第6話

 「顕現せよ! 我を守る無類の盾! 『完全防御パーフェクト・パリィ』!」

 讀賣が技名を叫ぶと、盾から羽が出てきた。

 翼、それ以上でも以下でもない、翼だ。

 その羽はみるみるうちに枚数を増やすと、円状の形に変化を迎えた。

 それらは翼であり翼ではない。ただ讀賣を守る翼であり、飛翔させる翼だ。

 「俺を守れッ!」

 目を閉じて歯を食いしばり、思いを込め盾を地面へと向ける。

 この短期間で出来る事は全部やったはずだ。もしもなにか残っていたり、選択が間違っていたのならば全てはこの焦る状況だったから、としか言いようが無い。

 地面が近づくにつれて風がひどくなり、砂埃が鼻腔をくすぐる。

 そして地面へ。

 「うぉおおおぅ?」

 あれほど騒がしかった音も、肌を刺激し続けた風も、落下時の衝撃も。

 全て忘れたかのように消え去った。

 だが、一つだけ残っているものがある。

 「な、何だこれっ!?」

 盾に付いていた羽が徐々にスキャンをするように腕から上ってくる。

 それを振りほどこうと腕を振るが、止まる事も、ましてや下がる事すらない。

 だが、脳裏にスクロールに書いてあったことがぎる。

 「たしかダメージを後ろに飛ばすんだっけ?」

 そう思えば合点がいく、とばかしに落ち着くと、今度は羽を不思議そうに見たり触ったりなどしだす。

 だが、やがては後ろにダメージがそのまま飛ぶということがあることを思い出した。

 「そーいや、どこに飛ばせばいいんだろう」

 その事を思い出したのは魔法人が讀賣の体を半分以上通りすげてからだ。

 「とりあえず人気のあるところは絶対に避けないとな」

 そう言うとあたりを注意深く探し始める。

 壊れるものがなく、人もいない場所。

 ――ガサガサ。

 近く、といってもすこしの距離はあるが、生い茂っていた草むらが揺れ、音が鳴る。

 一つはとても大きなもの。そしてもう一つは小さく、それこそ子供くらいの大きさだ。

 それらが交差するように讀賣の元に近づいてくる。、

 「――ッ何で人が!? ううん、その人、逃げてください!」

 その声はまるで幼女のような舌足らずといった声だ。

 幼女好きな讀賣がこの世界に着てからはじめての幼女を見たいと思わないはずが無い。

 だが、その嬉々高まった興奮が讀賣の冷静な思考の邪魔をする。

 先ほどまで子供体の大きさの草陰を追っていた大きな草陰が標的を変え、讀賣のほうに標的を定めていた事に。

 「避けてっ! 『水の玉アクアボール』!」

 草陰が近づいてくることを知らせるために、魔法のようなものを放つ。

 それはバケツの水をぶちまけたように飛んで行き讀賣へと向う。

 「な、なんだ!?」

 讀賣はとっさの事で後ろに下がる、では無く後ろを向く。

 バシャァと掛かる水は服すらも濡らし羽を浮かび上がらせる。

 「ガァアアァア!」

 向ってきたのはライオンのような、狼のような頭が二つある生き物だ。

 そしてそいつは標的である讀賣に噛み付こうと跳び付く。

 相手が悪かった、そんな事はない。時間が悪かった。

 飛び付こうと地面から足を離した瞬間、讀賣の背中から羽が離れ、飛翔する。

 「ガァ!?」

 羽はとてつもない速さで飛びライオンのような生き物に当たり、つぶれるかのように圧迫される。

 圧迫に耐えられなくなったからだが呆気なく気持ち悪い音を立て爆散した。

 「え! なんで!?」

 草むらから出てきたのは、声でわかったように幼女だ。それも日本じゃお目にかかれないほどかわいい。

 その幼女が見て驚いているのは、先ほど爆散したライオンのような生き物だ。

 あたりには肉片や尻尾、はたまたつぶれた頭などが飛び散っており、その中心部には綺麗に纏まった血の塊がある。

 「オルトロスがこんなにあっさり……」

 どうやらオルトロスという生き物は溶け出したと思えば砂となり風に吹かれる。

 血は他の体の部位とは違うらしく、肉片などに多少残っていた血などが纏まったと思えば凝縮され拳大の一つの石に変わる。

 「なんだこれ?」

 拾い上げると、石よりも堅く重いのが分かる。

 それを遊ぶように宙に投げたりしていたら急に叫び声が讀賣の鼓膜を刺激する。

 「そそそ、そんなでかい魔石でなに遊んでんのよ!」

 幼女はでかい石、魔石で遊んでいた事が気に入らなかったらしく讀賣を叱咤する。

 何の価値もわからない讀賣からすればただの石ころ。叱られるくらいなら他の石を探す。

 「んじゃこれ、あげるよ。だからさぁ」

 讀賣の続けようとしていた言葉を遮るほどの大きな声で叱咤を続ける。

 「そういう問題じゃないです! A級の魔石、どれだけの価値があると思っているんですか!」

 そういわれじっと魔石を見る。

 ただの色が紫色というだけの石。

 地球でも珍しいといえば珍しいが、昔ながらの店を探せば紫色のガラスだってあるし、それこそもっと綺麗な石、ビー玉だってある。

 「別に俺は要らないけど、要らないってんなら返してもらうけど」

 「……別に返すなんていってませんけど」

 拗ねる幼女に苦笑いをすると、その魔石というものを教えてもらうようお願いした。

 

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