第二十六話 共闘する魔法少女
────あのノクスがあんなにもダメージを負うなんて……。
いま目の前にいる天使は、間違いなく私がこれまでに戦ってきたどの魔獣よりも強い。
天使の動きは私が反応しきれないほどに早く、発射する光弾は
攻撃を少しでも喰らうと危険だ。
だけど、切断された片翼を見る限り、防御力の方は規格外に強いというわけではないように思える。
ということは、さっきのようにこの五人で連携して光弾を避けながら攻撃を続ければ、きっと勝機はあるはず!
「よーし! 行くよー!」
まず最初に先陣を切ったのはシルフィだ。
「風よー! 集まってー!」
シルフィは指揮者のようには手を振りかざしながら、あたりに旋風を巻き起こしていく。
そして、旋風はシルフィの手の動きに呼応して次第に大きくなり、やがて巨大な竜巻へと変化していく。
シルフィのギフト──『風』を操る能力によるものだ。
「吹き飛べー!」
シルフィは右手を大きく振りかぶり、作り出した竜巻を天使へと向かわせた。
竜巻は辺り一面の瓦礫を巻き込みながら、猛スピードで進んでいき……そのまま天使を飲み込んだ。
かなり強力な攻撃だ。シルフィは前にノクスに襲われていた時よりも強くなっているようだ。
だけど、そんな強くなったシルフィの全力の魔力が込めらた竜巻は、天使が片翼をはためかせたたけで、呆気なく消し飛ばされてしまった。
「えー!? ウソ!?」
大げさに驚いて、声を上げるシルフィ。
竜巻を消し飛ばした天使は、何事も無かったかのようにシルフィの方へとむきなおり、また背後に無数の光弾を作り出し始めてしまう。
「うわー! 撃たないでー!!」
顔を手で覆いながら、シルフィが悲鳴をあげた。
そして、その直後──天使は光弾を発射して、周囲の水没した廃墟を次々と破壊して、水しぶきと瓦礫を空高く舞い上がらせた。
「……なーんてね!」
シルフィはそんな凄まじい破壊の光景を
そう、天使が放った無数の光弾は全て見当違いの方向へと飛んでいき、シルフィと私達には一発も命中していない。
竜巻にローズとコスモスの『幻惑』のギフトが作り出した花弁が巻き込まれていて、天使はそれに触れたせいでシルフィに攻撃を当てる事が出来なかった。
ここに来るまでに立てた作戦通りだ。
「ありがとう! ローズ! コスモス!」
シルフィは満面の笑みでローズとコスモスにお礼を言って、親指を立てた。
「二回も同じ手に引っかかるなんてマヌケな奴ねこいつ!」
ローズがシルフィに親指を立て返しながら、天使を見て言った。
その顔はとても得意げだ。
「でも凄い威力……上手くハマってくれてよかった……。シルフィさん、ありがとうございます」
コスモスはそう言うと、シルフィにペコリと頭を下げた。
「いいってことよー!」
二人に頭を下げられたシルフィは照れくさそうに頭をかいた後、今度は私に向かって親指を立てて、ついでにウィンクを飛ばした。
そして、まだ幻惑の中にいる天使を指差し、
「ステラー! 今のうちだよー!」
「……うん!」
私はシルフィに頷いて返事をし、腰のカードホルダーから魔獣カードを取り出した。
そして、それを
「行け! 天使を凍らせろ!」
「フオオオォ!」
私の命令を受けたジャックフロストは、冷気を天使に向かって放出する。
幻惑の中にいるせいで天使は、冷気を避ける事が出来ない。
そして、天使の体はみるみる凍りついて、動けなくなっていく。
けれど、天使はそれでもまだ抵抗を続けていた。
凍りついて動けなくなりながら、また背後に光弾を作り始めている。
「もう撃てるのか……!」
ついさっき無数の光弾を発射したばかりなのに……。
やっぱり攻撃のインターバルはほんの僅かしかない。
そして、天使は幻惑で私達の位置が分からないはずだけど、おそらくあの光弾の狙いは攻撃じゃない。
体が凍りつくよりも前に光弾を発射して、その熱で体にかかる冷気を吹き飛ばすつもりだ。
けど、そうはさせない!
「このまま畳み掛けるよシルフィ!」
私はシルフィに呼びかけながら、新たな魔獣カードを取り出した。
「オッケー! ステラ!」
シルフィは手で合図を送り、返事をした。
私はシルフィに頷き返しながら、カードを
「よし……現われろ! 『ハーピィ』! 」
そして、風の魔獣『ハーピィ』を召喚して、ジャックフロストの冷気を風で援護させた。
「私も援護するよー!」
ハーピィに続いて、シルフィもギフトの『風』もジャックフロストの冷気をさらに加速させる。
無数の光弾を浮かべていた天使は、それを自分の体に当てて冷気を溶かそうとしてるが……私達の風で、猛吹雪のように激しい勢いとなった冷気の前では、無駄な努力だった。
猛吹雪は天使をあっという間に氷像へと変えていく。
そして、数秒もすると天使はとうとう完全に凍りついて動かなくなり、背後に浮かべていた光弾もすべて消え去った。
「やった……?」
氷像と化した天使を見ながら、コスモスが自信なさげに呟いた。
「……大丈夫」
私も不安だったけど、天使が動き出す様子はない。
どうやら作戦は見事に成功したようだ。
「やったー! なーんだ! 光のたま? みたいなのは凄かったけど、みんなで戦えば大したことなかったねー! いえーい!」
「いえーい!」
シルフィとローズはハイタッチをして、大喜びしている。
そしてひとしきりハシャいだ後、
「なんか呆気なかったけど、もしかしてアタシ達が強すぎたとか?」
ローズは凍りついて動けない天使を見て、ドヤ顔でそんな事を言った。
隣でシルフィもドヤ顔で腕を組んでいる。
……なんだか二人はすごく調子に乗っているけど、無理もない。
実際ローズ達の連携は見事だった。
けど……
「いくら何でも呆気なさ過ぎる……」
いくらみんなで連携したとはいえ、あのノクスを倒した天使がこんなにあっさり倒されるなんて……。
天使を完全に拘束したのに、不安がどうしても消えない。
「はい……私もそう思います、ステラさん……」
コスモスも私に同意して、緊張した面持ちで天使を見つめている。
「えー考え過ぎでしょー? ステラちゃーん! ちゃちゃっと封印しちゃってよー」
シルフィが肩に手を回しながらそんな事を言った。
「ちゃんって……」
シルフィは天使を完全に倒したと思っているのか、えらく陽気だ。
けど、それにしたってステラちゃんって……。
あと、そんなに密着されると色々と困るんですけど。
でも、たしかにシルフィの言う通りではある。
天使を氷結させて無力化した以上、すぐに封印するべきだけど……。
「まだ……封印は出来ない。そうでしょう? ステラ……」
ノクスが私の代わり、言いたかった言葉を口にしてくれた。
「ノクス……」
離れた場所で休んでいたはずなのに……ノクスはいつのまにか私達のいる場所までやって来ていた。
「もう体は大丈夫なのか?」
いや、どう見ても大丈夫じゃない。
まだ魔力が回復しきっていないのか、ノクスはまだ苦しそうだ。
「まだ寝ていないと……」
私は心配になって、ふらつくノクスの体を支えた。
「〜〜〜〜っ!」
すると、ノクスは少しを顔を赤くしながら私の手を振り払い、会話を続けた。
……そんなに過剰に反応しなくても。
「わ、私の事はいいの! それよりもあなたの
「いや……」
ノクスの言う通り、私の
封印する時はいつも、カードが勝手に魔獣の方へと吸い寄せられていくのに。
「え? それって反応しないと何かよくないんですか?」
「ですかー?」
ローズとシルフィが私とノクスの顔を交互に見つめて、声をハモらせながら質問をしてきた。
《なんだか二人共、仲良くなるのが早いね~》
……たしかに。
ヒカリの言う通り、二人は今日が初対面のはずなのに、かなり息が合っている。
二人とも明るい性格だからだろうか。
「ローズ。前にステラさんから聞いたでしょ? 魔獣を封印するには、ある程度弱らせないといけないって」
「そうだっけ?」
「もう……」
コスモスはローズに少し呆れながら、
「つまり……封印に使うその白いカードが反応しないのは、魔獣を弱らせないといけないって事と関係があるんですよね」
私にそう言った。
さすがコスモス。以前一緒に訓練をした時も思ったけど、説明に対する理解がとても早い。
私はコスモスに頷きながら、話を続けた。
「うん、この
すると、さすがにローズも察したのか、ギョッとした表情で天使を見る。
「げ! それってまだ全然弱ってないって事なんですか!? あんなにカチコチに凍りついてるのに!?」
「うそー!?」
ローズとシルフィが悲鳴を上げた。
二人はものすごくショックを受けていた。
だけど無理もない。
さっきは呆気ないと言ったけど、攻撃自体はみんな全力で行なっていた。
それなのに実はあまり弱っていないと言われたのだから。相当ショックだったのだろう。
正直、私も同じ気持ちだ。
天使の片翼を切断出来た時は、やっぱり防御力の方はそれほでもないと高を括っていたけど、それは間違いだった。
とんでも無い耐久力だ……。
一応、凍らせて身動きを封じる事には成功しているけど、下手な攻撃をするのは危険かもしれない。
攻撃をしてもダメージはほとんどなく、氷だけが割れるかもしれない。
一体、どうすれば……。
《先輩! 聞こえてますかー!》
その時、突然脳内にクローラの声が響いてきた。
この声はクローラの『情報』のギフトによる遠距離念話だ。
「ああ、聞こえてる。クローラ。あの天使は今どうなってる? 『情報』のギフトで弱点を探れないか?」
私は凍りついた天使を見つめながら、クローラに言った。
クローラの『情報』のギフトは、彼女がその目で見たありとあらゆるものを分析して解析をする能力を持っている。
そして、今は私達の視界と『情報』のギフトの力でつながっているから、ここから離れた場所で囚われた人々の側にいるクローラにも、私達の目を通して天使を分析する事が出来る。
《弱点まではまだなんとも……天使は魔獣の魔力に相当するエネルギーが普通の魔獣よりもとても多いって事ぐらいしか……あ!》
「どうした!?」
クローラが何かに気付いて声を上げた──と同時に、凍りついた天使の体がにわかに光を帯び始める。
「クローラ……これはまさか……」
この光がさっきの光弾と同じようなものだとしたら──嫌な予感が私の頭をよぎり、緊張で心臓の鼓動が早まっていく。
《そのまさかです……天使のエネルギーが増大していて、多分これは……あいつ! 自爆する気です!》
「自爆!?」
悪い予感が的中してしまった──あんなとてつもない攻撃をしていた天使が自爆したら、一体どれほどの……。
ともかく、すぐにここから逃げないと!
「みんな! 私のハーピィとシルフィの風で逃げるよ! シルフィ! 頼む!」
私はみんなに向かって叫び、指示を出した。
そして、ハーピィの魔獣カードを解放して、風を作り始める。
「え!? あ、ああ……うん!」
シルフィは焦る私を見て一瞬驚いた後、すぐに真面目な顔で頷いた。
そして、シルフィは私と一緒に大慌てて風を作り出し、それがある程度大きくなると、
「よーし。みんなー! 乗ってー!」
みんなをそこに乗せた。
あとはこの風に乗って、出来るだけ天使から距離を取るだけだ。
私とシルフィは少しでも遠くへ逃れようと、風にありったけの魔力を籠めた。
だけど……一歩遅かった。
「ステラ! 天使が!」
ノクスが悲痛な声を上げ、背後から眩い光が迫ってくる。
「くっ……!」
風に魔力を籠めながら背後を振り返ると、天使は全身に光を帯びていて、不気味に脈動していた。
天使はその光をさらに増大させ────……
《ステラ! 逃げて!》
そして、周りの廃墟全てを吹き飛ばすほどの大爆発を起こし、激しい光が辺り一体を飲み込んでしまった。
「……っ」
当然……そんな大規模な爆発からは逃れられなかった。
背後から迫る光に、私達はなすすべもなく飲み込れてしまう。
そして私の意識も……そこで途絶えてしまった。
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