第60話
「命中は免れたか……まだいけるか?」
クランはポケットから携帯を取りだし、その弾の主へ連絡する。
「うん、大丈夫。けど、つまり、さっきのは、外した、ってこと?」
巨大な魔力の塊は、クラン達のいる場所から遠く離れたクロムの口から放たれた物だった。
以前クロムは小さな光の弾を口の中に作り出し、それを飛ばすという芸当を明里達に見せたことがある。しかしその時は、自らの魔力の流れを上手くコントロールすることが出来ず、自身の身体を用いる事柄以外では大したことは行えなかった。
しかし、クランの研究と着眼点により、元々クロムには相当なポテンシャルが備わっているが、体内の魔力を巧いこと動かす技術を身につけておらず、そのため口からスイカの種を吹き出す程度の力しか放出出来なかったのではと考える。
そこでクランは、パイプの詰まりを無理矢理押し流す要領で、外部から魔力を注入すればその技術を体感できるのではと考えた。結果的にそれは成功した。
しかし、クロムが吐き出したそれだけの威力を持つかまでは予想できず、調整室内の冷蔵庫がその犠牲となってしまったのだった。
それらの経緯と、改良を施されたリリアのサポート、そしてクロムのゴーレムとしての力が備わり、現在クロムは動く魔力兵器と呼んでも差し支えの無い程の高火力の砲台と化した。
「翼は見事に焼き尽くしたがな。あともう一発さっきのような威力を出せれば確実に仕留められそうだ」
「うーん、それは、少し、厳しそう。今ので、地下の、魔力、殆ど、使っちゃったし」
「そうか、リリアの調子はどうだ? 特に目に変な感覚とかはないか?」
「はい、特に異常はありませんよご主人様」
本来ならば、今しがた発射したような威力を持つ弾を撃てる魔力を、クロムは持ち合わせていない。クランが吸収した魔力を地面を通じて取り込み、それを利用することで、実力以上の攻撃を行うことが可能となっていた。
大きく距離が離れたことによる命中精度の問題は、リリアの目に施された望遠鏡のように遠くまで正確に捉えることが出来る改良によって解消されている。
実質的にリリアは、クロムに弾道や予測着弾地点を計算した上で正確な狙い目を口頭で指示しながら、元来の性能により砲台を守る、動く照準器と化したのだった。
「おそらく奴はもう私に撃ってくることはないだろうから……狙える時に狙って、あとはこちらに任せてくれ」
「OK!」
「かしこまりましたご主人様」
通話を止め、一度隠れている明里とクランの方へ視線を移す。
落下したベルアの様子を見ようとはしているが、変わらず身体全体を出さないようにとうまく潜んでいた。
二人は近接戦も遠距離戦もベルアを削れるような力を持っておらず、尚且つ下手にダメージを貰うと一撃で瀕死の状態に陥る可能性を考慮し、影からちまちまとレールガンで邪魔を続け、もし狙われた場合はクラリスが受け持つという形を取った。
明里は、皆に頼んだ本人が、強くない故にある種一番危険性の低い立ち位置にいることに悔しさも覚えていた。全員の中では自分が最も弱いことも自覚している。
足手まといになって失敗に終わるよりは、考えてくれた作戦と立ち位置で最大限皆の役に立とうと、明里は心に決めた。
その心情をクラリスも理解しており、立ち直らせてくれた明里の為ならば身を捧げる覚悟で、明里の隣へと寄り添った。
「まだ、終わってないですよね」
「……ああ、ぴりぴりとした感覚が抜けていない」
様子を伺いつつ、緊張感を持続させる二人を見たクランは、フッと軽く笑いながら視線をベルアの落ちた地点へと戻す。
地上へと落ちてうつ伏せでベルアは、背中の翼が根元だけを残して消え去っており、飛ぶことが出来ない状態となったのは明らかである。
油断の大きな代償として翼を失ったが、咄嗟の行動で命中は免れた為に、身体はほぼ無傷で済んでおり、間違っても決定打になったとは言えない状況だった。
翼の無いベルアが、ゆっくりゆらりと立ち上がる。
「屑共の分際で、やってくれるじゃねえかよ」
ずっと怒りに満ちていたベルアの表情が、火山が噴火したかのようにさらに強い強張りを見せる。
「背中の付き物が消えたのに、痛そうじゃないな」
「痛えに決まってんだろうがよォ!」
ベルアは、眼前で堂々と待ち構えるクランへ接近戦を仕掛ける。
一回の踏み込みから弾丸が放たれたかのような勢いで突撃する様から、肉体能力も高いことを窺い知る。
「エステルッ!」
ベルアの突貫に合わせて、クランがエステルの名前を叫ぶ。
その呼び声に呼応し、後方からエステルが全力でベルアめがけてダッシュし、勢いをつけながら右ストレートを放った。
突然の外部からの不意打ちに、ベルアは咄嗟に身体を横に反らせて回避し、僅かにスライド後急停止する。
「音声コマンド受諾。指定サレタ命令ヲ実行、コレヨリ戦闘モードへ移行シマス」
「やっと全員出やがったか。まとめて地獄に送ってやらぁ!!」
ベルアは目の前のエステルを最初の標的に定め、全身に力を滾らせて正面から真っ向勝負を挑む。
「目標ノ敵対行動ヲ確認、迎撃ヲ開始シマス」
それを見たエステルは、構えてベルアの状況や戦力を細かく分析し、臨戦態勢を整えて迎え撃つ態勢を取った。
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