夕冬の日に晒されて、全体的にほんのりと赤くなっており、優しげな印象を与える。
「あ、あの! ぼぼ、僕に用って何!」
戸惑いと緊張のあまり早口になり声が張ったりとしてしまう。
だが、彼女はそんな事は気にせずにすこし笑うだけでスルーしてくれる。
きっとあの頃の俺はこんな彼女がとても美しく思える。
あの頃の俺は浅はかだった、と後悔の念を自分の胸に押し付けてくる。
「あの、さ。私、讀賣くんに好かれてること知ってるんだ」
「う、うん」
興奮と歓喜のゲージが一気に頂点へと舞い上がる。
鼻息を荒くさせ、目は血眼になる。
もうこんな惨めな自分は見たくは無い。
(もう、やめてくれッ!)
だが、そんな感情を無視するように映像は続く。
そしてクライマックス。
ゴクリと讀賣の喉から音が鳴る。
そんな讀賣の事を一瞥すると、守草は目を閉じる。
しそして再び目を開けると、守草の顔つきは変化する。
相手を見下すような、クラスの殆どが讀賣に向ける視線。
(やめろ、もうこれ以上は止めてくれ……ッ!)
だが映像は無慈悲に秒を刻み進めるだけ。
そして守草は口を開く。
「あのさぁ、それ。めっちゃキモいからやめてくんない?」
「……え?」
何を言われたか理解が出来ない、という顔で立ち尽くす讀賣。
それに追撃をかけるかのようにと他の生徒たちがぞろぞろと出てき、その手にはスマホなどが握られている。
「な、ちょ。撮るのやめてって」
その声に返すのは汚い笑い声だけだ。
きっと周りの人間はしくんで讀賣の事はめたのだろう。何をしてもめげずに学校に来る彼に対して憤りを覚えてやったのだろう。
それは成功したよ。
だって現に彼の目からは涙が溢れているのだから。
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