第十五話 放課後の魔法少女

「それともこう言ったほうがいいですか?マジカル・ステラ・・・・・・・・先輩」

「なっ……!」


 まさか、俺の正体がバレてる!?

 とにかく否定しないと!──俺は慌ててベンチから立ち上がり、あたふたと手を振って否定した。


「なな、ななな、なんのこ────」


 だけど……動揺して噛みまくったせいで、逆に認めているようなものだった。

 セーラー服の少女にも笑われてしまった。


「あーいいですよ。今更、しらばっくれなくても。これ、証拠です」


 セーラー服の少女はそう言うと、自分のスマホの画面を見せてきた。


「え……?」


 俺は恐る恐る画面を見てみると、


「……な!?」

《あ、勇輝だ》


 そう、そこにはなんと……物陰で変身を解除して男の姿に戻るステラの姿が映っていた。


「────」


 終わった──社会的に。

 俺は頭の中が真っ白になって、足元がぐらぐらと揺れるような感覚に襲われた。

 セーラー服の少女は愉快そうに笑うと、ポニーテールを揺らしながら、俺の周りをぐるりと一周する。

 

「あーあ、今話題の新人魔法少女『マジカル・ステラ』の正体が実は男の子だったなんてー。みんな驚きますねー。幻滅されますねー。いや、一部では逆にこんな可愛い魔法少女が男の子だなんてむしろアリだ!みたいになるかもしれないですねー。勇輝先輩ー」

「くっ……!」


 最悪だ……。

 俺がマジカル・ステラだなんて事がバレたら、家族や友人はどう思うだろう?

 決まってる──夜な夜なノリノリで魔法少女に変身してる変態扱いだ。


 まず妹の日和はもう口を聞いてくれないだろうし、ステラ信者の茜はショックで発狂するかもしれない。

 大地は……馬鹿だから逆に興奮して、ステラに迫ってくるかもしれない……。


 今さっき別れたばかりの凛々花ちゃんと優愛ちゃんだってきっと、幻滅するはずだ……。

 それどころか、一緒の部屋で寝た優愛ちゃんからは警察に通報されるかもしれない!


 そしたら俺は少年院……いや、刑務所に入れられるのか?

 どっちにしろそうなったら、終わりだ……。


「ぁ……うぅ……」


 恐怖で足がガクガクと震える。気分も悪くて、吐きそうだ。


「どうしたんですか? 顔、真っ青ですよ?」

《大変だね〜》


 こいつら……人の気も知らないで!

 というか、なんでヒカリまで他人事なんだよ!


「……ななな、何が目的だ? おおお、俺を……脅すつもりか? 君は────」


 俺は震える手で指差しながら、セーラー服の少女に目的を訊いた。

 するとセーラー服の少女は俺の言葉を途中で遮り、


新垣巴あらがきともえです」


 急に名前を名乗り、微笑んだ。


「……え?」

「私の名前です。よろしくお願いします、勇輝先輩♪」

「先輩って……?」

「ああ、それは私は先輩の一個年下の中一なんで。 あ、それとも沙希ちゃん先輩って呼んだほうが良かったですか?」

「なっ……!」


 それは……俺が女の子の姿で、凛々花ちゃんと優愛ちゃんに会っていた時の偽名!

 この子、一体どこまで俺の事を……。


「まあまあ」


 驚く俺に、巴は手を下に向けて落ち着くよう促しながら、話しを続ける。


「そう身構えで下さいよ先輩。今日は先輩にお願いがあって来ただけなんですから」

「……お願い?」

「そう、お願いです。今度、マギメモでマジカル・ステラの特集を組みたいんで密着取材させてください」

「マギメモの取材? ということは、もしかして君は……」

「と・も・え」


 俺が「君」と言った途端、巴はまた言葉を遮って自分の名前を強調した。

 ……名前で呼べって事なのか? つんとした態度でそっぽを向いてしまっている。

 目を瞑り、口も固く閉ざしてしまっている。

 

「えっと、巴はマギメモの……管理人なの?」


 名前を呼ばないと話が進まない予感ががして、仕方なく俺は巴の名前を呼んだ。

 すると、巴はすぐにポニーテールを弾ませながら俺の方へと振り返り、ようやく口をひらいた。


「そうです! 私はマギメモ管理人こと、魔法少女『マジカル・クローラ』ちゃんです!」


 そして、巴は俺に自分の正体を打ち明け、なぜか嬉しそうに顔をぱあっと輝かせた。



 ────これが俺と新垣巴の……ステラとクローラの初めての出会いだった。



□□□



 翌日の放課後──俺は校門の前で人を待っていた。

 待っているのはもちろん、昨日のセーラー服の少女──巴だ。


 昨日言っていた「ステラの特集」の取材をするために、わざわざ俺の学校の前まで来るつもりらしい。

 ちなみに「校門は周りの目が気になるから別の場所で待ち合わせしないか? 」という俺の意見は却下されてしまった。


「……はぁ」


 深い溜息が漏れた。

 昨日あれだけ散々脅されて、からかわれたのに……。

 今日も巴に色々と根掘り葉掘り聞かれるだと思うと、正直気が重い。


「どうした、勇輝? ため息なんてついて」


 校門の前で暗い顔をしている俺を心配して、陸上部のユニフォームを着た大地が、準備運動しながら話しかけてきた。

 帰宅部の俺と違って大地は運動部の陸上部に所属していて、これから練習で校外をランニングをするらしい。

 他の部員は校門の前で溜め息をつく俺を不審そうに見ながら、既にランニングに出発していて、いま校門に残っているのは陸上部員は大地一人だけだった。


「悩み事か? ていうか、ここで何してんの?」

「いや……」


 俺は言葉を濁した。

 わざわざ心配して話しかけてくれたのは嬉しいけど……。

 巴を見たら「彼女か!」とか「女子とデートか!」とか言いだして、絶対騒ぐよなぁ……こいつ。


 早くランニングに行って欲しいんだけど……。 


「────っ!?」


 その時──突然、俺のスマホが振動した。


「……まさか」


 恐る恐るスマホを取り出して画面を確認した。

 するとそこには、SNSアプリの通知メッセージが表示されていて、「これからそっちに行きまよー沙希ちゃん先輩♡」と書かれていた。


「あいつ……」


 こんなメッセージを書くのは、もちろん巴だ。ハートマークとか書きやがって……。

 こんな誤解されるような文面を大地に見られたら──俺はすぐにスマホの画面を手で隠したが……


「おい……今、ハートとか見えたぞ!」


 遅かった。


「お前、最近付き合い悪いもんな!彼女だろ! なあ!」


 ああ、もう……案の定、大地が騒ぎ始めた。

 こうなるのを見越してハートマークなんて付けたのだとしたら、アイツは天才だ。

 ……嫌がらせのな!


 俺はうんざりしながら、喚く大地に言い訳をする。


「そんなんじゃないって! どっちかというこれは脅迫メールで──うわっ!」


 急に目の前が真っ暗になって、俺は思わず声を上げた。

 なんだ? 誰かが両手で俺の目を塞いでいる!? 


「えへへ! だーれだ!」


 パニクる俺の耳元に誰かが囁く。

 女子の声だ。しかも……この背中に感じるふくよかな二つの感触は……。


「は、離せ!」


 俺は慌てて、目隠ししている手を振り払い、素早く背後を振り返る。

 すると、そこにはやはり予想通りの人物がいた。


「じゃーん! 答えは巴ちゃんでしたー! 勇輝先輩! お疲れ様です!」


 昨日、駅で俺を脅迫してきたセーラー服の少女──巴だ。

 俺に向かって敬礼のマネなんかをして、ふざけている。


「なっ!? おま────」

「と・も・え! 巴って名前で呼んで欲しいって前も言いましたよー?」

 

 まただ。

 巴は俺が「お前」と言いきるよりも前に言葉を遮り、不満そうにぷくっと頬を膨らませた。

 ……きっと昨日みたいに、俺が名前を呼ぶまで返事をしないんだろうな。


「巴……」


 俺は仕方なく名前を呼ぶと、


「はい♪」


 と、巴は嬉しそうに微笑みながら返事をした。


「………」


 こいつ……やけに可愛い子ぶってるな。

 昨日もそうだけど、こういう仕草がいちいち胡散臭くて、わざとらしい。

 ニコニコして密着すれば、俺が油断して警戒を解くとでも思っているのか?

 やりすぎて、可愛いさよりも不審さが勝ってしまっている。


 ……まあ、わざとらしくても、可愛いのには違いないんだけど。


「お前いきなり来るやつが……って大地?」


 巴に文句を言おうとしていた俺は、大地の様子が……まあいつもおかしいんだけど、よりおかしくなっている事に気がついた。


「おま……勇輝……あっ、あっ……!」


 大地は震える手で俺と巴の両方を交互に指差しながら、口を金魚みたいにぱくぱくと開け閉めしていた。

 ……俺はこの後の展開をなんとなく予想して、両耳を手で抑えた。


「……?」


 巴はそんな俺の行動の意図が分からずに首を傾げていたが、


「うぅ……!」

「え!?」


 急に地面に手をついて呻き始める大地を見て、驚いてギョッとした顔をした。

 多分、このまま叫び出すんだろうなぁ……。


「この……この! 勇輝の裏切り者オオオォォ!」


 やっぱり……。

 俺は耳を抑えたまま、予想通り勘違いをして叫び出す大地に心底うんざりした。


「俺が、俺がマネージャーも男しかいない、陸上部で汗水流している裏で、他校の女子と! ポニーテールで!セーラー服の!眼鏡っ娘の美少女と!付き合ってたのかよオオオォ!!!

「な、何なんですか、この人……」


 さすがの巴も大地にドン引きして、俺の後ろにさっと隠れた。

 校門の前で騒いだせいで、他の生徒や通行人にも不審そうな目を大地と俺達に向けている。

 ……俺もどこかに隠れたい気分だった。


「うぅ……」


 そうして大地はひとしきり叫んだ後、のろのろと立ち上がり、


「バーカ! 勇輝のバーカ! せいぜい眼鏡っ娘と放課後デートでも楽しんで青春を謳歌してろ! うああああぁぁ!!!!」


 そんな捨て台詞を残して、泣きながら走り去っていった。


「…………」


 あいつの奇行がよっぽど衝撃だったらしく、巴は大地が走り去った後も、しばらく呆然としていた。

 だが、走り去った大地の姿が曲がり角で見えなくなると、巴はまた俺の方を振り向いた。


「……じゃあ、放課後デートに行きましょっか先輩♪」


 そして、またからかうような事を言って微笑んで、俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。


「で、デート言うな!」


 くそ……からかわれていると分かっているのに。

 俺の心臓の鼓動は嫌でも早くなるし、巴を振り払う気にもなれない。

 だって……正直、こんな可愛い子にベタベタされるのは悪い気分じゃないし。

 むしろ普通なら良い気分だろう。


 ……正体を知られて、脅されてるんじゃなければな!



□□□



 学校を出て十分ほど歩き、俺達は取材についての打ち合わせをするために駅近くのネットカフェの中に入った。

 受付を済ませ、店員に指定された個室の中へと移動する。


「なんか狭いですねー?」


 巴の言う通り、個室の中は意外と狭かった。

 PCの前に置かれたロングソファのせいで、余計にそう感じるのかもしれない。

 一応ペアシートを選んだけど、お互いの学生鞄を置くとほんとに二人がギリギリ座れるぐらいのスペースしかない。


「もっと奥詰めてください」

「あ、ああ……」


 なので……必然的に俺と巴はこの狭い個室の中で、肩が少しぶつかり合う距離で座る事になってしまう。

 当然だけど、こんなところに女子と二人で来るのは初めてだから、ものすごく緊張する。

 前みたいに女の子沙希に変身もしてないから、自分は今は女の子だと言い聞かせて誤魔化す事も出来なくて、俺はガチガチに固まっていた。

 顔も少し熱い気がする。


《ねえ、勇輝~? 顔が赤いけど、狭い部屋に女の子と二人きりだからって、何かいやらしい事考えてない?》


 ヒカリが早速、俺に釘を刺してきた。

 

《か、考えてないけどさあ……でも……》


 そう、思春期まっさかりの中学生に意識するなというのが無理な話だった。


「ふぅ……少し熱いですねー」

「あ、ああ」


 巴がセーターを脱ぐ衣擦れの音、耳元で聞こえる巴の声と吐息、体に触れる巴の肩──なにもかもが俺を刺激する。


 そんな内心が顔に出ていたのか、


「あ……いま何かいやらしい事を考えてませんでした?」


 巴はじとっとした目で俺を見ながら、大げさに距離を取り始めた。


「かかか、考えてないし!!」

「うわぁ……動揺しすぎですよー。マジカル・ステラはむっつりスケベ……っと」

「おい、メモを取るな! メモを!」


 こいつ……どれだけ俺をからかえば気が済むんだ……。


「ところで先輩はネカフェ初めてなんですか? キョロキョロしてましたし。それなら、せっかくですし記念写真でも撮ります?」

「は?」

「うん! 撮りましょう! えい!」


 巴は答えを待たずにさっと俺の肩に密着させ、自分のスマホのカメラをこちらに向けた。

 そして、止める間もなく写真をパシャッと撮ってしまった。


「お、おい! 答えを聞く前に撮るなよ!?」

「ふふ、後で送ってあげますよ」


 巴は笑いがなら、撮った写真を俺に見せてくる。

 写真には顔を真っ赤にしている俺と、笑顔の巴が写っていた。


「くっ……」


 純情な男子中学生をからかいやがって……。

 昨日からずっと、巴に振り回されっぱなしだ。


 そうして俺がいい加減巴にからかわれることに疲れ始めた──その時だった。


「────おい、貴様。巴をいやらしい目で見るんじゃない。目を潰すぞ!」

「え?」


 突然、俺を罵倒する声がどこからか聞こてきた。

 

「誰だ? どこから……」


 辺りを見渡してみるけど、狭い個室には他の誰の姿もない。

 声の低い、大人の男性の声だったけど……。


「ここだ、ここ!」

 

 再びさっきの男性の声が聞こえてきた。

 今度は巴の肩のあたりからだ。


「あ……」


 声がした巴の肩をよく見ると、スーツを着たネズミがしがみついて、眉(無いけど)を顰めながら俺を睨んでいる。


「あ、この子は私の妖精でーす。名前はアルって言います」

「アルだ。よろしくなどと言うつもりはない。今すぐ巴の目から消えろ、この変態が」

「変態……」


 外見は可愛らしいのに、えらい毒舌だ。

 というか変態って……。


「すいません先輩。この子悪い子じゃないんですけど、思った事や本当の事をハッキリ言っちゃう子なんで」

「……それ、全然フォローになってないんだけど」


 酷いなこいつら……性格はあまり似てないけど、やっぱり魔法少女と妖精はどこか似ている部分があるようだ。


《まあ、本当の事だもんね~》


 ヒカリまで追い打ちをかけてくる。

 こいつは俺とは全然似ていないな……。

 

《ところで、ヒカリも挨拶していいかな~?》

《ん? ああ、そうだな》

《おっけ~》


 ヒカリは俺に返事をした瞬間、すぐに実体化して姿を現した。

 そして巴とアルに微笑みながら、挨拶をする。


「巴ちゃん、アル君よろしくね~。私はヒカリって言うの~」

「お、先輩の妖精さんですかー?ヒカリちゃんは猫の妖精なんですねー。あー……」


 ヒカリの姿を見た巴は、なぜか苦笑して頬をかきながらアルに視線を向けた。


「ね、猫……だと……」

 

 アルは身震いして、ヒカリに怯えていた。

 まるで猫を前にしたネズミ……というかそのものだ。


「どうしたの~?」

「き、貴様! 近寄るんじゃない!」


 アルが巴の肩に隠れながら、大声で叫んだ。

 ものすごくビビってる……。


「どうして~?」

「ど、どうしてもこうしてもあるか! 貴様は猫! 俺はネズミだ! 後は説明不要だろう! 」

「え~食べないよ~?」


 そう言うとヒカリは、少し気の毒になるほど怯えるアルにゆっくりと近寄っていく。


「ほら~大丈夫だよ~」


 そして両手(脚?)を広げて、自分の無害さをアピールし始めたが……はたして、それは逆効果だった。


「うおおおおお!!? 巴! 喰われる! 助けてくれ!」

 

 どうやら、アルには天敵の猫が自分を威嚇したようにしか見えなかったようだ。

 悲鳴を上げながら文字通り飛び上がり、そして姿を消してしまった。


「さて、自己紹介も済んだ所で早速取材といきますか。今日はよろしくお願いします。勇輝先輩」


 そんな何事も無かったかのように……。


「あ、うん……よろしく。あの、ホントに取材するだけなのか?」

「はい。あと正体もバラしたりしないので安心してください」


 ……本当だろうか?

 正直、信用は出来ないが、俺に拒否権は無い。

 巴が俺の正体をバラさないと信じるしかない。


「私はただ知りたいだけなんです。今、注目されつるある新人魔法少女マジカル・ステラの全てを。男の子なのに魔法少女に変身出来たわけを。そして始まりの魔法少女と同じ力を持つ理由を」

「始まりの魔法少女!?」


 聞き覚えのある単語に、俺は思わず体をびくっと震わせた。

 すると巴は意外そうな顔をして、俺に質問をしてきた。。


「あれ? その反応……もしかして、もう知ってたんですか?」


 俺は頷いて肯定し、ノクスという魔法少女から聞いたのだと説明した。


「あー……あの子が、ですか……」


 ノクスの名前を聞いた巴は、なぜか暗い顔で俯き、ポニーテールの毛先を指でくるくると弄り始めた。

 今までの飄々とした態度も消えていて、少し困惑しているようにも見えるが……。


「その……始まりの魔法少女って一体何なんだ?」

「……逆に聞きますけど、先輩はノクスからどこまで聞きました?」

「どこまで? それはたしか────」


 俺はノクスから聞いた話を思い出しながら、巴に説明した。


 ノクスが、始まりの魔法少女以外は全て紛い物だと言っていたこと。

 そして、その始まりの魔法少女が自分を犠牲にして魔獣から世界を救った時、世界中に力の欠片が拡散し、それによって他の魔法少女だと言っていたこと。


「んー……その説明で概ね合ってますね」


 巴は俺の話しを聞き終えると、少し迷いながら頷いた。

 どうやら、始まりの魔法少女というのは本当に実在するらしい。


「先輩……普通の魔法少女が一体いつごろ生まれたか知ってますか?」

「え? たしか……」


 俺はマギメモや新聞の記事を思い返しながら、巴の唐突な質問に答えた。


「……魔法少女の噂が広まって、マギメモが開設されたのが一年前だから……魔法少女も大体一年ぐらい前に生まれたんじゃないか?」


 そう、一年前だ。

 魔法少女の噂も行方不明者の増加も、全ては一年ほど前から増加している。

 だから、一年ほど前に世界中で同時多発的に魔法少女と魔獣が現れ始めたと、俺は予想していた。


 果たしてその予想は正解だったようで、巴は俺の言葉をまた頷いて肯定し、話しを続ける。


「はい、その認識でほぼ合っています。普通の魔法少女は約一年前に生れました。けど、始まりの魔法少女は違います。彼女はさらにその二年前に魔法少女になっています」

「そんなに前から魔法少女が!?」


 巴の話が本当だとすると、三年も前に既に魔法少女がいた事になる。

 まさか、そんなにも前に魔法少女が存在していたなんて……。


「じゃあ始まりの魔法少女というのは、文字通り最初に生まれた魔法少女という事なのか?」

「はい、そうです。魔法少女は元々、その始まりの魔法少女ただ一人だけでした。けど、最初は魔獣も数は少なく、彼女一人でもなんとか出来る数だったんです。それに彼女は強かった……。それこそ、今の魔法少女達よりも何倍も、何百倍も……」


 巴は始まりの魔法少女について語りながら、どこか遠くを見つめ始める。

 その表情と語り口からは、始まりの魔法少女への尊敬の念が感じられるような……そんな気がした。


「……どうして君やノクスは、そんな事を知ってるんだ? 始まりの魔法少女だなんて他で聞いた事もない。それに君達はその始まりの魔法少女をまるで見てきたかのように語るよね? 一体、君達は始まりの魔法少女とはどういう関係だったんだ?」

「それは……」


 俺は自分で訊いておいて、すぐに後悔した。

 始まりの魔法少女のことを訊いた途端に巴が元気を無くし、黙り込んでしまった。


「巴……答えにくい質問だったのなら……」

「いえ、大丈夫です」


 ……本当だろうか?

 心配する俺をよそに、巴はゆっくりと顔を上げ、そして始まりの魔法少女との関係を俺達に語り始めてくれた。


「……どうしてノクスや私が、始まりの魔法少女の事を知っているのか──それはノクスが彼女の妹で、私はそのノクスの友達だったからです」

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