第3話 夢の終わり
「こちらはいかがですか?」
スピットさんはそう言って奥から何枚かの発光石の板を取り出していた。先代と比べるととてもクリアだ。
「とても綺麗!これがいいわ!」
カウンターに身を乗り出して女性がそう訴えるとスピットさんは嬉しそうに
「ならこれを繋げるよ。そこで読書でもして待っていてください。すぐ終わらせますから」
と後ろの作業部屋に移る。慌ただしい音に飲まれながら女性に目配せしてイスを譲る。
「あら、ありがとう」
そう言って座り込んで適当な本を読みだす。
こちらも適当に棚から本を取り出す。
題名は何も書いていないが中身は良くある童話だ。
夜、ほんのいたずらごころで森に遊びに行った子供。
夜の真っ暗闇に紛れて出てくる不愉快な化物に襲われ、
村の篝火を頼りに様々な策を立てて必死に逃げる。
とても。とてもよくある童話だ。見飽きるほどにこの手のものは読んできた。光を支えにして生きる我々にとって闇とは恐怖の代名詞だ。
「出来ましたよー」
やりきった顔でスピットさんがでてくる。その一声で女性も本を閉じて立ち上がり本を収めて駆け寄る。
「あら、買った時を思い出すわあ」
「気に入ってもらえたようで何よりです」
スピットさんは女性に発光石をわたす。
「家まで送りますよ」
「お願いします。
お世話になりました。スピットさん」
扉を開けて店から出る。
「もちますよ?」
「いえ、これは私のものなので。」
「そうですか」
そんなことを言いながら裏道をあるく。
と、こちらに向かって歩いてくる女の子がいる。
厚手のコート。首や腕にアクセサリーのように付けられた光石。それも深い色でとても透き通った、良い石だ。中には発光石も見えるが、女性の手元にあるものよりももっの純度が高く透き通っている。
同業者か...?
そう疑っていると猫が足にじゃれついてくる。
しゃがんで優しく撫でると一度コチラを見たあと前を向いて歩き始める。ゆっくりと立ち上がり少し小走りで女性と猫に追いつく。
表に戻ってきて、商店街のさわがしい声が聞こえる。
大通りで馬車を捕まえて乗り込む。行き先を伝えると馬車が走り出す。軽い馬の足音、心地よく揺られながら女性の家に向かう。
時間も大分たち、馬車が止まる。銀貨をわたすと馬車はUターンする。
「すみません。払わせてしまって」
「気にしなくていいですよ。きちんと報酬は頂くので」
「そういえばそうでしたね」
なんて言いながら家に入り例の照明の元に行く。ガラスのカバーを外して鉄の皿をおろして先程の発光石を壁の奥におしこみ、鉄の皿をもどし家をでる前に照石にかけておいた黒い布をとって元の場所にもどし、ガラスのカバーをつければ、明るい廊下になる。
「素敵。ありがとう、ルベルトさん。
また頼みますね」
と言って女性が賃金を渡す。
「こちらこそ」
女性から、賃金を受け取る。
「失礼しました」
そう言って家から出る。
家の外から静かで寂しそうな夕日を眺め、猫を抱き抱えた。
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