8-7

 通路を戻り、教会へ戻る。半壊した礼拝堂には疲労しきった兵士たちが戦いを終え腰を下ろしていた。術者のヴァレンシュタインが消滅し、死者の軍団は動きを止め、朽ち果てていた。

「見ているだけで疲れるな」とエリオット。

 負傷した兵士の顔に笑顔はない。僅かな灯りで象られた明暗で浮かぶ表情は険しい。

 エリオットは思わず倒れこむ。

「しっかりしろ」

 アンナが肩を貸した。誰も二人のことには気づいていないようだった。

「せめて雨が止めばな」

 エリオットは言った。

「この程度なら明日には止むだろ」

 アンナはゆっくりとその場にエリオットを座らせた。瓦礫は濡れていた。

「お兄様、誰か人を呼んできます」

 止めようとしたがカテリーナは走り去ってしまう。

「元気そうだ。よかったよ」

 エリオットは言った。

「人質になっていただけだからな」とアンナ。

「そんな言い方はないだろ。あいつはあれで俺たちの見えないところでは結構頑張ったはずだ」

「妹は自慢か」

「もちろん」

「少し休んだから行くぞ」

「ニュルンベルクか。長旅は明日にしてくれ」

「違う。皇帝のとこだ」

「何だよ。文句でも言うのか」

「お前は皇帝を何だと思ってる。素晴らしいお方だろう」

「あんたからそんな言葉が聞けるとはな。反骨の人かと思ってた」

「金をせびりに行くんだよ」

「あんたも元気そうだ」

「私たちは街を救ったんだぞ。権利はある」

「確かにな」

「偉そうにほざくな」

 エリオットはアンナに身体を引き上げられた。「行くぞ、怠け者」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る