第5話

 圧迫するような風が讀賣を包み込む。

 ゴォゴォと物凄い音量で耳の鼓膜を刺激し、なぞの浮遊感が讀賣の催眠を妨げる。

 「ん、ここは――ッ!?」

 目を開けるとそこは別世界。

 それだけならばまだ驚くことは無かった。

 それだけなら……。

 「なんで俺落ちてんの!?」

 そう、現在讀賣はケルプに強制転生させられ空にいる。

 ビル、なんて高さの次元を超え、すこし上には雲が見えるほど高いところに讀賣はる。

 「どどど、どうすれば!」

 焦っていると、聞き覚えのあるポンという音が讀賣の目の前で起こる。

 そこには変なスクロールのようなものが丸められて讀賣にくっついている。

 「――ッくそ! とれねぇ!」

 焦ってしっかりとスクロールを手に取る事が出来ない。

 人間誰しもこのような状況におかれれば焦ったり死の恐怖から気を失ったりするだろう。

 やっとの思いでスクロールを手に取ると、縛られている糸を解き広げる。

 「――っこれは」

 スクロールには転生前、讀賣がケルプに渡された紙に書いた特典の要望だ。

 讀賣が書いたものとはすこし違うだけで、殆どが要望通りだ。

 ただ唯一違うものは奥義関係のものだ。

 「スキルや必殺技などは、一武器種につき一つずつ」

 これは奥義だけに固定され、選べるのもではなく勝手に選ばれているらしい。

 「だからどうした! ここで死んだら元もこうもな……いや、待てよ?」

 讀賣はスクロールを読み進め、奥義説明のところまで来た。

 剣や槍などの武器のは読まずに飛ばし、ある場所まで飛ばした。

 「……これならいけるか?」

 そう見つめる先に書かれている文字は『完全防御パーフェクト・パリィ』と書かれてある。

 技の内容は、受けるダメージを後ろに流す体術が半分以上を占める盾奥義と書いてある。

 受けるダメージが無いのなら、衝撃も消せるのでは?

 そもそもダメージという時点、ステータスか何かあって、衝撃や痛みはあるけど、体力などは減らない、という事か?

 もしもこの技で反射したら、跳ねて今度は何も出来ずに死ぬだけでは?

 考えれば考えるほど可能性は出てくる。

 だが時間は有限。

 迫り来る地面と、発動までのタイミング。そしてダメージを無効化するタイミング。

 奥義というからには何らかの代償などがある。

 それらも考慮する時間が多少なりとも必要だ。

 迷っている時間なんてない。

 「ああ! もう! どっち道死ぬんだ。やれる事はやってやる!」

 そう思考を振り切ると、奥義の使い方などが書いてあるところまで飛ばす。

 盾奥義 『完全防御パーフェクト・パリィ

 唱えると盾の周りにシールドみたいなものが展開され、それがダメージの元となるものと接触、または貫通すると、その展開されているもので包み込み後ろへ飛ばす奥義。

 どうやら展開には時間が掛かるが、あとは展開すればあとは待つだけ、らしい。

 動画も付属で付いてあり、それによれば二秒で展開するらしい。

 そしてなんと驚き、デメリットは皆無らしい。

 さぁ、貰えるもの情報は貰った。

 ならば思い立ったら吉日、実行をするだけだ。

 「こい、アイギス」

 すると讀賣の言葉に呼応するかのように心臓部が輝く。

 それをおもむろに掴むと、一気に引き剥く。

 「く、ぁ……っああぁああぁ!」

 体から離れようとしない光を無理やり引き剥がそうとすると、心臓がつぶれるかと思うほど痛む。

 だが、それはもう一度輝きを放つ光で終わりを告げた。

 「はぁ、はぁ」

 腕には中型のおぞましい形をした盾があった。

 疲れたのか意識が落ち欠けそうになり体制がよろめく。

 だが、それはいいほうによろめいた。

 頭が真下に来るようになり、やりやすく・・・・・なった。

 地面との距離は既に数キロという地点まで迫っており、下手をすれば数秒で地面に落下してしまう。

 だが焦りはしない。

 自分の手に顕現することで不安が自身に換わった。

 こいつならいける。こいつとなら出来る。

 ならばあとは叫ぶだけだ。

 覚悟を決めろ、讀賣新聞。

 「顕現せよ! 我を守る無類の盾! 『完全防御《パーフェクト・パリィ》』!」

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