十七 古龍帝の庭園。

 龍の目ドラゴンズ・アイの一つを奪い返し、キャンプ地へと戻って来たカリン達一行。えっち方面の敏感肌の呪いを掛けられたエリザ王女の体力回復を待って、明日にでも出発しよう。と、いう運びになっていました。


 そのエリザ王女は現在、黒龍が何処からともなく出したテントの中で、よがり狂って消耗した体力を回復する為に、深い、それは深い眠りに就いていました。どれくらい深いかというと、敏感になっているナイスバディにイタズラをしても起きない。くらいに爆睡状態でした。


「それじゃ行ってくる。夕方くらいまでには戻れると思うから」


「分かったでち。気を付けるでちよ」


 お店のマスターはカリンに応えると、ウルス族のブルーインと共に、森の中に消えていきました。


「彼はどちらへ行かれたのですか?」


「世話になったウルス族に、お礼がしたいそうでち」


 彼等には後々遺恨を残さない様に、ラッテ族のミイに護衛に付けて、極力戦闘には参加させませんでした。甘い蜂蜜を分けて貰った事もあり、じゃあ、蜂蜜たっぷりのスイーツをご馳走しようじゃないか。と、いう事に相成ったのです。


「シルビア。どうでちか? エリザの様子は……?」


 テントの中から出てきたシルビアに、エリザ王女の容体を尋ねます。今回、エリザ王女のお世話をシルビアが買って出ていました。


「うん、触れるとピクピクしてすっごく可愛い。時々うなされてるみたいだけど、怖い夢でも見てるのかな?」


 それはあなたが触るからです。


「シルビア。あまり変な事はしないで、しっかりお世話を頼むでちよ」


「まっかせて。メイド時代に培った経験を生かして、お世話をするから」


 そう言うシルビアにカリンは、メイド時代は落ちこぼれ寸前だったじゃないか。と、思っていました。


「あっ、そうだ。汗掻いてるから身体拭いてあげなきゃ」


 触れれば快感が走るエリザ王女の身体に、そんな事をしたら一体どうなるか? 安易に想像がつきます。


「だから、ソッとしておいてやるでちよ」


 カリンは深い、それは深いため息を吐いたのでした。



 陽が沈む頃には、体力が回復して起き上がれる様になったエリザ王女ですが、お外は危険がいっぱいですので、テントの中に引きこもっていました。


「んぅ……」


 吹き込んだ風が肌を舐め、王女は小さく喘ぎます。その風を起こしたのはシルビアでした。


「お姉様。お食事をお持ちしました」


「ありがとう……」


 色々と食事が乗った木製のオボンをコトリ。と、置くシルビアに、エリザ王女は礼を言ってスープに手を伸ばします。


「(あれ程お元気だったお姉様が、こんなに落ち込んでいるなんて……)」


 エリザ王女の姿を見てそう思うシルビアですが、実際はスープを口にする為に集中している所です。何しろ、風が触れるだけで感じてしまう敏感肌ですので。


「……大丈夫ですお姉様」


「へ? ひゃうっ!」


 落ち込んでいると勘違いをしたシルビアが、ダンッ。と、床に手を着きます。その所為で風がフワッと王女の腕を嬲りました。


「きっと私が治して差し上げます。それが無理なら一生面倒を見ます!」


 言いたい事を言ってテントから出てゆくシルビア。面倒を見る。と、言うのなら、こぼれ落ちたスープをどうにかしろよ。と、エリザ王女は思っていたのでした。




 そのテントの外では、黒龍とミュウ。ウルス族にスイーツをたっぷりとご馳走して戻って来たお店のマスターとで、今後の渡航プランを練っていました。


「ここからですと、古龍帝様の棲まう庭園まで一日と少しですね」


「一日とちょっとか。あんな状態の姫サンは保つかな……?」


 一日どころか一時間も保たないと思われます。


「ミュウ。風を防げる様なモノってないでちか?」


「風を防ぐモノですか……」


 うーん。と、考え込むミュウを見るに、そういったモノは無さそうです。魔法抵抗力が最も高く、硬いウロコで覆われるドラゴンですから、防御方面はザルなのです。


「あ、アレはどうですか?」


 ミュウの指差す方向に皆が視線を向けました。その先には、エリザ王女が引きこもっているテントありました。


「アレを黒龍の背に乗せて、金具を打ち付けてロープで固定すれば良いのではないですか?」


「ちょ、それじゃ私が痛い目をみるじゃないですか!?」


 そもそもウロコが硬すぎて固定用の金具が打ち付けられませんし、テント自体音速飛行に耐えられる訳がありません。


わたくしを置いて行って下さい」


 背後からの声に振り向くと、テントの中に居たはずのエリザ王女が立っていました。


「姫サン!?」


「お姉様!?」


「ダメでちよエリザ、中に居ないと」


 ふよっ。と風が漂い、エリザ王女はその身を震わせます。


わたくしの身を案じて頂けるのはとても喜ばしい事ですが、優先すべきは世界の平和です。一つは取り戻したとはいえ、何時奪われるとも限りません。一刻も早く安全な場所に送り届け、残りの一つを手に入れて下さいませ」


 そう言って微笑むエリザ王女。ですが一同には、どこかムリをしてる様にしか見えませんでした。


「そういう訳にはいかないでち。古龍帝の元に行くのは、エリザの呪いの解呪も含まれているのでちよ」


「そうだぜ姫サン。オレ達は共に旅をする仲間じゃないか。苦労は共有するもんさ」


「お姉様が居ない旅なんて考えられませんっ」


「オマエのチカラは役に立つからな。こっちのポンコツと違ってな」


「なによぅ、私はポンコツなんかじゃないよっ」


 ミュウの物言いにシルビアは反論しますが、実際ポンコツです。


「みなさん……」


 一同から暖かい笑顔を向けられて、感極まって涙腺が緩んだエリザ王女。


「ありがぁぁんふぅっ!」


 びゅっ。と吹いた風に、ナイスなバディを小刻みに震わせてその場に崩れ落ちたのでした。




 痙攣を繰り返すエリザ王女をテント内に収容して、再び協議が始まりました。王女を黒龍の角に括り付ける案。ミュウの冷凍魔法でコールドスリープさせる案など、いくつかの案が出ましたが、どれも却下となりました。


「私が口の中に入れて運びましょうか?」


「やめとけ」


 黒龍の提案に、ミュウが即座に突っ込みました。生暖かい息を吹きかけられて、王女が悶える事請け合いですし、それにゴクリ。と、飲んでしまったら、大惨事になります。


「ねぇ、アレはどうかな……?」


 シルビアの指差す方向には、例の行為室がありました。


「アレをどうするつもりでち?」


「ん? アレにお姉様を乗せて、黒龍さんが持っていけば良いんじゃないかな?」


「しかし、黒龍さんの飛行に耐えられるでちかね?」


「私が一緒に乗って、結界を張れば問題無いと思う」


 シルビアの口からトンでもない言葉が飛び出しました。


「結界が張れるのでちか!?」


「あー、カリンまでバカにして。それくらいなら出来るよ」


「しかしシルビアちゃん。一日ちょっとも結界を維持出来るのかい?」


「あ、それはムリ」


 ムリなんかい! っと一同からの総突っ込みを受けたシルビアでした。


「でもね。ちょっとした秘策があるから大丈夫だと思うよ」


「秘策……?」


「何でちか? ソレは?」


「えっへっへぇ。それはねぇ……」


 一同はシルビアの秘策とやらに、ゴクリ。と唾を飲んで前のめりになりました。


「ひ、み、つ」


 シルビアの勿体ぶった台詞に、一同はコントばりのズッコケを披露したのでした。


「……まあ私も、掌の中に入れて極力風が当たらない様にしますよ」


「そうしてくれると助かるでち」


 こうして、渡航プランが整った(?)カリン達は、タップリと休養を取って運命の島ディスティニー・ランドを後にしたのでした。




 陽の光を背に受けて、太陽から逃げる様に海の上を疾走する影がありました。影は瞬く間に通り過ぎて、水の柱がその影を追う様に立ち昇ります。カリン達一行を乗せた黒龍です。


 現在黒龍の背には、カリンとミュウ。それとお店のマスターが乗っていて、エリザ王女とシルビアは当初の予定通りに行為室に入って、黒龍の掌の中にいました。運命の島ディスティニー・ランドを出立して約一日。もうそろそろ目的地が見えてくるはずです。


『見えました』


 黒龍の言葉に、カリンは目をすぼめて前方を伺います。


「何処でちか?」


 『古龍帝の庭園』などと云われるくらいですから、お屋敷の庭の様な場所を想像していたのですが、空と海とを分かつ真一文字の水平線が見えるだけで、そんなモノは何処にもありませんでした。


「お、おい黒龍さんよ、アレは何だ?」


 目的地に近付くにつれ、お店のマスターは気が付いた様です。


「アレ?」


「ああ、海の上に黒い点が有るんだよ」


 カリンが再び前方を伺うと、お店のマスターが言った通りに海の上に黒い点があるのを確認しました。


「なんでちかアノ黒いのは……?」


『ああ、アレは奈落の穴アビスホールですよ』


「アビスホール……?」


『ええ、大昔に神と魔王が戦った事はご存知でしょう?』


 それは神話の中の伝説とも云われる程の大昔にあった出来事です。


『その時に、魔族に加担した龍王派の連中を封じ込めている牢獄です』


「そんなモノがこんな所に……」


『気を付けて下さいね。堕ちたら二度と陽の目を見る事は無いですから』


 黒龍の言葉にカリン達はゴキュリ。と唾を飲み込みました。下を伺えば、吸い込まれそうな感覚に落ち入ります。


「黒龍さん。肝心の『古龍帝の庭園』が見当たらないのでちが?」


「まさか、あの中って事は無いよな……」


 お店のマスターは再びゴギュリ。と、唾を飲みました。


『いえいえ、古龍帝様の庭園は上ですよ』


「「うえ……?」」


 言われてカリンとお店のマスターは上空を見上げました。しかし、得体の知れないナニカが何処からか垂れ下がっているだけで、それらしき庭園は見当たりません。


「変な蔦があるだけだぜ?」


『その蔦の先にあるのですよ』


 カリン達は再び上空を伺いますが、雲一つない水色の空が見えるだけで、それらしき浮遊物は見つける事は出来ませんでした。それもそのはず、『古龍帝の庭園』はここから約五万ルメト上空にある空中庭園なのです。カリン達の目には見えないのも当然といえました。その頃のシルビア達は――


「お姉様。私がお姉様をお護りします。どうか安心して身も心も私に預けて下さいね」


「ぁ……ぅ。くぅんっ! も、もぅやめて……おかしくなっちゃうからぁっ!」


 何故か抱き合ってました。


『さあ、しっかりと掴まっていて下さい。イきますよっ』


 黒龍はバサリッ。と、翼を羽ばたかせ、上空へと駆け上がってゆきました。


 黒龍が上昇を開始してからしばらくすると、当初細かった蔦も段々と太くなり、その先にはあるモノ浮いているのが見えました。


「アレは、木でちか……?」


「かなりデカイぜ……」


 この木は一体何なのだろう? と、カリン達は気になっていました。海面近くにまで伸びていた蔦は、どうやらこの木の根っこだった様です。


『アソコが古龍帝様が棲まう大樹です』


 その佇まいは某名作映画の中で出てきた、古代王国の空中都市が崩壊した後の大木の様でした。その頃のシルビア達は――


「我慢して下さいお姉様! 私だって怖いんですっ!」


「こんなの我慢出来ない、出る訳が無いぃん! ぁ、ああああ……」


「えっ!? お姉様?! お姉様ぁぁっ!」


 恐怖に駆られて王女にしがみ付くシルビアの所為で、意識を失っていたのでした。




 ペチペチ。


「んんぅ」


 小さな手の平が王女の頬を叩くと、艶かしい声を上げて身動ぎしました。


 ペチペチ。


「んぅ。もういや……何でもするから止めてお願い……」


 エリザ王女の寝言を聞いて、カリンはシルビアを見つめました。


「シルビアあんた一体何をしたんでちか?」


「え? 別に私はお姉様を励ましていただけだけど……」


 王女を励ます。どうやらソレがシルビアの秘策だった様ですが、敏感肌の呪いをかけられた人に対して抱き合って励ますなどもってのほかです。お陰でエリザ王女は悶えて何度も意識を失ってしまっていました。


「ん……ハッ! こ、ここは……?」


 目を覚ましたエリザ王女に、どうやら大事には至らなかった様だ。と、一同はホッと胸を撫で下ろします。キョロキョロ。と、辺りを見渡したエリザ王女は、直後に深いため息を吐きました。


「そうですか……わたくし死んでしまったのですね……」


「「「は……?」」」


 王女の突拍子も無い台詞に、一同は口をポカンと開けて唖然としていました。


「だってホラ。静かで何も無い場所。そして、何度も見たお花畑がソコに……」


 エリザ王女が指差す方向には、確かに綺麗なお花畑が存在していました。


「ここはあの世ではありませんよ。まあ、ある意味であの世ですけど」


 紛らわしい言い回しの黒龍です。龍達のこれからを思えばあの世と大差無いでしょうが、カリン達にとってはしっかりと現世です。


「え……? 死んでないのですか?」


「そうでち。誰も死んでないでちよ。ここは古龍帝の庭園でち」


「古龍帝の庭園……? あっ! 着いたのですね!?」


「あ、そうだ。姫サン、下は見ない方が良いゼ」


「下……? ヒッ!」


 見るな! と、言われればつい見てしまうモノ。お店のマスターが余計な事を言わなければ良かったのですが、反射的に見てしまったエリザ王女は小さく悲鳴を上げましたが、どこかいつもと違っていました。


「え……? アレって何です?」


「世界ですよ」


 まあるい青々としたオボンに指差すエリザ王女に、黒竜は端的に応えました。


「世界……ですか?」


「そうなんだ、オレ達はアソコの上で生活しているらしいんだよ。意外に小さいよな」


 五万ルメト上空から見れば、大陸も小さく見えるでしょうが、実際横断するとなると数ヶ月かかるような距離だったりします。


「え……? じゃあ、アソコから先はどうなっているのですか?」


 エリザ王女は、世界の外縁にある丸みを帯びた線を指差しました。普通に考えれば、その向こうにも海が在り陸が在るのが一般的です。が――


「ウラ面があります」


 ウラ面が在るようです。


「ウソ吐くな」


 ミュウが即座にツッコミを入れました。


「あの向こうには何も無い」


「無いのでちか?」


「ええ、ご主人様マスターが住んでいるこの世界は、丸いテーブルと同じです」


 どうやらこの世界は、大昔の人々が思っていた様な平面状の世界の様です。


「そういや姫サン。高い所はダメなんじゃなかったっけ?」


「へ……?」


 エリザ王女は素っ頓狂な声を上げました。


「そういえば、騒がないでちね」


「ささささ騒いでなんていませんわ!」


 いえ、凄く騒々しいです。


「言われてみればそうですわね……」


 エリザ王女は下を覗き込みながら、フム。と、顎に指の腹をくっ付けます。もしかしたら、高いのは苦手じゃ無くなったのかも。と、内心喜んでいましたが、実際は高さの実感がわかないだけで、治った訳ではありません。


「わっ!」


「ひぃぁぁふんぅ!」


 シルビアが、高い所から下を覗き込んだ時のお約束をしましたが、王女は一瞬驚いたものの、背中を触れられた所為で快感が全身を駆け抜け、悲鳴とも嬌声とも取れない声を上げてその場に崩れ落ちました。


「何してんでちか!」


「あいって!」


 カリンからゲンコツを貰ったシルビアでした。




 ギギギギ……。大樹の根元の隙間にある、大きな扉を押し開けると、古めかしい音を立てて扉が開かれました。扉から真っ直ぐに伸びた通路は薄暗いのですが、青白く光るクリスタルが所々に配置されているお陰で、明かりの魔法を灯す必要が無い程度の明るさがありました。


 奥にあるちょっとした広場に差し掛かったカリン達一行。カリンがふと上を見上げると、通路にあったクリスタル風照明の十倍以上は確実にある、大きな大きなクリスタルが目に止まりました。


「なんでちかこれは……?」


「ああ、これはフライ・ストンです」


 カリン達が見つめるソレは、飛ぶのか落ちるのかハッキリしない名前が付いた石でした。ミュウの話によれば、このフライ・ストンのお陰で、古龍帝の庭園は浮力を得ているのだそうです。まさに某名作映画に出てきた飛○石と遜色のない役割を持った石だったりします。ただし、兵器転用は出来ません。


「凄いですわね」


「ああ、こんなのがあったら色々と役に立ちそうだゼ」


 重い物を運ぶのにも役立ちますし、女風呂を覗くのにも役に立つ事請け合いです。


「夜空の空中散歩が出来るね。メルヘンチックぅ」


 夜空どころか星が見える位置にまで到達する事になります。ちなみに、『浮く』だけですので、下に降りるには自力で対処するしかありません。


 広場を抜けて少し進むと、カリン達の前に再び扉が立ち塞がりました。入口よりも若干小さいその扉の向こうからは、身体を貫く様な鋭く研磨された殺気がカリン達に向けて放たれていました。


「じ、じゃあ、私はこれで失礼しま――」


「マテ」


 その殺気に怖気づいた黒龍は、そそくさ。と、帰ろうとしましたが、ミュウに襟を捕まれて阻止されました。


「何ですか黄龍。邪魔をしないで下さい」


「一人だけ逃れられるとでも思うのか? 私は否が応でもご主人様マスターに着いて行かねばならん身だというのに」


「そんなの私には関係無いじゃないですか!?」


「いいえ、ガッツリと関係ありますわよ」


 背後から掛けられた声に、二匹の龍は石化した様に固まりました。カリン達が後ろを振り返ると、年の頃は十かそこら、サラサラな白銀の髪をツインテールにしているものですからそれ以上若く見えます。不思議の国のアリスを思わせる様なエプロンドレスに、手首には花のリストレットを付けた様相の少女でした。


「あれ? なんでこんな所に子供が……? お嬢ちゃん、何処から来たの?」


 カリンと大差ない身長ですので、シルビアがそう間違えるのも無理はありません。


「ばばばば、ばかものぉっ!」


 すぱこぉんっ! と、シルビアの後頭部を慌てた様子のミュウが叩きました。


「イった! 何すんの――って、スリッパなんて何処に持ってたのよっ!?」


 そのスリッパがとても良い音を奏でた事を明記しておきます。


「この御方をどなたと心得る! 我等龍の長、古龍帝様なるぞ!」


 ミュウの口から時代劇の名台詞が飛び出しました。龍の長。と、言うくらいですから、もっとおどろおどろしい龍の姿を想像していただけに、カリン達の驚きはハンパないモノでした。その少女はニコリ。と、微笑むと、カリン達の間を通って扉を開けます。


「黄龍、黒龍、ちょっといらっしゃい」


 笑みながら手招きする古龍帝。その姿は温もりのある和やかな表情なのですが、全身から放たれている気迫は全然和やかではありませんでした。凍り付いた様に硬直するミュウと黒龍に視線を向け、あ、これ死亡フラグ立ってね? と思うカリン達でした。


「部屋が散らか『る』から、あなた達はちょっと待っててね」


 言ってバタム。と、扉を閉めた古龍帝。部屋が『散らかっている』のではなく、これから『散らかる』のです。直後、この世のものとは思えない唸り声と、この世には何処にでもある謝罪の声が、カリン達の耳にも届いて来ていたのでした。

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