第4話 同業者

昼間の仕事はよかった。平和で、人の役に立ってるという実感が湧く。

ただ、非を上げるとしたら、とてつもなく眠いことだろうか。普段は夜型で朝の仕事なんてしてないからとてつもなく眠い。それでも今は大分ましで、だんだん闇も少なくなってきた...という訳では無いだろうか。

楽しい夢も、日が出ている間のもの。所詮白昼夢。

夜はただ、狩りをするだけ。淡々と、感情などどこにもない。

手紙を開いて地図を見る。依頼者はヴァーモン子爵。何でも自分の領地が『やつら』によって侵略を受け、物資が壊滅的になっているそうだ。過去に3度ほどを雇ったが、殲滅には至らずその場しのぎにしかならなかったらしい。今回は今までの反省を生かして、倍額で『やつら』の

巣に潜り込め、という依頼になる。

ため息をついてしゃがみこみ猫を撫でる。

お前は商売道具でもあるんだ。

ごめんな。

立ち上がって、仕事場に向かう。高そうな閃光石の安っぽい指輪、数珠のように付けられた閃光石。袖をめくればいつでも後遺症が見える。

あの事故に意味はあったのか、あの事故がなければ俺は今...幸せだったか?

___いや、どちらにしても選んだのは俺だ。ほかの誰でもない。

ねこが足にまとわりつく。足の周りを8の字で回ってみたり、じゃれついてみたり。

この子はいつもそうだ。必要以上に関わろうとしないくせに、俺が悩んでいる時はいつもこうやって慰めてくれる。

この子は心でも読んでるのだろうか。なんでもいい。この子に癒されてるのは事実なんだから。

猫を撫でる。猫は手に顔を擦り付ける。こんなことをされては、嫌でも穏やかな顔になる。

もうそろそろ時間だろうか。

猫を抱き上げて地図を見ながら目標の森に入る。

木々の間から闇が形を成しただけの塊がのぞき込む。視界の隅で、ヤツらに歓迎されてることを確認して、照石を取り出す。それには紐がついてネックレスになっているが、手に持ってぶら下げるまでにとどめる。

ほのかで、明かりとしては役立たずな光を発する。視界はこの子に託している。俺がやっているのはただの威嚇だ。

そもそも、こいつらが群れをなすことが珍しい。知性があるかすらも疑わしいやつらが群れを率いて計画的に物資を巻き上げている...なんて、裏で誰かが手を引いているに決まっている。この威嚇はそいつへの警告と、あぶり出しだ。

「にゃあ」

静かに猫がなき、身構える。切羽詰まっている感じではないが、鳴くだけの何かがあるということ...

「だ!」

肩がドスっと思いっきり押される。背中が暖かい、というか暑い。

「やあ、昼間の猫ちゃんとその主人。今回の依頼のお仲間ってことらしいね。」

後ろに振り返ると昼間に見た同業者の女の子がいる。照石のランタンが眩しいほどに輝いている。背中の熱さの原因を知る。

「君、痛いよ。それと熱い」

「同じ仕事してるんでしょ?そのぐらい慣れてないと」

「あいにく、僕はあまりそれを使わない質でね。」

と照石を指さす。

「珍しいねえ。私はアネルト。アネルト・ユフスティー。」

「僕はルベルト。」

「ファミリーネームは?それとそこの猫ちゃん」

「こいつはクロノ。モノクロのクロノ。」

「あら、短絡的。というか、あなたのファミリーネームは?」

「君にファミリーネームを答える理由がないんだけど。上だけで十分だろ。もしくはコードネームで呼びあうか?」

「な、なにそれ。私はファミリーネームを答えたのに。無礼ったらないわ!」

「僕はファミリーネームでどこの出かなんて探られたくない。君みたいにファミリーネームで威張りたいわけじゃないし」

「...。協調性ってものを習いなおしたらどうなの」

「誰からも習ってないよ。そんなもの。僕は君とは違って誰かに習ったりする身分じゃないのさ」

「もういい。自分のことを知られたくないし、探られたくもないのよね。いいわ。協力したくないのも分かった。でも、今回の依頼の邪魔にだけはならないでもらうわ。私のことは好きに呼んでちょうだい」

「じゃあ、自由に呼ぶとしよう。貴族の娘さん」

「はいはい」

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鉱石の旅 @amumini

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