第3話 俺と自己紹介と全裸とラッキースケベ


「美味しかった! ありがとう!」


 ちゃんとお礼の言える幼女だった。良い子だな。


「もっとある? あるなら出して!」


 前言撤回。厚かましい奴だった。


「もう無いぞ」


「う、嘘だ! そんな! あんまりだ!」


 そんなこの世の終わりみたいな顔されてもだな。

 さっきまでひんひんを鼻を鳴らして泣いてた割に元気じゃないか。


「お前、こんな所で何してたんだ?」


 良く良く見るとこの少女、とんでもない格好をしている。

 全裸にカーテンのような薄い布のみ。

 え? まさか本当に事件なの?

 俺とんでもない事に巻き込まれてない?


「逃げてきたの! ちょっと説明し辛いことがいっぱいあって何から話せばいいものか」


 事件だった。

 お、落ち着け俺。

 落ち着いて110番。あ、スマホ家に置いてきたんだった。充電中だ。

 すぐ戻る予定だったし。


「ここでセリーナと落ち合う予定だったのに、待てど暮らせどセリーナは来ない……。勝手に移動したら絶対怒られるし、でもお腹空いてるし、でもここどこか分かんないしでもう妾大混乱!」


 そんな明るく言う話かソレ。


「わかった。そのセリーナさん? その人が来るまでは一緒に居てやるよ。でもその前に俺は一回家に戻るぞ。ここから近いから心配すんな。家から飯と服も持ってきてやるからちょっと待ってろ」


 ついでに警察にも通報しておこう。もちろん五寸釘とか玄翁げんのうも片ずけてだ。

 

「ま、待って」


「ん?」


 戻ろうとした俺のジャケットの裾を女の子が掴む。


「こ、恐いから、行かないで欲しい」


「すぐ戻るって。マジで10分かかんねーから」


 往復で15分ってとこかな? 本当なら連れてった方がいいんだろうが親に見つかった場合上手く言い訳できる自信が無い。


「急いで来るからさ」


「わ、わかった。でも本当に戻って来るんだぞ? 絶対だぞ? えっと、名前はなんて言うんだお前」


 ああ、そういや自己紹介してなかったな。


「俺は槌谷。槌谷透つちやとおるだ」


「トール? 雷神か?」


 ん? 北欧神話か? 少しなら知ってるけど。お前良く知ってたな。


「妾はセンティエール」


 その真っ平らな胸を張り、右手を当てて名乗る幼女。


「センティエール・アブルルスカ・カーマイン・オーダイングル・レィ・グランバニエルだ。親しみと愛を込めてセンティエール様と読んでくれ」


 様付けのどこに親しみと愛を感じろと。

 やはり外国の子か。この名前ってどこの国の名前なんだろう。

 てか長い。長すぎて覚えられない。


「ごめん。覚えられなかったからもう一回」


「はぁ、ダメだなお前。女の名前ぐらい一回で覚えられないとモテないぞ? ただでさえモテなさそうなのに」


 うるさい。

 今の俺にそう言う話題をするな。


「いいか? センティエール・アブルルスカ・カーマイン・オーダイングル・レィ・グランバニエルだ」


「えっとセンティエール・アブルルルル?」


「ルが二つ多い! センティエール・アブルルスカ・カーマイン・オーダイングル・レィ・グランバニエルだ!」


「センティエール・アブルルスカ・カーマイングル?」


「その次の名前と混ぜるなよ! センティエール・アブルルスカ・カーマイン・オーダイングル・レィ・グランバニエル!」


「セブンセンシズ?」


 君は小宇宙を感じたことがあるか?


「バカにしてるだろ! なんだよそれ! さっきまで言えてたじゃんそこ!」


 あーもう。覚えられるわけないだろ!


「センな!」


「諦めるなー!」


 プンプンと怒る全裸カーテン銀髪褐色幼女。あ、ヤベェ。ちょっと面白くなってた。

 危ない危ない。ロリに目覚めるとこだったぜ。


『暁の魔王を発見しました。これより捕獲行動を開始します』


「ん? なんか言ったか?」


「妾? 何も言ってないけど?」


 あれ? おかしいな。


「暁の魔王とかなんとか」


「妾の事だけど、なんで知ってるの?」


「いや、知らないけれど」


「なんだ。おかしな奴だなトールは」


 今のお前の状況よりはおかしくないけどな。


『行動第一原理に従い、全魔術兵器の使用制限を解除します。さらにモーブル魔術伯爵の命令権限が上位に。対女性用性的拷問兵装を解除します。命令権限を再認識。優先順位が暁の魔王の捕獲から対女性用性的拷問兵装の試験運用へと移行』


「なんだそのキツめのエロ漫画みたいなおっかない名前」


「エロ漫画ってなんだ?」


「お前は知らんでもいい」


 対女性用性的拷問とか何それおっかない。

 今はいろんな権利団体が居るからそんな名前出したら一発アウトだよお前。


 あれ、お前? 誰の事だ?


『全兵装の正常動作を確認。これより第十八魔法兵団所属、型式番号44326号砂巨人サンドゴーレム転移世界対応実験型、作戦行動を開始します』


砂巨人サンドゴーレムとかまたまたー。アルフィオナ聖王連合国の最新兵器じゃんそれー」


「なんだそのサンドゴーレムって」


「砂で出来たゴーレムだ。岩のゴーレムと違ってとても柔らかい上に、壊れても砂だからすぐに再結集して復活するって言うとんでもない兵器。核の部分のエメトって書かれた魔術回路を壊さない限り活動を停止する事が無いーーーーーー」


 突然、おばけの木が爆発音と共に大きく揺れた。


「ーーーーーーへ?」


「ーーーーーーえ?」


 おばけの木が、ゆっくりと倒れてくる。

 

 俺達の方へ。


「う、うわわわわわっ!」


「ば、馬鹿! 逃げるぞっ!」


 あたふたしてる場合か!


 反射的にセンを抱き上げて走る!


 こっちに倒れてくるって事は、横に逃げれば!


「んぎゃーー! なになになにー!?」


「うるさい耳元で騒ぐな!」


 混乱して目をぐるぐると回すセンがギャースカギャースカ煩くわめく。

 キーンってするからやめて!


「ふぎゃ!」


「だぁっ!」


 全速力で走るが、センの体重分で重い上に足元がゴロゴロした整備されていない土なもんだから盛大にコケた。

 そのまま茂みにダイブ。


「痛い痛い! 枝が刺さるぅ!」


「あっ! こら暴れんなっ! 服が引っかかっちまうだろうが!」


 寒いからそれなりに着込んで来ているせいで、ジャケットの裾とか襟とかが枝に引っ張られて身動き取れない!


「あうっ! んにゃっ! あふぅっ!」


 何だ奇妙な悲鳴を上げながら、ブチブチだったりバキバキだったりと言う枝の折れる音と共に地面にもつれ込んだまま倒れる俺とセン。


「ふぎゃあ! お尻と背中が痛い!」


 しこたま背中と尻を打ち付けたセンの声に少し遅れて、大きな地響きが周囲に鳴り響いた。

 どうやらおばけの木が完全に倒れたようだ。

 あっぶねぇ。 いきなりなんだよ。


「いつつつ……。おい、大丈夫か?」


 センに覆いかぶさりながら、上体を起こす。

 目の前に涙目のセンの顔。

 葉っぱとか枝とかがくっついていて、その綺麗な銀髪がボサボサだった。


「うぐぐぐっ、だ、大丈夫なわけあるかぁ! 色んな所が痛いわ!」


「俺に怒るなよ」


 助けてやったってのになんて言い草だ。


 って、あれ? なんだか右手がとっても柔らかい。


 プニプニっていうか、ふにふにって言うか。

 ツルツルした感触。指と指の間にコリコリした小さな物体。


「あ、お前」


「へ?」


 視線をセンの顔から下へと移す。

 あ、さっき倒れた時に枝に持って行かれたのか。


 お前の体に巻きついていたカーテンっぽい布。


「なに見てる? っていうか、胸がなんか重たーーーーーー」


 センが俺の右手を見る。

 呆けた顔でしばらく眺め、目を見開いてゆっくりと俺と視線を合わせた。



「あ……ば、なに、して」


 パクパクと口を開け閉めしながら、その顔がこの薄暗さでもわかるほどに赤面していく。


「悪い悪い」


 胸、触っちまった。

 俺の右手の平が思いっきセンのそのうっすい胸に置かれている。

 

 今のセンの姿は完全に真っ裸。

 生まれたままのネイキッドボディ。フラットにしてシンプル。

 凹凸の無い幼児体型を全て晒している。


「ん」


 ん?


「んぎゃあああああああああああああああっ!」


 うわっ! うるせえ!


「変態変態変態変態! ちちち、父上にも触られたことない妾の胸を! こっ、この無礼者無礼者無礼者ぉ! うわぁあああんっ! 助けてセリーナ! 妾こんな薄暗い森で犯されるぅ!」


「お、おかっ!?」


 お前何叫んでんの!?


「人聞きの悪い事言うなよ馬鹿野郎! お前みたいなガキに欲情するわけないし! しててもこんな場所で同意もなく行為を強要するわけないだろっ!」


「ひ、ひぃっ! 性欲にギラつかせた獣のような目で妾を見るなぁ! 妾汚されてる! モテない男子の劣情が妾の体を舐め回すように汚してるぅ!」


 いい加減にしろよこの野郎!

 モテないは余計だろうが!


『状況の水晶録画を開始。映像を最優先で保存します』


「え?」


 真っ赤な丸い光が、俺の顔の横に現れた。

 その光は上下左右に動きながら、俺とセンを交互に観察していた。


『対象に勧告。私の事は気にせずに続けてどうぞ。我が主人は婦女子を無理やり手篭めにする事に強い関心を持っておられます』


「やっぱりだ! 男はみんなケダモノなんだ! 怖いよぉ、嫌だよぉ」


 いやいや、センさん?

 なんかそれどころじゃないっぽいぞ?


「おい」


 顔を赤い光の玉に向けたままセンに声をかける。


「うぐううううっ、今の妾には抗う術は無い……。だが妾とて誇り高きグランバニエル王家の者だ! たとえ体が無体に蹂躙されようとも心までは絶対に屈したりなんかしないぞ! ヤるならヤれぇ! あとで絶対後悔させてやるからな! ユウとユカに頼んでできるだけ惨めに惨たらしく殺してやるんだからな!」


 目を閉じて俺から顔を背けながら、悲壮感をまとって涙を流すセン。

 一人で変な覚悟決めてる最中で悪いんだけどさ。ちょっと戻って来てくれないかな。


「おいってば!」


「なんだよぉ! まだ妾の苦しむ姿が見たいのかこのサドやろーーーーーー」


 カッと目を見開いて俺を見るセン。

 ようやく俺の視線が自分に向いてない事に気付いたのか、首を動かす。

 赤い光の玉。

 その全容が、早朝の薄暗い日光に当たって姿を現した。


『対象に勧告。行為ーーーーーーもとい状況の継続を要求します。我が主人は激しければ激しいほど喜びます』


 何だかとってもザラザラした肌を持つ人型の何かが、俺とセンを見ていた。



 正座して頭を下げ、食い入るように。

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