第三章 取材編
第十四話 見抜かれる魔法少女
ノクスを退けた翌日。
私は優愛ちゃんと凛々花ちゃんに頼まれ、二人の魔力操作の基礎訓練を指導をすることになった。
次にまたノクスが襲ってきたとき、二人だけで勝つのは無理でも、せめて逃げ切るぐらいは出来るようになりたいらしい。
私は当然了承し、二人の訓練を開始──そして数日が過ぎた。
結論から言うと、二人は数日で驚くほど成長した。
凛々花ちゃんも、優愛ちゃんのように
二人はもう、並の魔獣では相手にはならない程だ。
やっぱり共に競い合い、支え合う仲間がいるというのが刺激になるんだろうか?
それとも心をより深く通わせた親友が一緒だから……なのかな?
どちらにせよ、私はそんな二人の関係が少しうらやましいと思った。
そうして、その後も訓練を続けて一週間が経った頃には、もう私とヒカリが二人に教えられる事はほぼ無くなった。
これ以上強くなれるかどうかは、二人のこの後の努力次第だろう。
つまり、私が側にいて指導する必要はもうない。
────私は訓練を終え、二人と別れる事を決めた。
□□□
そして、最後の訓練を終えた日の夕方──私達は駅の改札口近くにやって来ていた。
「沙希さん、ヒカリちゃん! 今まで本当にありがとうございました!」
「凛々花を強くしてくれて感謝だぜ!」
笑顔で私にお礼を言う凛々花ちゃんは、相棒のルビーと共に今日も元気いっぱいだ。
「本当に……本当にありがとうございました……沙希さん達のおかげで私達……」
「沙希もヒカリも……ありがとうなの……」
一方、凛々花ちゃんとは対照的に、優愛ちゃんとモルガは泣きながらお礼を言ってくれていた。
最初よりも明るくなった優愛ちゃんだけど、私との別れを惜しんでくれているらしい。
「二人共、本当に強くなったね~。これからも頑張ってね~」
「うん……本当に強くなったよ」
私は優愛ちゃんにつられて少し泣きそうになりながら、二人にそう言った。
「あの……沙希さん、ヒカリちゃん。本当に行っちゃうんですか? やっぱり私達があの時、喧嘩みたいになっちゃったせいで……」
優愛ちゃんはそう言いながら、しゅんとした顔で下を向いてしまった。
私はそんな優愛ちゃんの頭にぽんと手を置いて、
「それは違うよ。元々私と君たち二人は住んでいる地域が違うし、同じ場所で固まるよりも分担して魔獣退治をしたほうが効率的だからだよ。君たちはもう一人前の魔法少女だ。私がいなくても、もう大丈夫だよ」
二人の目を交互に見て、そう断言した。
まあ、でも……本当はそれだけが理由じゃない。
二人がもう一人前の魔法少女だから──もちろんそういう理由もある。
けれど、正直に言うと信頼し合い、本音をぶつけ合った二人が眩しくて、いたたまれない気持ちになってしまったからだ。
なにせ私は自分が男である事を隠している。
そんな私が、信頼しあう二人と一緒にいていいのだろうか?
いや、いいはずがない。
だから、私は二人とは一緒にはいられない。
……いては、いけないんだ。
「沙希さん……あの! アタシ! どんなに離れていても、沙希さんは私達の仲間だって思ってますから! ……友達だって思ってますから! メールとかもめっちゃしますから!」
「わ、私も……仲間で、友達だと思ってます……。それと……もし、私達だけで手に負えない魔獣がいたら、その時はまた一緒に戦ってくれますか?」
だけど、それでも二人は私を仲間だと……友達だと言ってくれている。
こんな嘘だらけの私を……。
「凛々花ちゃん……。優愛ちゃん……」
なんだか……感極まって、泣いてしまいそうだ。
今は勇気がなくて無理だけど、いつか本当の私を二人にも話せる日が来たら──そんな日が来たら、いいなと私は思った。
その時には……うん、優愛ちゃんの家に泊まった時の事をまず謝ろう。
不可抗力とはいえ冷静に考えるとあれは最低だった。
───ごめんなさい、色々と柔らかかったです。優愛さん……。
と心の中で謝りながら優愛ちゃんに微笑み、
「もちろんだよ。いつでも力を貸すよ。逆に私だけでは敵わない魔獣が出た時は、君達の力を貸してくれるかい?」
私は手を伸ばし、握手を求めた。
「はい! またいつか一緒に戦いましょう!」
「沙希さんのピンチには絶対、助けに行きますから!」
二人は私の手を握って、そう力強く言ってくれた。
「ありがとう。じゃあ、またいつか────」
私は凛々花ちゃんと優愛ちゃんに別れを告げ、階段を登って二人とは違う路線のホームへと移動した。
「沙希さーん!」
路線の向こうから、凛々花ちゃんが大声で手を振ってくれている。
凛々花ちゃんと優愛ちゃんの自宅は一駅違いの場所で、私はそのさらに数駅向こうに住んでいる。
私も二人と駅の方向は同じだけど、今日は少し帰りに用事があるので、いつもと反対側のホームにいる。
「元気だなぁ……」
私は凛々花ちゃんの元気さに少し苦笑しながら、手を振り返した。
しばらくすると反対側のホームに電車がやってきて、二人はそれに乗り込んでいった。
そして発車メロディが流れ、電車はゆっくりと動き出していく。
「またいつか、か……」
私は二人が乗った電車が遠ざかっていくのを見つめながら、ぼんやりと呟いた。
人気のない駅のホームに立っているせいか、だんだん寂しさが込み上げてきた。
またこれからは一人で戦うのだと思うと……少しだけ心細い。
一人で戦うのは慣れていたはずなのに、いつの間にかあの二人が一緒にいてくれるのが当たり前になっていたのかもしれない。
そんな私の寂しさを感じ取ったのか、ヒカリが念話で語りかけてきた。
《……一人じゃないよ。ヒカリも一緒にいるよ~》
まったく、相変わらず人の心を読むヤツだ。
けど、今はそんなヒカリの察しの良さがありがたかった。
「……うん、そうだね。ありがとう、ヒカリ」
《ところで、もう変身は解いていいんじゃないかな~?》
「あ、そうだった……」
最近、放課後はずっと
まだ電車が来るまでしばらく時間はあるし、元に戻っておくか。
「うーん……なんかこの身体に戻るのも、久しぶりな感じがするな」
久しぶりすぎて、なんだか懐かしさすら感じる。
俺は駅のベンチで大きく伸びをしながら、感慨深い気持ちになった。
《最近は放課後も休みずっと沙希の姿だったからね~。家と学校にいるとき以外はずっと女の子だったんじゃない?》
「あのままだとホントに女の子になっちゃうんじゃないかって、俺は少し心配だったよ……」
《アハハ、そうだね~。だって勇輝ってば、学校でもときどき
「マジで!?」
そうか……最近、俺を見る大地と茜の様子がおかしかったのは、そのせいだったのか。
いや、おかしかったのは俺のほうか。
ともかく、今後は気をつけよう……。
俺は男……男なんだ。少なくとも今は。
しばらくすると、ホームに人の姿がぽつりぽつりと増え始めた。
さっきは電車が発車したばかりだったが、いつの間にか次の電車の時刻が近づいていたようだ。
俺はヒカリと会話をするの止め、黙って夕暮れの駅のホームを眺める事にした。
念話で会話を続ける事も出来たけど、私は一人で少し考えたい事があった。
考えたい事とはあの黒い魔法少女──マジカル・ノクスの事だ。
『ステラ、きっとあなたは今日の事を後悔する。私の言うことを聞いておけば良かった、とね』
ローズ達と訓練をしたこの一週間、ノクスのあの言葉がずっと引っ掛かっていた。
魔法少女の敵だと自称するノクス。
だが実際の所、魔法少女の力を奪っているのは、魔法少女を戦いから遠ざけるためにしているように私には感じられた。
『魔法少女はみんなが私やあなたのように強いわけじゃない。力が足りず、魔獣に破れ散っていく魔法少女もいるはず。ステラ、あなたはそんな魔法少女の事はどう思ってるの?』
他の魔法少女の力を奪う事に反対だし間違っているとは思う。
けど、ノクスの言い分には否定できない部分もある。
たしかにノクスの言う通り、行方不明になった人達の中には、魔獣に敗れ死んでいった魔法少女もいるのかもしれない。
彼女達だって、日常では普通の女の子のはずなのに……。
『魔獣と戦う使命を持つ魔法少女だから人々を守り、命を散らすのは仕方のない事だとでも言うの? 魔法少女だって人間なのに!たまたま妖精なんかに選ばれたからみんなの代わりに戦って死ねと言うの!?』
もしかしてノクスは、友達や家族が魔法少女だったんだろうか?
親しい魔法少女が魔獣の戦いに敗れて死んでいったしまったから、他の魔法少女の力を奪おうとしているんだろうか。
一人だけで戦って、魔法少女に犠牲者を出さないために。
『……元々、魔法少女の力は『始まりの魔法少女』一人だけのモノだった。彼女が自分を犠牲にして魔獣から世界を救った時に、魔法少女の力は世界中に拡散していった。そして生まれたのがあなた達、紛い物の魔法少女』
そして、彼女が言う『始まりの魔法少女』なる存在。
その魔法少女が、今の彼女の行動に関係しているのか?
世界を救ったとは一体、どういう事なんだろう……。
「…………」
気になる事があまりにも多すぎる。
俺の思考は深い渦の中へと落ちていく。
「あのー? お兄さん、隣いいですか?」
だがその思考は、突然聞こえてきた誰かの声によって中断された。
俺が顔を上げると、そこにはなぜか楽しそうに微笑む、セーラー服の少女の姿があった。
「あ、うん。どうぞ」
「はーい。横、失礼しまーす」
セーラー服の少女は俺に断りを入れると、長い黒髪のポニーテルを揺らしながら隣に座った。
「ふむふむ……」
そして、なぜか眼鏡をわざとらしくカチャカチャと動かし、ときおり「ほう~」「なるほどな~」などと言いながら、俺をあからさまに観察をし始めた。
何なんだろう……この子は?
《勇輝、もしかしてこれってナンパかな~?》
《え!? い、いや、それはないだろ?》
ないよな……?
そう思いつつも、ヒカリが妙な事を言うせいで、俺は視線をつい隣へと向けてしまう。
「あっ……」
しまった。
セーラー服の少女と目が合ってしまった。
近い。とても近い。
俺は恥ずかしくなって、顔をそらそうとした。
だが、セーラー服の少女は俺が顔をそらすより前に、なぜかにっこりと微笑んだ。
「────っ」
思いの外、可愛い笑顔だった。
そんな笑顔を至近距離で見たせいで、俺の心臓の鼓動は早まっていく。
心なしか、顔も少し熱くなっているような気もする。
「あ、あの…… 何でそんなにこっちを見てくるのかな? もしかして知り合いだった?」
俺は赤くなった顔が夕日で誤魔化されていることを祈りながら、そう質問をすると、セーラー服の少女はポニーテールを揺らしながら、首を横に振った。
そして、またにっこりと微笑みながら、
「いやいや~、違いますよ? お兄さんと私は初対面ですよー。
なぜか、俺の名前を口にするのだった。
「え……?」
熱くなっていた顔が、さあっと血の気が引いていく。
さっきとは違う理由で、俺の心臓の鼓動もさらに早まった。
「な、なんで俺の名前を……まさか……」
嫌な予感が頭をよぎる。
「ふふ……」
少女は青ざめる俺を見ながら、またにっこりと微笑んだ。
そして────
「それとも、こう言ったほうがいいですか?
俺の嫌な予感は的中し、セーラー服の少女は
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