4-2

 ケルンとニュルンベルクの中間地点。フランクフルトの手前についた。

「市内には入らないのか?」

「入場料がかかるだろ。ここに泊まる」

 街道沿いの居酒屋は宿屋を兼ねていることが常だった。隣の小屋に馬を繋いだ。

「それじゃ明日で残り半分を行くのか?」

「だったら?」

「いや、別に。なんていうか、もう俺にはこれが夕焼けなのか朝焼けなのかもわからない」

 一日と半日走り続けた。エリオットは日にちの感覚が曖昧になっていた。

「これは夕焼けだ。ボケ」

「よくわかるな」

「何度も見てる」

 アンナは居酒屋に入る。「部屋を借りるぞ。食事もするし酒も飲む」

 エリオットはもう一度、赤く染まった空を見た。

 やはりどちらかわからない。


   ■


 街道沿いの居酒屋にあって、アンナの容姿は際立つ。男装風の装いだが、身体の線は細く、顔立ちも整っている。店にいるのは近隣の村に住む男たちに、ゴロつき、職に溢れた傭兵、男共に連れられて来た娼婦たちだった。

 扉を開けて入るなり、エリオットとアンナは注目の的になる。

「歓迎されてはいないな」とエリオット。 

 一挙手一投足を監視されているような気分だった。

「大歓迎の間違いだろ」

 アンナはそのまま真っ直ぐ歩き、席に座る。エリオットも続いた。

「ドミニクらしき姿はないな」

「先回り出来ているか」

「知るか。それよりも腹ごしらえだ。金を払ったタイミングでここの亭主にドニミクについて聞いてみる」

 確かに金を受け取った後に、質問されちゃ邪険には扱えない。アンナはその辺をよく心得ている。

「注文は?」

 亭主が注文をとりに来る。豚のように丸々と太った男だった。着ている上着がのボタンが今にも飛んでいきそうだった。

「ワインを一本。それにチーズと肉。ウサギの肉を頼む。よく焼けよ。パンとバターも欲しいな」とアンナ。

「ニンニクもいる」

 エリオットは付け加えた。

「貧乏臭い」とアンナが言う。「そんなもんよく喰えるな」

 周りの男どもは結構な確率でニンニクを齧っていた。

「ウサギは今ねぇな。豚ならある」

 アンナの悪態のせいか、主人の愛想も悪い。

 エリオットは微笑みを浮かべて、周りの人々に敵意がないことを伝える。

「犬猫の肉じゃなけりゃなんでもいい。ワインは水で薄めるな、すぐにわかる。濃い奴に香辛料をたっぷり入れて持ってこい。その分、金は出すから。あと二階に部屋を借りる。どうせ空いてるだろ?」

「一晩二十クロイツェルだ」

 一グルテンが六十クロイツェルなので、相場どおりの値段だった。

「それでいい。早く料理を持ってきてくれ」

 エリオットもそれには同意見だった。腹が減っている。

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