7-3
「駄馬じゃないな」
兄弟から奪った栗毛の馬に跨ってエリオットは言った。
「悪くない。だが下の中ってところだな」
アンナは走り出した。黒い馬だった。二人は走り出す。
「名前は?」
並走しながらエリオットは聞いた。
「もうつけない」とアンナ。
「俺にからかわれたからか?」
「違う。私の主義がかわったからだ」
「ここからフライブルクまではどれくらいだ」
「普通なら九日」
「どうせ強行するんだろ」
「この馬は潰す。後のことは考えないで走るぞ。三日だ」
「潰さない馬があったかね」
速度を上げた。
「けど、ヴァレンシュタイン卿はどうしてフライブルクに行ったんだろうな」
「帝国議会に用事があるんだろ」
皇帝と七人の選定が集まる議会だ。そこで帝国の全てが決まる。
「けどあいつが警備に当たるわけでもないし、招待でもされたのか?」
「さぁな。ニュルンベルクの名士だ。誰かに誘われてもおかしくない。だが大事なのはそこじゃない。状況の回復だ。フライブルクに行ってヴァレンシュタインに話をつける。このままじゃ一生ニュルンベルクには戻れない」
「どう話をつけるんだよ」
「お前は私と一緒に行動して何を見てきた?」
「暴力と支配」
「よろしい」
「おい、あんたまさかヴァレンシュタイン卿に暴力を?」
「財産の為だ。誘拐でも何でもする。先に仕掛けてきたのは向こうだ。こっちに理がある」
「確かにヴァレンシュタイン卿は俺たちを嵌めた。だけど相手はドミニクの親父みたいな職人じゃないんだぞ。街の大物だ。それを誘拐だなんて」
「誘拐はあくまで選択肢の一つだ。まずは見つけ出して非常に穏便な話し合いだ」
「穏便ね。つい昨日は失敗したけどな」
そうなるとは思えない。
「どうしてこんな状態になったのかお前も理由を知りたいだろ」とアンナ。
「まぁな」
「それを知れば何かお互いにとって有益な解決方法が浮かぶかもしれない。お前も私もニュルンベルクじゃお尋ね者だろう。財産だって差し押さえられる。名誉の回復をして市民の権利を取り戻す必要がある」
「なぁ――」
エリオットは言った。
「なんだ。簡潔に喋れ」
「俺はケルンに旅立つ前、ヴァレンシュタイン卿にあること命じられた」
「私に秘密か。お前は裏切り者だったのか」
アンナは手綱を引いて馬を止める。エリオットもだ。二人は対峙した。
「裏切ってない」
「それを判断するのは私だ」
「俺はただ命じられただけだ」
「だから何をだ。さっき簡潔に喋れといったのが聞こえなかったのか?」
「言う。言うよ。言う気になったのだって、あんたを信用してるからだ」
「さっさと言え、のろま」
「俺はあんたを殺せと命じられたんだ」
「お前はなんて答えた」
「もちろん喜んでって」
「嘘を吐け。お前にそんな度胸はない」
強張っていたアンナの表情が崩れた。
「あぁそうだよ。曖昧に濁した。だから今でも一緒に行動してる。で、この有様だ」
「ヴァレンシュタインは惑星の書を回収し私を殺す気だった。だが、その後雇った強盗二人を差し向け、さらにニュルンベルクではお尋ね者までにして抹殺を計っている」
「あんた相当嫌われてるな」
「お前もだ、馬鹿者」
アンナは馬の横っ腹を蹴り走り出す。
「何かわかったのか?」とエリオット。
「何もわからないね」
だがエリオットにはアンナが何かに気づいていることはわかった。
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