第十七話 特集される魔法少女
マギメモ・魔法少女特集
第二十三回『マジカル・ステラ ─魔法少女の流儀─』
魔法少女──それは人々の感情を糧として喰らう『魔獣』と戦う宿命を持つ者。
彼女達は日夜増え続ける魔獣から人々を守るため、今日も戦い続けている。
そんな魔法少女達の中にあって、新人ながら短い期間で数多くの魔獣を倒し、注目される魔法少女がいた。
魔法少女──マジカル・ステラ(14)である。
まだ魔法少女になって三ヶ月だというステラ。
彼女は短い期間の活動にも関わらず、彼女は多くの人々を魔獣から救い、感謝されていた。
ステラに助けられた人々は彼女をこう語る。
「私はマジカル・ステラに魔獣から命を救われました。あの時、ステラが来てくれなかったらと思うとゾッとします……。彼女は噂通りに強く、美しく、清らかな心の持ち主でした……。彼女は私にとって救いの女神です……」
「ステラちゃんのおかげで暗い人生に光が差し込みました! 出勤前はいつもマギメモで活躍をチェックしてます! ステラちゃんマジ天使!」
魔獣から人々の命を救い、そして魔獣被害者や応援するファンの心をも照らすステラ。
そんな彼女が救い、希望を与えるのは一般人には限らない──魔法少女すらもその対象だ。
「ステラさんは本当に凄いんです! 強いし! カッコイイし! アタシ達も魔法少女になってまだ二ヶ月なんですけど、たった一ヶ月違いでステラさんはずっと先に行ってるんです!」
「戦いの強さも……なんですけど、精神的に私達よりも成熟してるんです。短い間ですがステラさんとは一緒に戦って、訓練も指導してもらいました。ステラさんからは日々の訓練の大切さと、親友を思いやる事の大切さを教えてもらいました。いつか私達もステラさんのような、素敵な魔法少女になれたらって……そう思ってます」
同じ魔法少女からも敬われ、慕われるマジカル・ステラ。
三ヶ月で彼女はいかにして強くなり、数多くの魔獣を倒したのか。
今回は彼女の二日間の訓練に密着し、その強さの秘密を探った。
□□□
──土曜日の朝、午前五時。
ステラは自宅を出て、訓練をするために山へと向かう。
自宅から電車で三十分程移動し、さらに駅から降りた後も三十分ほど歩き目的の山へと到着する。
そしてさらに宿泊に利用する山小屋を目指し、険しい山道をひたすら歩いて行く。
山小屋は遠く、到着まで一時間ほどかかるという。
「魔法少女は強さは心の強さなんです。変身後に身体能力が上がるとはいえ、その力は自分自身の精神力やイメージする力に左右されます。なので、こうやって険しい山道を歩く事も無駄にはなりません。苦しい事に耐える、心の体力をつける事が出来るからです」
身体を動かし、精神を鍛える事が変身後の強さにも繋がると語るステラ。
目的地までの移動も訓練として無駄なく利用しつつ、宿泊に利用する山小屋へと到着した。
これから彼女は二日間、一体どんな訓練をするのだろうか?
「基本はさっき言った事と同じですね。精神を鍛える訓練です。魔獣との戦いは時に辛く苦しく、心が挫けそうになる事があります。ですが、魔法少女の力の源は精神力なんです。心が屈服した時、魔法少女は力を失い敗北します。逆に言えば心が折れない限り、魔法少女は負けません。心の強さこそが魔法少女の強さなんです」
────心の強さこそが魔法少女の強さ。
精神を鍛える事が魔法少女としての強さに繋がるとステラは語る。
ステラは山小屋に荷物を置くと、軽くストレッチを行った。
訓練のために、さらに山奥へと移動するからだ。
ステラはストレッチを終えると、さらに険しい、道とも呼べない森の奥へと進み続け、およそ三十分程が経過した。
「ここです」
そしてステラは、大きな樹木で立ち止まった。
この樹木の辺り一帯が、いつも訓練に使う場所だとステラは言う。
樹木の前で魔法少女へと変身したステラは、座禅のような姿勢をとって目を閉じた。
「今からする訓練は精神を集中し、魔力を作り続ける訓練です。スポーツに例えるならランニングなどの基礎体力作りのようなものです。先程、魔法少女の力の源は精神力だと言いましたが、あれは根性論ではないんです。魔力とは魔法少女の願いによって生み出され、魔法として形になるからです」
しかし、魔法は願い続ける限り無制限に魔力が生み出されるというわけではないとステラは語る。
「例えば、勉強などで難しい事をずっと考えていると疲れると思いますよね? あれと同じで、魔法を使おうと思考すればするほど私達の精神は疲労します。そして疲労が限界に達すると、私達は魔力を生み出せなくなります。では運動をして体力をつければいいのかというと、魔法少女は変身した時点で常人を上回る身体能力と体力になるのであまり意味はありません。集中して考え続けるだけの精神力そのものを鍛える事が、魔力量を増やすことにも繋がるんです」
語り終えたステラは集中し、精神統一をして生み出した魔力を操作し、全身へと巡らせる。
この魔力操作の訓練の積み重ねが生み出す魔力の量を増やし、素早く魔法を使用する事に繋がるのだそうだ。
そうして、魔力操作の訓練は四時間にも及んだ。
ステラは一旦山小屋へと戻り、一時間ほど昼休憩をとった。
そして休憩と昼食を終えると、また三十分程歩き、先程の大きな樹木の前で立ち止まる。
再び変身したステラは、素振りを交えつつ魔法で剣や槍などの武器を何度も作り出しては消していく訓練を行った。
また、魔力放出や
「さっきの訓練が体力作りとするならば、今している訓練は剣道や空手の型の訓練に近いですね。あらかじめ使う魔法のイメージを身体に覚え込ませ、消費する魔力と時間を短くさせる事が目的です。あやふやなイメージで行使した魔法はなかなか形にならないし、魔力を多く消費してしまいます。武器や防御に使う
二時間程、魔法と身体能力強化の訓練を続けたステラ。
土曜日を半日以上使っても、今日の彼女の訓練はまだ終わらない。
次にステラが行うのは魔法少女の固有能力『ギフト』を使用した訓練だ。
「ギフトは魔法少女が持つ個性そのものです。例外はありますが、ほとんどの場合は人によって全く違うギフトになるので、こればかりは共通の訓練方法は無いですね。いかに己のギフトと向き合うか。これに尽きます」
マジカル・ステラのギフトは魔獣をカードに『封印』する固有能力だ。
封印のギフトは、魔獣を封印したカードを魔法杖『オーヴァム・ロッド』へと挿入することで、魔獣を使役したり、魔獣の力を借りて自身を強化する事などが可能な強力な能力だ。
「たしかに魔獣の力を使えるのは強力です。魔獣を封印すればするほど、戦術の幅も広がるし、魔獣カードを予備の魔力源としても使用出来ます。しかし、きちんと封印した魔獣の能力を把握して使わないとただの器用貧乏にもなりかねないんです。だから、こうして週末は封印して手に入れた魔獣の能力を把握するため時間を設けています」
強力なギフトに驕らず、ここでも訓練を怠らないステラ。
ステラはこの日、二時間かけて自らが獲得した魔獣カードの能力を把握し終えた。
このひたむきさこそが彼女の強さの秘密なのかもしれない……。
──夕方、午後五時半。
日が暮れ始め、ステラは山小屋へと戻った。
そして、当サイト『マギメモ』の魔獣情報をチェックする。
訓練を行う土日も、ステラは魔獣退治を怠らない。
「魔獣を倒す実戦のための訓練ですからね。当然です」
と、その時。
マギメモ情報掲示板に、山の麓の街に行方不明者及び魔獣の出現情報が書き込まれた。
ステラはすぐに魔法少女へと変身し、生身で一時間ほどかけた道のりを一瞬で駆け抜け、現場まで急行した。
この日、訓練に使った山の麓で発生した魔獣は五件。
そのうち二件の魔獣を一人で片付け終え、ステラは再び山小屋へと戻った。
──夜。午後九時。
魔獣を倒し終えて、山小屋で晩御飯を終えたステラは今日の戦いの反省を始めた。
どうすればもっと効率よく魔獣を倒せたか、使った魔獣カードは適切であったか等を省みる。
反省点を書き終えたステラは、また大きな樹木の場所まで移動し、反省ノートを確認しつつギフトや魔法の訓練を行う。
──夜、午後十一時。
ステラは今日の訓練を切り上げ、就寝の準備に入る。
だが、なぜかその場を動こうとしない。
朝の訓練のように、座禅のような姿勢で目を閉じている。
「今日はこのまま魔力を作り、体内で循環させながら就寝します。この訓練はたとえば戦闘中、やむを得ず意識を失った場合にも変身解除する事なく、逆に無意識に体内で作った魔力を循環させて身を守る事が出来ます」
なんと……ステラは山小屋に用意したシュラフを使う事なく、このまま訓練を続けながら就寝するという。
「シュラフは念のために持ってきただけです。この姿勢で朝まで就寝するのは、一見すると辛い訓練のよう見えますが、慣れれば変身して肉体も強化されているので次の日に疲労を残す事はありません。むしろ体内で循環させた魔力で、コンディションがベストな状態に整うくらいです」
就寝時間までも訓練に利用するステラ。
結局この日、ステラが山小屋に戻る事はなく、就寝をしながら朝まで訓練を続けた。
──そして翌日、朝六時。
起床したステラは山小屋へと戻り朝食をとった。
そして、前日のような訓練を繰り返し、夕方に魔獣探索へと出かけた後帰宅する。
これがマジカル・ステラの週末の日課であった。
土日はほぼ毎週山で泊まり込み、このような過酷な訓練を毎週続けているという。
これほどまでに、ストイックに強さを追い求める原動力は一体何なのか、彼女に尋ねた。
「────後悔をしたくないからです。魔法少女とはいえ全ての人を救えるわけではありません。けど、自分の努力不足のせいで魔獣から救えたかもしれない人の命を失って、私は後悔したくはありません。少しでも多くの人々の命を、笑顔を魔獣から守りたい。それだけです」
魔法少女の宿命に向き合い、最善を尽くすため努力を惜しまない。
それこそが新人ながらもめざましい活躍を見せた、マジカル・ステラの流儀。
ステラにとって魔法少女とは────
「人々の命と、そして希望を守る存在……ですかね。ただ強いだけじゃ駄目なんです。魔獣から人々を守り、希望を守ってこその魔法少女だと私は思います」
魔獣から人々の命と、希望を守る魔法少女──マジカル・ステラ。
彼女は今日も、そして明日も人々の希望を背負い戦い続けていく──
文章:マジカル・クローラ
監修:マジカル・ステラ
□□□
「おお~……完璧じゃないか!」
完成したマジカル・ステラの特集記事。
それをネットカフェで確認して、俺は感動して思わず声を上げた。
「なんですかこれ……」
一方、一緒に記事を確認した巴は、俺の隣でものすごく嫌そうな顔をしていた。
何が不満なんだろう? 不思議でしょうがない。
「なんだよ巴……良い出来じゃないか?」
「いや、おかしいでしょ!? うちのメイン読者層は十代~二十代の女の子なんですよ? 最初はもっと軽い感じの記事だったのに! どうして先輩が監修したらこんな堅苦しい内容になるんですか!?」
訓練を終えた帰りの電車でぐったりしていたのに、今日の巴は元気いっぱいだ。
……というか、なんかキャラが違くないか?
「どうしてって……内容は弄ってないだろ?」
「文体ですよ、文体! 『今日は読者のみんなにマジカル・ステラの秘密を大公開しちゃいます☆』みたいな記事のタイトルが、どうして『マジカル・ステラ ─魔法少女の流儀─』になるんですか!?」
「ど、どうしてって……」
俺の額に突きつけた指をぐいぐいと押しながら、巴が文句を言ってくる。
たしかにタイトルは変えたけど、そんなに怒らなくても。
「こっちの方がカッコいいだろ? 内容も監修して、巴の記事に若干の手直しを加えたらこうなったんだよ」
「雰囲気が完全に別物なんですけど!? しかも、なんかパクリっぽいし! 先輩って天然なんですか!? 私の方がツッコミに回らざるを得ないとか……あぁ~どうしよう、これ……」
巴はひとしきり文句を言うと頭を抱えて蹲まってしまった。
ぶつぶつと「サイトの閲覧数が」とか「フォロワーの数が」とか独り言をぐちぐちと言っている。
そんなに嫌なのか……。
「でも、だったら何でこの内容で通したんだ? 確認しただろ?」
「そ、それは……。先輩の無茶苦茶な訓練に付き合わされたせいですよ! 疲れて眠いし、怠いし……それでついそのまま……。ああーもう! これでマギメモの人気が下がったら先輩のせいですからね!」
巴はそう言うとソファから立ち上がり、ぷりぷりと起こりながら個室を飛び出してしまった。
どうやら巴はこの記事が不評に終わると予測しているようだ。
だが、後日────
「え? アクセス数が……増えてる!?」
記事は巴の予想に反し、マギメモ読者には好評だった事がアクセス数の増加という結果として示された。
しかもTwitterなどの反応によると、普段はメインの読者層ではない、三十代以上の読者からも高い評価を得ることに成功していた。
若い読者には普段とは違う文体がかえって新鮮で、三十代以上の読者には真面目な文体が読むきっかけになったようだ。
こうして、マギメモは新たな読者層を獲得することに成功したのだが────
「こんなの絶対おかしいですよー……」
巴はなぜか不満そうにぼやくのだった。
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