第三十一話 驚愕する魔法少女

「あれは……卵?」


 天使が消滅した後、そこには小さな『卵』が一つ残されていた。

 その卵は三十センチ程の大きさで、ほのかに発光している──どう見ても普通の卵じゃない。


 まさか、またこの卵から天使が生まれてくるのか?


 私はそう不安に思いながら、卵に近づいていく。

 すると突然、


「ステラ! 空白ブランクカードを卵に投げて!」

「え?」


 ノクスが深刻な表情で私にそんな指示を出してきた。

 ……この卵を封印しろという事なんだろうか?

 

「ああ、もう! 早く封印して!」

 

 困惑する私を、ノクスが苛立った顔で怒鳴りつけてきた。


「あ、ああ。分かった!」


 よく分からないけど、言う通りにしよう。

 ノクスに急かされて、私は急いで空白ブランクカードを卵に投げつけた。


 だけど、本当にカードに封印する事が出来るのだろうか?

 光っているとはいえ、魔獣でも天使でもない、ただの卵を。


 と、不安に思っていたけれど、私が投げた空白ブランクカードは魔獣を封印する時と同じく、卵を光に変換していく。

 そして、何事もなく封印をする事に成功し、カードがいつも通り私の手元に自動的に戻ってくる。


「……卵だ」


 そう。カードを受け取めて絵柄を確認すると、そには卵の絵が描かれていた。

 何の変哲もない──は言い過ぎにしても、ただの光ってる卵の絵だった。

 

 卵を封印したんだから当たり前だとしても、魔力も一切感じとれない。

 

「元が天使だから魔力は無いにしても、あの時天使から感じたエネルギーのようなものも感じないのは一体……」


 もう一度意識を集中してみるが、やはり何の魔力もエネルギーも感じられない。

 ……どういう事なんだろう? このカードは何なんだろう?


 横目でちらりとノクスの様子を窺うと、封印された卵のカードを見て安堵のため息をついていた。

 あの態度──ノクスはこの卵について、何かを知っているのか?


「あ、結界が……」


 その時、空にヒビが入るのを見て、ローズ達が声を上げた。


 卵が封印されたことが原因なのか、結界は徐々に崩壊し、青空と水面に沈んだ廃墟が現実の映画館の景色へと戻っていく。


「ノクス、このカードは一体……」


 崩壊していく結界の中で、私はノクスに卵のカードについて問いかけた。


「それは……」


 ノクスが言い淀む、俯く。

 答えにくいことなんだろうか……。

 俯いたまま、ノクスはためらいがちに口を開き、卵の正体について語り出してくれた。


「……それは欠片。かつて、始まりの魔法少女──マジカル・ルクスが砕いた世界卵の」

「世界卵!?」


 たしか……魔法少女と魔獣を生み出したのが、世界卵だったはず!

 ルクスがそれを砕いた? しかも、いま私が手にしているカードに封印されているのが、その世界卵の欠片?


「さっきの卵を破壊しても、天使を完全に倒した事にはならない。封印して回収しない限り、この世界のどこかで天使はまた復活する」

「なんだって?」


 つまり、あの天使を完全に倒しきれるのは、カードに封印するギフトを持つ私とノクスだけという事なのか?


「……あ!」

 

 ピンときた。それで以前、ノクスは他の魔法少女を紛い物だとか言っていたのか!

 天使を封印する事が出来るのは、封印のギフトを持つ魔法少女だけだから……。


「ステラ、本当に世界を魔獣から救いたいならそのカード──世界卵の欠片を集めなさい」

「欠片を……集める?」

「そう。魔獣をいくら倒してもこの世界から消えて無くなる事はない。天使を倒し、欠片を集めて世界卵を完成させなければならない」

「世界卵を完成させる……」


 欠片を集めるということは、また天使と戦って勝たないといけないらしい。

 六人で力を合わせて、人々の声援でパワーアップして、ようやく倒したあの天使を。

 

 一体、何体天使がいるのか分からないけど……それは途方もない道のりに思える

 だけど、この欠片のカードを集めて世界卵を完成させた時、魔獣との戦いが終わるともノクスは言った。


 それが本当なら、いままで終わりが見えなかった魔獣との戦いに、やっとゴールが示された事になる。

 

「何なに~? 二人共、何の話してるのー?」


 少し離れた位置にいたシルフィ達が、ギフトの『風』に乗って私達に近寄ってきた。


「………話しはそれだけ」


 ノクスはそう言って目を伏せると、踵を返してその場を立ち去っていく。


「待ってくれノクス!」


 聞きたいことは山程ある!

 私は慌てて呼び止めたが……ノクスは振り返ってくれない。

 

 仕方がない……私はノクスの背中に向かって、呼びかけた。


「 天使と世界卵の事は分かった! 君がなぜそこまで強さにこだわっていたのかも! でも、それなら……なおさら私達魔法少女は協力すべきじゃないか!? なんで一人で戦おうとする!」


 ノクスは立ち止まり、振り返った。


「────っ」


 私はノクスの表情を見て、思わずたじろいだ


 ────ノクスの表情は……怒りで歪んでいた。


「あなたは……あなた達は……大切な人を失う気持ちが分かる? 前にも言ったけど、魔法少女はみんな強いわけじゃない。弱い子だっている」


 前と同じだ。私が一人で戦う事について触れた途端、ノクスは怒り出してしまった。


「だからこそ、協力して──」


 私は巴との約束を守るために、今度こそノクスを説得しようと反論する。


「そして、弱い魔法少女達や弱い人々を庇って強い魔法少女が死んでいく! お姉様ルクスのように!」


 だけど、ノクスは頑なな態度を崩さない。

 私の意見には耳を貸そうとしてくれない。


 きっと……それだけ、姉であるマジカル・ルクスが魔獣との戦いの末に消えてしまった事は、ノクスにとって許し難い事なんだろう。


 だとすれば、私が正論をいくら浴びせかけても無駄だ。

 理屈じゃなくて、感情で彼女は納得できないのだから。


「ノクス、君は……」


 私の口から、続く言葉が出てこない……。

 一体、どう説得すればいいのかが分からないからだ。


「だから私一人で戦う。弱い魔法少女達も、弱い人々も誰も戦わせない。私が一人で戦って魔獣から世界を────」

「ちょっと、ちょっとー! 黙って聞いてたら、好き勝手言ってくれちゃってさー! 一体、何の話をしてるのさー? 」


 その時、今まで黙って見ていてくれたシルフィが口を挟んだ。

 

「なんか一人で戦うーとか言ってたけど、一人じゃさっきの天使も倒せなかったじゃん!」


 そして、ノクスに指差し、反論する。

 少しむっとした表情をしていて、少し……いや、かなり怒っている様子だ。


「一緒に戦ってくれてありがとう、とか言えないわけアンタ? それとも弱い魔法少女だって力を奪おうとしたアタシ達が、以前よりも強くなってるのが癪に障るってわけ?」

「……私達はあなたに守ってもらわないといけないほど弱くはないです」


 ローズとコスモスも、ノクスに厳しい言葉をかけた。

 普段は大人しい、あまり怒る事のないコスモスですら、冷たく突き放すような言い方だ。


 ……険悪な空気だ。


《ねえ、ステラ。どうするの〜?》

《どうするって……》


 どうしよう……。


 ノクスがあんな態度をとってしまう気持ちは痛いほどわかる。

 だけど、始まりの魔法少女マジカル・ルクスの事を知らないローズ達が、ノクスの態度に怒りを感じるのもわかる……。


 もういっそ、みんなにも始まりの魔法少女についての話をするべきだろうか?


 いや、でも巴が私にだけ話してくれた事を、いまここで勝手に話すわけにはいかないし……。


 そうして私が何も言えずに、睨み合うローズ達とノクスを見ていたその時、


「みっちゃん!」


 駆け寄ってきたクローラが、ノクスに呼びかけた。


「クローラ……」


 クローラは息を切らしていて、少し苦しそうな表情をしている。

 どうやら戦いが終わってすぐに走ってきたようだ。


「……」


 だけど、ノクスはそんなクローラを見ても尚、何も言わない。

 話すこと何も無い──といった態度で、完全にクローラのことを無視して、崩壊つつつある結界から立ち去っていく。


「待って……待ってよ! みっちゃん! みっちゃん!」


 無視をされたクローラは辛そうな顔をしながら、それでも何度もノクスに呼びかける。


 振り返ったノクスは……全てを拒絶するかのような、暗く冷たい目をしていた。


「……気安く話しかけないで。今の私はマジカル・ノクス。あなたと私が友達だったのは過去の──。この世界では違う」

「────っ」


 クローラはもう……それ以上、何も言えなかった。

 今にも泣き出してしまいそうなほどクローラは傷ついているのに、ノクスもそれ以上何も言わなかった。

 ただ黙ったまま踵を返し、魔獣カードを取り出すだけだ。


「……『バティン』」


 ノクスが取り出したバティンの魔獣カードを発動した。

 そして、いつものように空間に孔を作り出し、その中に向かって歩き出す。


「そんな……」


 クローラはあんなにもノクスの事を心配していたのに──そう思うと、私は居ても立っても居られなくなった。


 私は思わず、またノクスの背中に向かって叫んだ。


「ノクス! だったら何でだ! 戦うのは自分一人でいいなんて言っておきながら、あの時私を誘った! 本当は君だって一人だけで戦うなんて無茶だって分かってるんだろ!? 心細いんじゃないのか!」


 言ってしまった……。

 なんとなく、今のは私が触れてはいけない事だったような気がする。


 すぐに後悔が押し寄せてきた。

 だけど、今度ばかりはノクスは私の言葉にも振り向くことなく、そのまま孔の中に消えていってしまった。


「ノクス……」


 巴と私の言葉は……どうやっても今のノクスには届かないんだろうか。

 せっかく、今日は一緒に天使と戦って分かり合えたと思ったのに……。


《ノクス──美月ちゃん。みっちゃんか~……》

「ヒカリ?」


 ヒカリが念話で、巴が呼んでいた美月ノクスのあだ名をつぶやいた。

 念話からは、ヒカリが美月に親しみのようなものを感じているのが伝わってくる。


《私ね~……どうしてかあの子の事知ってる気がするの~……どうしてだろう》

《それは……》


 分からない……。

 もしかしたら、以前巴と話した事──普通の妖精が知るはずがない事を、ヒカリがなぜか知っているという事に美月も何かしら関わっているんだろうか?


 あるいはヒカリが美月の姉、ルクスと何か関係が──と、そこまで考えたその時、


「ステラー!」


 シルフィがいきなり私に抱きついてきた。


「え!? シルフィ!?」


 な、なんで!? どうしていきなり!?

 シルフィは困惑する私に軽くウィンクをすると、そのまま肩に手を回してくる。


「いやー、お疲れ様! 天使を倒せてよかったね、ほんと! 最後の一撃もすごかったよー! スターダスト……なんちゃら!」

「スターダスト・アローです……」


 私は小声で技名を訂正した。


 う……改めて人に技名を指摘されると、なんだか恥ずかしくなってきた。


「そうそう! すごかったねー! ね! クローラ!」


 シルフィはやけにハイテンションだ。

 とてもニコニコとしながら私を褒めて、クローラにも笑いかけている。


「そう……ですね」


 そんなシルフィの明るさに釣られたのか、クローラにもほんの少しだけ笑顔が戻った。


「まあ、あのネーミングセンスはどうかと思いますけど……たしかにすごかったです」


 ……いつものように私をからかう元気も戻り、クローラはシルフィと一緒に笑っていた。


 これは私の想像だけど、多分……シルフィがいきなりハイテンションになったのは、私と巴を元気付けようとしているからだと思う。

 実際、シルフィのおかげで暗くなりかけていた空気も少し明るくなった。


「ほんとですよ! いつの間にあんな必殺技習得したんですか? 今度、アタシらにも教えてくださいよー!」

「もう、ローズ。あんまりステラさんに無理言っちゃ駄目だよ。でも、本当に凄かったですステラさん」


 固い表情をしていたローズ達も、大げさに喜ぶシルフィに釣られて笑みを浮かべている。


「……ありがとう、みんな」 


 私はひとまず、ヒカリやルクスの事を考えるのは止める事にした。

 せっかく、シルフィ達が気を使ってくれたんだし、いまは天使を退けれた事をみんなと喜んだほうがいい。


「……先輩」

「いつか……いつかきっと分かり合えるさ。クローラ」


 私はまたクローラの頭の上に手を置いて、そんな慰めの言葉をかけた。


「はい……そうですね、先輩……」

 

 クローラは返事をして、わずかに微笑んでくれた。


 けれど……きっといまの私の言葉は、大して気休めにもならなかったと思う。

 どことなく、クローラの笑顔が固いのがその証拠だ。


 だけど、それは今日に限らず……いつもそうだ。

 巴はいつも、本当に心の底からは笑っていないような気がする。

 いつも笑顔の裏に何かを隠して、辛そうにしている。


 例外があるとすれば、それは私をからかう時ぐらい……と思うのは自惚れかも。

 

 だけど、私は気休めで「ノクスとはいつかわかり会える」なんて言ったつもりはない。

 いつか本当に……ノクスと分かり合って、クローラとも仲直りをさせてみせる。

 そして、クローラを──巴を心の底から笑わせてみせる。


 私は密かに、そう心に決めた。



「おおー戻ってきたー!」


 ノクスが立ち去ったすぐ後、結界が完全に崩壊して、私達は映画館内へと戻ってきた。

 同じように、結界から映画館内に囚われた人達が戻ってきていたので、私達は正体を隠すためにこっそりと女子トイレへと移動し、その中で変身を解除する事にした。


 ……当然だけど女子トイレに入るのは初めてだ。


「なんだか魔法少女の姿でトイレに入るのって変な感じだねー」


 シルフィがなぜか少しうきうきとしながら言った。


 ……たしかにシルフィの言うとおり、この格好で女子トイレにいるのはだいぶ変な感じだ。

 まあ、私は正体が男だからもっと変な感じなんだけど……。


「この後、みんなで打ち上げとかどうですか? アタシら二人はこの後はとくに用事ないんですけど」

「お! いいねー! 私も用事無いよー! ステラとクローラは?」

「私も先輩もいけますよー。ね、先輩?」

「あ、ああ……うん」


 女子トイレの中で、みんなは雑談を交えながら次々に変身解除していく。

 当然、私も変身を解除をするのだけど、他の魔法少女達がいる前──それも女子トイレの中だ。


 元の男の姿──勇輝の姿に戻るわけにはいかないので、また沙希の姿になるしかない。

 私は変身解除に合わせて、こっそり沙希の姿へと変身した。


「おお、すごい美人!」


 沙希の姿になった私を見て、シルフィが大仰に驚いた仕草を見せた。

 そういうシルフィも、少しパーマのかかったミディアムヘアがよく似合う綺麗なお姉さんだった。高校生ぐらいかな?


 だけど、まあ……たしかに沙希の姿は、シルフィの言う通りかなり可愛い。

 正直、このままモデル事務所とかに行けば、即スカウトされそうなレベルの美少女だと思う。


 と、そんな事を考えていたら、


《恥ずかしいからあんまりそういう事言うのも、考えるのもやめてよ~……》


 また私の考えを読んだヒカリが、なぜか恥ずかしがっていた。


《……だから、何でヒカリが恥ずかしがる》

《それは……わかんないけど、嫌なの! ……あと、女子トイレの中だからって、その姿でそのままトイレ使うのは駄目だからね~……》


 誰がするか!


「沙希さん? どうしたんです? トイレ使っていくんですか?」

「え!? いや……」


 ヒカリが変な事を言ったせいだ。

 視線がついトイレの個室に向いてしまい、そのせいで私は凛々花ちゃんにトイレに行きたいと思われたらしい。


「へえ~トイレ我慢してたんですか、先輩?」


 正体を知っている巴は、私を見て愉快そうにニヤニヤと笑っている。

 こいつ……すっかり元気になったな。


「いや、我慢してない。してないから! さあ、帰ろう!」


 私は巴のからかいを無視して、そそくさとトイレを後にした。


 おそらく、もう二度と女子トイレに入る事は無いだろう。

 多分……。


《ところでさ~。美月ちゃんとのデートはどうなったの~?》

《あ……》


 そういえば、今日は美月と映画を見に来ていたんだった。

 ヒカリに言われるまで、すっかり忘れていた。


《うーん……でも、ノクスも帰っちゃったしなぁ……》

《そうだね〜……あのまま家に帰ったかもね〜……》


 マギキュアの映画が始まるのをとても楽しそうにしていたけど、さすがにあのシリアスな流れで、まさか映画館に戻ってきたりはしないだろう。

 映画館内には美月の正体を知る巴もいるわけだし。

 美月だって、今日のところは大人しく帰るはずだ。


 としては美月にデートをすっぽされた形になるが、仕方がない。


「せんぱーい! 置いていきますよー! それともやっぱりトイレ行ってきます?」

「行かないから!」


 私はしつこくからかってくる巴をあしらないながら、少しだけ美月の姿が探した。

 けれど、予想通りどこにもいない。


 やっぱり、あのまま家に帰ったのだろう……私はそう納得して、みんなと一緒に映画館を後にした。



 

───────────────




《……あんな事言って、立ち去ったのに……結局、映画館に戻ってくるんだね》

「……うるさい」


 私はいま……バロンが念話で嫌味を言ってくるのを無視しながら、物陰に隠れている。

 天使を倒した後、私はまだマギキュアの映画を見ていない事を思い出し、映画館に戻ってきていたからだ。


《あんな風に拒絶した後なのに、マギキュアの映画を見るの? それも男の子と。そんな君の姿を見たら、巴もなんて言うだろうねぇ……》


 ネチネチと……ほんとに嫌な奴!

 だけどこいつの言う通りでもある。映画館にはまだ、私の正体を知るクローラ──巴がいる。


 あんな啖呵を切ったすぐ後に、年上の男の子と映画館にいる所なんて見られたら……気まずいなんてもんじゃない。

 偉そうな事を言っておいて戦いの後はのんびりデートかと、呆れられてしまうかもしれない。


 だから私は巴達に見つからないように物陰に隠れながら、こっそりと日向さんを探している。


《もう今日は映画どころじゃないし帰ったら? 後でメールで謝っておけばいいんじゃないかな》

「せっかくチケットまで用意して誘ってくれたのに、勝手に帰るなんて日向さんに失礼。それにマギキュアの映画も見たいし」

《もう何回も見てるでしょ? いい加減飽きない?」

「うるさい! 何回見てもいい映画なの!」


 バロンはお姉様ルクスのパートナー妖精だったくせに、マギキュアの良さが全然分かっていない!

 そもそもお姉様だってマギキュアを見てからこそ、魔法少女を志したんだから、何度見てもいいはず!


《ふーん……あ、巴だ》

「え!? 」


 私は慌ててまた物陰に身を潜めた。

 そして、顔を半分だけ物陰から出して、巴の様子を窺った。


 巴はどうやら変身解除した他の魔法少女達と一緒にいるようだ。

 その人数は、巴を含めて五人。


 ローズ──四宮凛々花。

 コスモス──茅野優愛。

 シルフィ──七海風歌ななみふうか


 そして────


「──え?」

《な……》


 私とバロンは……。最後の一人を見て絶句した。


 巴や他の魔法少女達と一緒にいるという事は、あの最後の一人は変身解除をしたステラなはず。

 私はステラの正体を知らない──だからその少女は私の知らない姿をしているはず……していないとおかしい。


 なのに……姿


「な、なんで──どうして?」


 私はその少女を──私のよく知る姿をしているステラを見て、呆然としながら呟いた。


「どうしてそこにいるの………………?」

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