十三 メルヘンチックと中二病。

 古龍帝に会いに行くために、運命の大海原ディスティニー・シーを横断していたカリン達。エリザ王女やシルビア。お店のマスターの精神が発狂する暗黒面に堕ちる寸前で、大海原の孤島運命の島ディスティニー・ランドでご休憩と相成りました。


 ひとしきり遊んだカリン達一行は、夕食の食材を確保する為に、三班に別れて行動を開始。山班と海班はラッキースケベを連発しながらも辛くも食材を確保する事が出来ました。そして、森班のカリン達はと言うと……。



「もうすぐですよ」


 ガサリ、ガサリ。と、下草を掻き分けて進みながら熊のベアーは言います。彼の言う『すぐ』は一体どれ位の距離なのか見当もつきません。かれこれ三十分は歩いているでしょうか? カリンもだんだん不安になってきていました。


 時折、クワゥー。と、何の声か判らない鳴き声に、シルビアはビク付きながらもカリンの後をシッカリと付いて行きます。頑張って付いて行くのも、行先に甘いお菓子が待っているからです。そんなシルビアの頭の中は、蜂蜜仕立ての甘いお菓子の事で一杯でした。文字通りのハニートラップに引っ掛かっている状態です。


「さあ、見えましたよ。あの小屋です」


 やっと着いた。二人はそう思いながら、熊のベアーの大きな背中の陰からヒョイ。と、顔を覗かせます。ちょっとした広さの森が開けた場所に、一軒の丸太を組んで作ったログハウス風の小屋が見えました。しかし、カリン達が見えたのはそれだけではありません。


「おや? どうしたのでしょうか?」


 小屋の入り口に、熊のベアーと似た風貌の獣が二匹。内部を伺いながら佇んでいたのです。


「あっ! あんちゃん!」


 森の中から姿を見せた熊のベアーに向かって、小熊(仮)が慌ててやって来ます。


「我等がサンクチュアリィに、侵略者たる黒き天使が舞い降りた。彼の者はサンクチュアリィを闇に染めるつもりだ」


 同じく慌ててやって来た、中二病をこじらせた様な中熊(仮)が、香ばしいポーズを取りながら、訳の分からない事を言いました。


「どういう事?」


「まあ、見知らぬ誰かが小屋に居る。と言いたいのでちかね」


「して兄者よ。こちらの御仁は何者なのか……? ハッ、まさか! 我等の糧であるダーターを奪いに来たのか!?」


 中二病をこじらせた中熊は、ザザザっとカリン達から距離を取って、荒ぶる鷹のポーズを取ります。ただし、片足で立てていたのは数秒でした。


「落ち着けオルソ。ブルーインも怖がらなくて良いから」


 熊のベアーの足に引っ付いてブルブルと震えていた、小熊のブルーインの頭をベアーは撫でてあげます。


「あの、だーくまたーって何ですか?」


「ああ、すみません。コイツ昔から訳の分からない事をしょっちゅう言うもので……。コイツの言うダー熊ターとは、蜂蜜の事なんですよ」


 中二熊オルソの言う所のダークマターとは暗黒な物質ではなく、黄金色に輝いている蜂蜜の事だった様です。


「それで? 一体何があったのです?」


「だからさっきから言っている。我等が聖域に――」


 またしても、中二的な言葉を言い掛けた中二熊オルソ。しかし、ベアーの顔を見てビクッと顔を強張らせます。カリン達からはベアーの顔は見えませんので、一体何があったのか? と、不思議に思っていました。


「あのね。あのね。楽しみにしていたボクのハニーが食べられちゃったの」


 小熊のブルーインがシュンとして言います。そして、オルソと同じ様にベアーの顔を見たブルーインは、ビクッとしてダッと駆け出し、今度はカリンに抱き付きます。カリン達からは顔は見えませんが、その目に涙を浮かべている所を見るに、余程怖い顔をしている様でした。


「おのれ、我が花園を荒らすとは不届き千万。その首、掻っ捌いてくれるわ!」


 どうやらオルソの中二病はベアーが原因だった様でした。



 小屋の中は綺麗に片付けがされていて、テーブルの上には大中小のお皿が一つづつ置いてあります。大きなお皿には並々と蜂蜜が盛られていて、中くらいのお皿にはその半分くらいの蜂蜜が盛られていました。


「ね? ね? ボクだけのハニーが無くなっているの」


 小熊のブルーインが指を差しながら言います。確かに他のお皿に盛られている蜂蜜が、小さなお皿にだけ入っていません。


「我がダー熊ターも半分程に減っている。矢張り闇の者の仕業に違いない」


「して、主らは盗人を見たのか?」


「ううん。ボク達が散歩から戻って来た時は誰も居なかったよ」


 と、その時です。何処からともなくギシリ。とした音が聞こえてきました。


「寝室……か」


「のようでちね」


 ベアーは熊ですのでそれなりに耳が良く、カリンは探知で音の発生場所を特定していました。寝室のドアを開くと、大中小のベッドの小さい方に、誰かが横になって寝入っている姿がありました。


 ネズミの様な丸い耳に赤いリボンを頭に乗せている所を見るに、ヒトでは無いのは間違いはありません。しかし、ベアーの様にまんま獣の姿をしている訳ではなく、その姿は某テーマパークで良く見られる、少女がネズ耳カチューシャを付けている様なネズミっ娘でした。


「アレはネズミ男ラットマン……いや、ネズミ女ラットガールでちかね」


「おのれ、ふてぶてしい輩め。どう殺処分してくれよう」


 熊のベアーの中では殺処分確定の様でした。


「まぁまぁ。この娘にも何かしら事情があるみたいでちから、理由を聞いてからでも遅くはないでちよ」


 見ればネズミっ娘は、白い肌にいくつもの擦り傷があり血も滲んでいます。身体もあちこち汚れていて、何者かから必死で逃げて来た様子でした。



 ペチペチ。ペチペチ。小さな手の平がネズミっ娘の頬を叩きます。


「あんっ」


 ネズミっ娘は、色っぽい声を上げて寝返りを打ちます。


 ペチペチ。ペチペチ。


「ソコはらめれすぅ」


 何処がダメなのかは分かりませんが、とにかく色っぽい声で寝言を言いました。


「ボクがやろうか?」


 そう言って小熊のブルーインは、ネズミっ娘の上に馬乗りになりました。


「おお、アレをやる気だな……?」


「アレ……?」


 身体をネズミっ娘に密着させたブルーインは、なんとその身をブルブルと震えさせたのです。


「我等ウルス族に伝わる聖なる儀式。『早天の目覚め』だ」


「あっ。あああんっ!」


 ビクリビクリと身体を震わせながらネズミっ娘が悶えているのを見るに、聖なる儀式というよりは、性なる技巧にしか思えません。小熊のブルーインにその気は無いのでしょうが、ネズミっ娘はえっちぃな声を上げ続けます。


「これでスッキリと目が覚める筈だ」


 別方向に目覚めなれば良いな。と、カリン達は思っていましたが――


「…………もっと」


 手遅れの様でした。


「ハッ! な、何……? きゃあっ! 熊、熊! 熊ぁ!」


 目を覚ましたネズミっ娘は、ベアーの姿を見て慌てふためきます。目覚めて目の前に、獣ヅラが三つも覗き込んでいては、誰しも驚く事でしょう。


「オマエは何者だ?」


「ひっ!」


 ズイっと前に出た熊のベアーが、ネズミっ娘に問い掛けます。その強面な顔にネズミっ娘は小さく悲鳴をあげました。


「よくも、我等のダー熊ターを盗んで……ひっ!」


 今度はベアーの脇からスルリと顔を出して文句を言おうとした中二熊のオルソが、ベアーの睨み付けによって小さく悲鳴をあげます。


「まぁま。そう殺気立ってちゃ話も出来ないでちよ」


「ひっ!」


 取り敢えず場を丸く治めようとのカリンの言葉にベアーは、アアン!? 的な鋭い眼光をカリン達に向けて放ちます。まるでオーガーを彷彿とさせる様なその表情に、シルビアが小さな悲鳴を上げました。そのショックでちょろっと漏れてしまったのは内緒です。


「お客人。我等の掟に関与するおつもりですかぃ?」


 問答無用の殺処分。それがこの島のオキテなのです。


「わたちは言った筈でちよ。この娘には何かしらの事情がある、と。るんだったら理由を聞いてからにするでち」


 カリンとベアーの睨み合いに小屋がパンクするのではないか? と、思われる程の殺気が辺りに満ち溢れ、他の者達の背筋が凍り付き、冷や汗が大量に流れ出ます。そして、流れ出たのはそれだけではありませんでした。


あんちゃんストップストップ! ボクのベッドが汚れるからっ!」


 一触即発の状況を止めたのは小熊のブルーイン。二人の殺気に当てられた、未だブルーインのベッドに居座っているネズミっ娘が、下半身から生暖かい汗を流し始めたからでした――




「……私はラッテ族のミイと言います」


 水浴びを済ませ、スッキリして落ち着きを取り戻したネズミっ娘が言いました。ネズミのクセに猫みたいな名前が付けられていた事が驚きです。


 寝室からテーブルが置かれていた部屋に場所を変え、この部屋にはカリンとシルビア。熊のベアーと中二熊のウルスが椅子に座っています。小熊のブルーインは現在、ぶつくさと文句を垂れ流しながら汚れたシーツを洗い流していて、文字通りの洗い熊と化していました。ちなみに、ミイと名乗ったネズミっ娘は現在ノーパンです。


「一体何があったのでちか?」


「私がここに来た理由は……龍です」


「「龍!?」」


 カリンとベアーは声を揃えて驚きます。


「はい。今から二週間ほど前の事です。ラッテ族が住まう街に龍が降りてきたのです」


 空から降りてきのは女の子ではなく龍でした。カリンは頭の中でミュウと黒龍の姿を思い浮かべていましたが、二週間前という事で別件だろうと結論付けました。


「その背には大勢のヒトが乗っていて、その内の一人が地面に降り立ち私達に向かってこう告げました。『街を滅ぼされたくなかったら、発育の良い若い娘を我等に献上せよ』……と」


 カリン達は口をぽかんと開けて唖然としていました。


「一人、また一人と連れて行かれ、そして次は私の番。戻って来た人達にナニをされたのか話を聞いても、皆は口を紡ぎ視線を泳がせて頬を赤らめるだけ。私もう、怖くて怖くて……」


 顔を手で覆い、わあっと泣き出すミイ。何も言わずに、ただただニヤケ顔を作るだけの友人知人が、余程恐怖だったのでしょう。


「えーっと。何の話?」


 シルビアは彼女の話に付いていけないようでした。


「ナニの話でちよ」


 ラッテ族は確かに、人外ケモミミ愛好家には垂涎モノの容姿をしています。なにしろ彼女達は、ウルス族の様な獣寄りではなく人寄りの獣なのですから。ネズミですけど。


「いくら容姿が人に近いからって、欲しがるのもどーかと思うでちが……」


「お客人。我等には何の事かサッパリ分からんのだが……?」


「そうでちね。ウルス族には理解し難いと思うでち。言い換えればでちね……」


 カリンは椅子の上に立ちベアーに耳打ちします。途端、ベアーがモジモジとし始めました。


「そ、それは難儀であったな」


 コホン。と、咳払いを一つして、ベアーはミイに言います。


「だが別に良いのではないか? その……交尾するくらい」


 ベアーの言葉に、お茶を口に含んでいたオルソがブッと吹き出しました。


「……え? 交尾?! あれって交尾をしてたのですか!?」


 人寄りの獣とはいえ、うら若き乙女が交尾交尾と連発するのは如何なモノかと思われます。


「えっ、じゃあ、みんなのあの表情は……?」


 次の瞬間にはミイの顔が真っ赤に染まっていました。どうやらシナプスが繋がった様です。


「ダメ。ダメよミイ! 初めてのお相手は王子様って決めているんだからっ。そんな誘惑に負けちゃダメっ!」


 首を横にフルフルと振って、ミイの脳内から欲情をふるい落とします。未経験じゃ分からんわな。と、カリンは内心で思っていました。


「王子……様?」


「ハイそうです!」


 聞き捨てれば良いのにシルビアはわざわざ拾い上げました。お陰でミイは目を輝かせて、ソレに食い付いてきたのです。


「私は八兄妹の末っ子で――」


 基本ネズミは大家族です。


「兄様姉様達にいつも先を越されていて――」


 大家族故に生存競争が激しいのです。


「それを見兼ねた魔法使いが、私の元へやって来てこう言うのです。『お前に素敵なドレスをやろう。これを着てお城の舞踏会で息抜きして来るが良い』と。魔法使いが杖を振ると汚れた服が素敵なドレスへと変わるのです」


 ミイは目をキラキラと輝かせながら何処かで聞いた様な展開を口にしますが、もしも魔法使いが杖を振ったなら、彼女に与えられるのは素敵なドレスではなく、白馬か御者の役だと思われます。


「それで舞踏会に参加した私を王子様が見初みそめて下さって…………きゃああっ!」


 ミイは顔を真赤にしながら頬を手で抑え、イヤンイヤンと首を振りました。どうやらこのラッテ族のミイさんは、メルヘンチックな思想の持ち主の様です。


「そして、めでたく結ばれた私達。その結婚初夜に、私はベッドの上で正座をして王子様を待ちます」


 まだ続くんかい! と、ミイ以外の全員がそう思いました。


「どうやらそれでこの小屋にたどり着いた様でちね」


 ミイは未だ話を続けていますが、カリンは華麗にスルーして話を元に戻します。


「……オルソ」


「くぁー。ん? 何、にいちゃ……兄者よ。ひっ!」


 話に飽きて欠伸をしていたオルソは、ベアーの顔を見た途端に小さく悲鳴をあげました。


「出掛ける時は忘れずに。と、いつも口を甘く・・して言ってますよね?」


 蜂蜜が大好きな熊さんは、『酸っぱく』ではなく『甘く』なのです。


「何故鍵も掛けずに出たのですか?」


「だ、だって……十分くらいだったし、ウォーキングでお腹減らした方が美味しく食べられるし……」


「ちゃんと鍵を掛けていれば、こんな面倒に巻き込まれる事も無かったのに……」


 ベアーは深いため息を吐きました。それはカリンも同じ事で、シルビアが駄々を捏ねなければ、こんな事にはならなかったと内心ため息を吐きたい気分でした。しかし、ここへ来たからこそ、興味を引く情報が得られたともいえます。


「ミイさん。龍に乗ってきた一団とやらは、まだ街に居るのでちか?」


「――そして彼は私の耳元でこう囁くのです。『子供は九人欲しいな。それで野球チームを作るんだ』。って」


 話はまだ続いていました。現在は、明るい家族計画の部分に差し掛かっている様です。


「ミイさん! ミイさんっ!」


「きゃーっ、口に出すのも恥ずかしいって、え……? な、何ですか? 良い所なのに……」


 彼女にとって最高潮の場面だった様です。カリンに水を差されたミイは、プクッと少しだけ頬を膨らませました。


「龍に乗って来た連中は、まだ街に居るのでちか?」


「ええ、多分まだ居ると思いますが……」


「ちょっとカリン。何をするつもり?」


「話を聞いていて思ったのでちが――」


 カリンはミイが言う所の一団とは、魔王崇拝者達ではないかと思ったのです。もしそうならば、今までに奪われた龍の眼ドラゴンズ・アイを持っている可能性が高く、奪い返す好機ともいえました。


「だけどそれって、龍と戦う事にならない?」


 ミュウの兄でもある赤龍は、奴等に懐柔させられたとみていますので、その可能性はあります。


「別にわたち達が戦わなくても、龍は龍に任せておけば良いのでちよ」


 ニヤリ。と口角を吊り上げたカリンの顔は、悪役のソレでした。


「そっか。そうだよね」


 続いてシルビアも同じ顔をします。そんな事情を知らないベアー達は、首を傾げてカリン達を見ていました。


「お客人。先程から龍と言っておいでだが、その龍がどうかされたのか?」


「別に龍がどうこうでは無いのでち。龍を従えている奴等が問題なのでち」


 カリンは、かくかくしかじか。と、掻い摘んで話を聞かせます。


「何っ! 魔王だと!?」


 一番に食い付いたのは、言わずと知れた中二熊のオルソでした。


「この私を差し置いて、魔王を名乗るとは不届きな奴め」


「……アレ? オルソくんって正義の味方なんじゃなかったっけ?」


「う!」


 シルビアの鋭いツッコミに、中二熊のオルソくんが言葉に詰まります。彼はこの小屋を『聖域』と呼んでいましたし、侵入者の事を『黒い天使』とも言っていました。


「そそそ、それはその……正義は世を忍ぶ仮の姿でして――」


 オルソくんの中では、勇者達に色々と協力していたが最終局面で、実は自分が黒幕だと正体を明かす的な展開の様です。


「まあ、そんなのはどうでもいいでち。魔王が復活すれば、神様も黙っていないでち。聖魔戦争が再び起こって、この世は滅茶苦茶になるでちよ」


 神様と魔王の戦いは言葉では言い表せない程凄まじいモノだと、ミュウから聞いていました。この事が一同に伝わったのでしょう。室内はシンっと静まり返り、ゴキュリ。と皆が唾を飲み込みます。話を聞いていた筈のシルビアまでもが飲み込みます。


「そうさせない為にも、奴等から龍の目ドラゴンズ・アイを奪い返したいのでち。協力頼めないでちか?」


「協力。と、言われましても……」


「王子様。じゃないでちが、国王を紹介するでちよ」


「やります!」


 即答でした。


「ちょ、ちょっとカリン。良いの? そんな約束して」


 シルビアは口に手を当て、ミイに聞こえない様に囁きます。


「第一、誰を紹介するのよ? 国王様なんてエルフリートの王様くらいしか知らないわよ?!」


 アレ・・鰥夫やもお(妻を失くした男)ではありますが、娘を溺愛しているので無理かと思われます。


「何を言ってるでちか。居るじゃないでちか近場に王様が。黒龍でちよ」


 そう言ってカリンは、悪人の微笑みを披露しました。確かに黒龍は絶海の孤島、暗黒島と書いてハーレム島と呼んでいるあの島の主人みたいなモノですから、国王とも言えます。存在自体が獣ですので、ネズ耳くらいなら問題なく抱けるでしょう。ましてや、シルビア以上エリザ王女以下のグラマラスなボディは、あの男に好かれる筈です。


「そっか。そうだよね」


 シルビアもまた、悪人の微笑みを見せました。フフフ。フフフ。と、含み笑いを繰り返す二人を見て、ミイは首を四十五度に傾げていました。彼女の今後の人生が掛かっていますが、本人が乗り気なので問題はないでしょう。


「そんな訳でちからベアーさん、彼女連れてくでちよ」


「それは困るなお客人」


 熊のベアーは腕を――いえ、前足を組んでカリンを睨みました。


「この娘にはまだ、我等の糧を奪ったオトシマエをつけて貰わねばならぬのだ」


「そうだ! ボクのハニー返して!」


 洗濯を終えたブルーインが、部屋に入るなり言います。


「我のダー熊ターもだ」


 中二熊オルソも頷きました。ですが、糧だハニーだダー熊ターだと大層な事を言ってますが、ただのティータイムのオヤツです。


「もし、わたち達に蜂蜜を分けてくれるのでちたら、蜂蜜たっぷりのお菓子をご馳走するでちよ」


「「「どうぞどうぞどうぞ」」」


 不満を示していた三熊は、それは見事に声を揃えて言います。その姿は三人組のベテラン芸人の様でした。こうして協力者を得たカリン達は、強襲作戦を練るべくキャンプ地に向かったのでした。



 その頃の海班。


「あんっ。ま、マスターぁさんっ。コレ、凄いのぉ。びっくんびっくんしてて、私のアレ、壊れちゃうっ!」


「クッ! ダメだ姫さん。そん……なに動かしたらっ。お、折れちまいますよっ!」


「じゃあ、どうしたら……んっくっ! いいのぉ? もう止められないよぉ」


「うっ! きっつ。姫さんキツ過ぎますよ!」


「だぁってぇ、こうでもしないと抜けちゃうよぉ」


「ううっ! ひ姫サン。イキますよ」


「じゃあ私もイキますね!」


 お店のマスターが竿を勢い良く引き抜くと、バシャッ。と、潮の飛沫が顔に掛かりました。


「ふう。マスターさんのお陰で、こんなに大きいのが釣れましたわ」


 釣りの話です。

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